「マイルドセブン」は日米貿易戦争の“産物”だった 加熱式でも“旗印”に

経済インサイド

 トランプ米政権が鉄鋼や自動車への関税引き上げを矢継ぎ早に打ち出し、“貿易戦争”の波が日本へも押し寄せている。昨年、発売40周年を迎えた紙巻きたばこのベストセラー商品「マイルドセブン」(通称マイセン)が誕生したのも、日米貿易摩擦が背景にあったことをご存じだろうか。5年前にその名は「メビウス」へ変わり、日本たばこ産業(JT)の加熱式たばこのブランド名としても採用、海外メーカーとの激しいシェア争いを演じている。

 今を去ること半世紀前、JTの前身である日本専売公社は、たばこ市場の開放を求める米国の圧力の高まりを懸念。昭和43年策定の長期計画により、若手職員を海外へ派遣して商品開発やブランディング戦略を学ばせるなど、海外メーカーの国内参入を視野に入れた対応を加速させた。

 当時はたばこ専売制度のもと、輸入たばこには90%もの高い関税が課せられ、国産たばことの価格差が歴然としていた。そのため「ラッキーストライク」「マールボロ」といった輸入たばこ(いわゆる「洋モク」)は、「高級な舶来品」として珍重される存在だった。

 「高根の花だった輸入たばこの価格が市場開放によって引き下げられれば、消費者の目は一気にそちらへ向きかねない」。JTが運営する「たばこと塩の博物館」(東京都墨田区)の鎮目良文学芸員は、専売公社が当時抱いていた危機感をそう解説する。

 「そうした中で、いわば『洋モクに対抗する戦略商品』として開発されたのがマイルドセブン(マイセン)だった」という。

 マイセンの開発コンセプトは、「日本人好みの喫味」。香料を利かせたアメリカンブレンドの「チェリー」と、活性炭入りのチャコールフィルターを採用して味わいをすっきりさせた「セブンスター」の“いいとこ取り”が特徴だ。

 ブランド名は当時のベストセラーだったセブンスターにあやかって付けられたとされ、52年6月の発売当時は、パッケージのデザインもセブンスターにそっくりなものだった。

 一方、たばこ市場の開放をめぐっては、日米両政府が55年に関税引き下げで合意。60年に専売制度が廃止されてJTが発足し、62年には輸入たばこの関税がついにゼロとなった。

 そうした中、マイセンシリーズは日本を代表する銘柄に成長。JTの紙巻きたばこ販売量の約3割を占め、世界販売量は700億本を超える。

 たばこの害を柔らげるイメージのある「マイルド」「ライト」といった表示を禁じる海外ルールに対応し、名称は平成25年にメビウスへ変わった。

 現在、メビウスシリーズの紙巻きたばこは40商品。このほか、加熱式たばこ「プルーム・テック」専用のたばこカプセルもメビウスの名を冠している。

 デバイス(本体)とたばこ部分の商品名を区別しているのは、競合2社も同じだ。米フィリップ・モリス・インターナショナルの「アイコス」も、専用のたばこスティックは「マールボロ」、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコの「グロー」は同じく「ケント」を名乗っている。

 各社とも、たばこ部分に自社のトップブランドを冠している点から、シェア争奪への並々ならぬ決意が感じられる。ちなみにJTが25年発売した初代「プルーム」のたばこポッドには、メビウスの名が付けられなかった。

 26年発売のアイコスで人気に火が付いた加熱式たばこは、国内たばこ市場に占める割合が来年にも30%近くへ達する見込みだ。

 出遅れが目立つJTも、今年6月4日にはプルーム・テックの47都道府県への展開を完了。さらに、蒸気量を増やして満足感を高めるコンセプトのプルーム・テック改良版や、競合2社と同じ仕組みの「高温加熱型」の新製品も来年にかけて発売し、「加熱式のシェア40%を目指す」(寺畠正道社長)構えだ。

 その新製品には果たして、マイセンの伝統を受け継ぐメビウスの名が付けられるのか。海外メーカーからのシェア奪還を目指すJTが、どんなブランド戦略を打ち出してくるのかが注目される。(経済本部 山沢義徳)

 マイルドセブン 昭和52年6月に日本専売公社(現日本たばこ産業)が発売した紙巻きたばこで、当時のキャッチコピーは「白いベストセラー」。軽い味わいへ変わりつつあった喫煙者の嗜好(しこう)を狙った。

 同時期に登場した「キャビン」(53年発売)は“洋モクの雰囲気”を、「キャスター」(57年発売)はバニラフレーバーで個性を打ち出し、いずれも輸入たばこを迎え撃つ役目を期待されたという。

 マイルドセブンから改称されたメビウスのネーミングは、「MILD SEVEN」のMとSを受け継ぎ、Evolution(進化)のEとV、I(自社)と顧客のU(YOU)との絆を表現したという。