【経済インサイド】自動運転車は「乗用車」より「商用車」で先行!? 7年後に無人隊列目指す - 産経ニュース

【経済インサイド】自動運転車は「乗用車」より「商用車」で先行!? 7年後に無人隊列目指す

有人で自動運転するトラックに並走する観光バスの車内モニター。運転手がハンドルとペダルを操作していない様子が映し出された=5月、東京都羽村市の日野自動車羽村工場
路線バスが自動運転で停留所に寄せるデモ=5月、東京都羽村市の日野自動車羽村工場
運転手の急病を想定するデモで非常用ブレーキのスイッチを押す日野自動車の担当者=5月、東京都羽村市の同社羽村工場
後続車が前走車を自動で追従する有人隊列走行のデモ=5月、東京都羽村市の日野自動社羽村工場
観光バスの車内から見た2台のトラックによる有人隊列走行=5月、東京都羽村市の日野自動車羽村工場
路線バスが自動で減速し停留所にピタリと寄せるデモ。車椅子による乗り降りも簡単に行える=5月、東京都羽村市の日野自動車羽村工場
 乗用車で自動運転技術の開発競争が過熱する中、トラック・バスなど商用車を手がける日野自動車も完全自動運転の実現に向けた技術開発ロードマップ(計画表)を発表した。平成37年以降にエリア限定で全ての操作を自動化する商用車を実用化するほか、複数のトラックが隊列走行する技術の進化も急ぐ。自動運転で先行する独ダイムラーなどの欧州勢にどう立ち向かうのか。日野の戦略に迫った。
 「交通事故死傷者ゼロを目指し、完全自動運転に向けた技術開発を段階的に進めたい」
 同社が5月21日に東京都羽村市の羽村工場で開いた自動運転技術に関する説明会。遠藤真副社長は力強くこう宣言した。
 ロードマップによると、34年をめどに一定の条件下で自動走行し緊急時に運転手が操作する「レベル3」の自動運転技術を搭載した商用車を開発。37年以降には、エリア限定で全ての操作が自動化される「レベル4」以上の車両を実用化する。
 複数のトラックが加速・減速を自動制御して隊列走行する技術の開発も急ぐ。35年をめどに、有人の前走車を有人の後続車が自動追従する「有人隊列走行」を実用化。37年以降には、有人の前走車を無人の後続車が自動追従する「無人隊列走行」を実現する。
 開発を急ぐ背景には、運送業界の深刻な人手不足と運転手の高齢化のほか、路線バスの縮小・廃止に追い込まれた過疎地の移動手段を確保する狙いもある。
 記者は羽村工場で催された自動運転のデモンストレーションと試乗会を取材し、完全自動運転に向けた日野の戦略を探った。
 隊列走行では、先頭のトラックを後続車が自動追従するデモの様子を並走する観光バス車内から見学。後続車は、GPS(衛星利用測位システム)で自動運転の車両を誘導する技術でテストコース内の本線にスムーズに合流。車載カメラなどで白線や前走車を認識し、追従走行に入った。
 後続車は車間距離を安定的に保ちながら走り、前走車が車線を移動する場面でも隊列は乱れない。前走車から加減速の情報を受け取り判断する技術も生かされているという。バスの車内モニターには、ハンドルやペダルを操作しないで前走車を追従する様子が映し出された。
 さらに、路線バスが路面の誘導線を走り、自動運転で減速し停留所に寄せる様子も3回見届けた。これは自動運転技術で協業するいすゞ自動車と共同開発したものだ。車椅子の人が乗り降りしやすいよう、バスの中扉と停留所の隙間は45ミリに設定されており、3回の誤差は全てプラスマイナス15ミリ以内だった。
 乗用車に比べて全長や車幅が大きい商用車は、検知しなければならない範囲が広いため、多くのセンサーやカメラが必要となる。
 商用車特有の課題をクリアするため、日野はトヨタ自動車グループの一員としての強みも発揮。自動運転や事故回避の精度を引き上げる取り組みで鍵を握る人工知能(AI)の研究開発で、トヨタとの連携を強める可能性もありそうだ。
 こうした中、日野と独フォルクスワーゲン(VW)の商用車部門は4月、提携交渉に入ると発表した。自動運転のほか、電動化や物流など幅広い分野で協業することを視野に入れる。
 乗用車でトヨタ最大のライバルであるVWと日野が組み、技術と販売の両面をテコ入れする理由は何か。自動運転や運転支援技術への対応で出遅れると、顧客である物流業界に提案するサービスで競合他社の後塵(こうじん)を拝してしまうからだ。実際、人手不足から商用車に乗る人たちの方が乗用車に乗る人たちよりも自動運転の実現を切実に願っているようだ。
 自動運転を導入する効果は、運転手の負担を減らすだけではない。北沢啓一常務役員は「商用車は乗用車と違い、顧客企業の事業性も一緒に考えないといけない」と述べ、自動運転技術で顧客に利益をもたらす方策を探る考えも示した。
 トヨタなどの経営コンサルティングを受け持つドリームインキュベータ(東京都千代田区)の竹内孝明執行役員は、自動運転をめぐる国内商用車業界の取り組みについて「技術だけでは勝ち抜けない。サービスまで含めると日本勢は周回遅れだ」と厳しく評価する。
 竹内氏が指摘するサービスとは、運輸事業者が保有する車両の故障予知から稼働率向上まで一貫して支援する取り組みを意味する。
 その展開で先行するのが、大型商用車の世界シェア首位のダイムラーだ。既に車載センサーから得た大量の走行データを顧客への運転指導や燃費改善などに役立てているという。同社は2020(平成32)年末までに「レベル3」相当の自動運転トラックを市販化する計画だ。
 スウェーデンの商用車大手ボルボ傘下のUDトラックス(埼玉県上尾市)も20年までに自動運転車を国内外に投入する方針で、両社とも技術とともにサービス力を重視。UDトラックスのヨアキム・ローゼンバーグ会長は「技術を活用し顧客の要望に応える『輸送ソリューション』のリーダーを目指す」と意気込む。
 中国勢も巻き込んだ商用車市場のシェア争いが激化する中、竹内氏は強調する。「商用車同士だけでなく、物流事業者や商社など異業種と新サービスを開発する必要がある」(経済本部 臼井慎太郎)
 自動運転車 搭載したカメラやセンサーで周囲の状況を把握し、自動で走る車。ハンドル、アクセル、ブレーキのいずれかを自動で操作する「レベル1」▽ブレーキやハンドルなど複数の操作が自動となる「レベル2」▽一定の条件下で自動走行し緊急時に運転手が操作する「レベル3」▽エリア限定で全て自動化される「レベル4」▽運転手を必要としない完全自動運転が可能な「レベル5」-の5段階ある。