ハチの輸入拡大の背景→“泣きっ面にハチ”だった国内養蜂業者の悲運

経済インサイド

 花粉交配や害虫駆除に利用されるハチの輸入量が拡大している。東京税関によると、平成29年は前年比4.9%増の約348万匹となり過去最高を記録した。従来の殺虫剤が効かない害虫を駆除するための利用や農業参入する企業の増加で需要が伸びたことが主因という。ただ、その背景には国内養蜂業の“悲運”も大きく関係しているようだ。

 今ではビニールハウス内でのトマトなどの栽培に欠かせないハチ。主に日本に輸入されているのは、ハウス内の果物や野菜の花粉を運んで受粉させる花粉交配用のクロマルハナバチと、害虫を駆除するコレマンアブラバチである。害虫を駆除する天敵は殺虫剤の代替品となることから「生物農薬」とも呼ばれている。殺虫剤の散布回数を減らすことでコスト削減にもつながり、環境負荷も少ないなどのメリットが多く、利用が拡大している。

 実は、花粉交配に使われるのは国内で育てられたミツバチが主流だ。だが、28年4月の熊本地震の影響で国内の主要な養蜂業が集まる熊本県が被災し、ミツバチ不足が一気に顕在化した。その後、生き残った熊本のミツバチの多くを北海道に移して飼育するも、今度は北海道が前例のない台風の連続直撃で被害を受けた。東京都内のある輸入業者は「まさに“泣きっ面にハチ”という複合的な被害により、国内のミツバチ不足が加速した」と、その悲運ぶりに同情する。

 国内の養蜂業者が打撃を被る一方で、ハチの需要は増え続けている。大林組や野村証券など大企業の農業ビジネスへの相次ぐ参入により、ハウス栽培で利用するハチの需要が昨今になり急増。国内のミツバチ不足も相まって、輸入が増える一因となっているのだ。

 意外かもしれないが、29年の日本へのハチの輸入量の57.6%はスロバキアからである。スロバキアでは社会主義時代に作物栽培などにハチが利用できるとして国が養蜂を奨励していた経緯もあり、今でも養蜂が盛んだという。

 とはいえ、26年までは農業大国のオランダからの輸入量が1位だった。近年、コスト削減などを理由に飼育地を人件費の安いスロバキアに移転する動きがあり、28年にはスロバキアからの輸入量が前年比で約3倍に急拡大した経緯がある。ちなみに29年の輸入量は2位がベルギーで34.7%を占めており、輸入の9割以上は欧州からである。

 一方で、輸入ハチが増えたことで、日本固有の生態系に影響を与えるのではとの不安も尽きない。平成に入って以降、輸入が盛んになった欧州原産のセイヨウオオマルハナバチがハウスから逃亡し、生態系に与える影響が問題になった。北海道を中心に逃亡したハチが野外で繁殖し、在来種の減少や植物への影響を生じさせた。このため、政府は18年にこの外来ハチを特定外来生物に指定、輸入や飼育は原則禁止にしている。

 現在、主に輸入されているクロマルハナバチは日本在来種であり、利用にあたっては外来生物法に基づく許可の申請は不要だ。害虫となるアブラムシに産卵して駆除するコレマンアブラバチも、農薬取締法で許可登録された生物農薬である。もちろん、生態系への影響を考慮し、逃亡防止施設のない場所での利用は禁止されている。

 在来種のクロマルハナバチの輸入が増えたことで、政府はセイヨウオオマルハナバチから在来種への切り替えを促している。

 だが、以前から外来ハチを利用していた人は環境省の許可を得れば使えるため、使い慣れた外来から在来へと転換する動きは進んでいない。環境省によると、外来ハチの出荷数量は、特定外来生物への指定前の17年と同水準で推移。代替種として実用化されている在来種のクロマルハナバチの出荷数量は、マルハナバチ全体の3割程度にとどまっているという。

 こうした現状を踏まえ、環境省と農林水産省は昨年、セイヨウオオマルハナバチについて、生態系保全のため将来的に使用の全廃を目指すとする指針をまとめた。外来種から在来種に転換するよう農家への補助や啓発を進め、32年までに外来ハチの利用数を半減することを目指すとした。

 ただ、北海道では在来種であるクロマルハナバチも外来種に当たるため、別の代替種の開発も求めらるなど課題は多い。

 余談だが、マルハナバチは匂いに敏感なため、アルコールや化粧品などの匂いに近寄ってくる習性がある。極端な化粧や二日酔いの状態でハウス内に入らない方が身のためだ。青い服装に好んで近寄っていく傾向もある。飲みかけの缶ジュースにマルハナバチが侵入し、飲もうとした生産者が口を刺されるという事例もあるとのことで、くれぐれも取り扱いには注意してもらいたい。(経済本部 西村利也)