大阪都構想 安倍首相は本心をごまかしている 松井一郎氏

iRONNA発
松井一郎氏

 大阪市を廃止して特別区に再編する「大阪都構想」をめぐり、逆風に立つ大阪府の松井一郎知事がiRONNAに手記を寄せた。今秋の住民投票実施は見送られたが、一度は否決された構想への抵抗感は強い。安倍晋三首相の発言も重なり、構想の先行きは不透明だ。渦中の松井氏は今、何を思う。

(iRONNA)

 政治行政に百点満点はありえない。政治家が目指すのは、現状よりはマシになるか否かだ。大阪都構想は大阪府と大阪市の二重行政をなくすための役所制度の見直しであり、大阪都構想によって、すべての住民が百パーセント満足する行政を提供できるものではない。

 そもそも、行政サービスの原資は国民の税金であり、税収の範囲で成り立つサービスを立案し実施するのが行政の基本だ。だが、現在の日本の社会構造では、少子高齢化などで多様化する行政ニーズは税収の範囲を大幅に上回る。このような、行財政運営は将来世代にツケを回し、いずれかはわれわれの子孫がそのツケを清算することになり、次世代から無責任のそしりを受けることになる。

 これを避けるために、まず取り組むべきは「行政経費圧縮」だろう。この10年、われわれは公務員の意識改革、行政の効率化による経費圧縮を徹底的に実施してきた。そして大阪において最大の行政の無駄といえば、都市の成長を阻害してきた大阪府と大阪市の二重行政だ。

府と市の「不幸せ」

 狭い大阪エリアに大阪府と大阪市が、それぞれバラバラに成長戦略を打ち出し、お互いのメンツやプライドによる高層ビル建設に走り、両者が失敗した。これで莫大(ばくだい)な府民市民の税金が無駄になり、大阪の経済を低迷させ、いわゆる、府と市を合わせて「不幸せ」と揶揄(やゆ)されるきっかけになった。

 そもそも大阪府と大阪市はあわせて10万人以上の職員を有する巨大な組織で、双方に何十何百という部局課があり、そこで働いている職員は自分たちの仕事に自信を持っている。その職員が自主的にそれぞれの仕事を仕分けするのは自己否定となり、まとまるわけがない。

 職員から見れば二重行政だろうが三重行政だろうが、それぞれはがんばっているのだからいいだろうと考えるのは当然かもしれない。だからこそ、政治家が大都市大阪の広域行政と基礎自治機能の最適化の方向性を示し実行しなければならない。

 ゆえに、私が知事に就任してから6年半、大阪に府と市の対立や二重行政はない。平成23年の府知事選と大阪市長選のダブル選挙で橋下徹氏が市長、私が知事になり、まず府市の行政を一体で進めるための行政組織「府市統合本部」を立ち上げたからだ。

 一方で、行政が合意しても議会の同意に長時間を要したり、同じ政党なのに府議会と市議会で意見が異なったりして難航した案件もある。

 象徴的だったのは、大阪府立大と大阪市立大の統合だ。少子化が進む中で、競争力のある大学にするため、両大学の統合を提案した。ところが、府議会の自民党は賛成したが、市議会の自民党が反対するという事態になった。

 大学統合だけでもこれだけ難航したように、大阪都構想は言うまでもなく、地方制度の一大転換だ。ゆえに、大阪の自民党のように反発する勢力があるのも当然だろう。

決戦の場は住民投票

 本来、大阪都構想に前向きだった安倍首相が4月、自民党大阪府連の臨時党員大会に出席し、「大阪都構想については、大阪自民党の考えを尊重する」と発言した。これで、大阪の自民党は拍手喝采、大いに盛り上がっているようだ。

 ただ、首相が地方の支部大会に出席すること自体が異例であり、安倍首相が都構想に対する自身の考えをごまかさなければならないほど、取り巻く状況が厳しいことは容易に想像できる。

 歴史を顧みれば、明治維新のとき、武士の身分がなくなるとなれば、刀や鉄砲を交える殺し合いとなった。現代に置き換えれば、選挙や住民投票がまさに戦(いくさ)といえるだろう。

 大阪都構想は、究極の民主主義である住民投票が決戦の場となる。大阪が二重行政で「不幸せ」と揶揄されることが今後なくなるよう、大阪都構想実現に向けた取り組みを続けていく。

 iRONNAは、産経新聞と複数の出版社が提携し、雑誌記事や評論家らの論考、著名ブロガーの記事などを集めた本格派オピニオンサイトです。各媒体の名物編集長らが参加し、タブーを恐れない鋭い視点の特集テーマを日替わりで掲載。ぜひ、「いろんな」で検索してください。

【プロフィル】松井一郎 まつい・いちろう 大阪府知事、日本維新の会代表。昭和39年、大阪府生まれ。福岡工業大卒。平成15年の府議選で自民党から立候補し、初当選。22年に橋下徹氏が設立した地域政党、大阪維新の会に参加。23年の府知事選で初当選し、現在2期目。