【スポーツ異聞】猛練習と巧みな人心掌握…A東京をBリーグ初Vに導いた「聖徳太子の目」 - 産経ニュース

【スポーツ異聞】猛練習と巧みな人心掌握…A東京をBリーグ初Vに導いた「聖徳太子の目」

A東京のパビチェビッチ監督。チームをBリーグ初優勝に導いた=横浜アリーナ
男子Bリーグの2代目王者となり、喜ぶA東京の選手たち=5月26日、横浜アリーナ
 バスケットボール男子のBリーグは、5月26日のチャンピオンシップ(プレーオフ)決勝でA東京が千葉を85-60で破り、2代目の王座についた。決勝で光ったのは今季磨いてきた堅守。その背景には厳しい練習を課しながらも、選手からの厚い信頼を得たルカ・パビチェビッチ監督(49)の手腕があった。
 Bリーグ史上最多となる1万2005人の大観衆で埋まった横浜アリーナでの決勝は、A東京の独壇場だった。しつこい守りで千葉の得意とする速攻をほとんど出させず、ボールを奪った後は堅実に得点を重ねて点差を広げた。チーム2番目の15得点を挙げた田中大貴(26)も「こんなに開くとは正直思っていなかった」と振り返る大差の勝利で、東地区1位の座を譲った相手に「雪辱」した。
 レギュラーシーズンの成績は昨季と同じ44勝16敗。だが中身は大きく変わった。昨季は鮮やかなプレーで観衆を魅了した元NBA選手のディアンテ・ギャレット(29)に象徴されるように、個人技に頼りがちな面もあった。今季はボール保持者の近くで味方が「壁」を作り、マークを遅らせる「ピック・アンド・ロール」を多用した攻撃の連係を徹底。守備でも1対1の強さをベースに、リーグ終盤には連動性も磨いた。
 失点は昨季より143点も少ない4265点。リーグ最少は西地区1位の琉球(4064点)だったが、6チーム中4チームがチャンピオンシップに進んだ東地区と、2チームが2部(B2)に降格した西地区との“格差”を考えれば、間違いなくリーグナンバーワンの守備力を築き上げたといえる。
 チームカラーをがらりと変えたのはセルビア出身のパビチェビッチ監督。2011年ユニバーシアードで母国代表を金メダルに導いた名将は、日本代表監督代行から指揮官に転じたA東京で1日2回の猛練習を課した。代表監督代行当時も「日本人はヘルプにいきすぎる」と1対1の守りの強化を掲げたが、招集期間に限りがあるナショナルチームでは落とし込めない水準まで、細やかに鍛え上げた。
 その卓越した眼力を「聖徳太子の目」と表現したのは加入2季目の竹内譲次(33)。ある日の練習で、3人が動きを間違えたプレーを瞬時にすべて指摘した姿に「10人の声を聞き分けた」とも伝えられる偉人を重ね合わせた。
 双子の兄、公輔(33)=栃木=とともに日本代表の主力を10年以上担い、さまざまな監督の下で戦ったベテランも、今季は外国人選手が1人しか出られない時間帯を中心に、守備での奮闘を強く求められた。猛練習によって体重は2キロほど落ちたというが、「辛いとはあまり思わなかった」という。発奮材料となったのが指揮官の言葉。「カール・マローンのキャリアでベストシーズンは35歳だった。お前もこれからだ」。35歳だった1999年、米NBAで2度目のシーズンMVPに輝いた同じポジションのスター選手を引き合いに出されたことで、心に火がついた。
 田中も代表監督代行就任当初にかけられた言葉をよく覚えている。「これからは日本代表の重要な部分を担わないといけないぞ」。意識を高く持つようになったエースは三河との準決勝で左太もも裏を肉離れする窮地に陥ったが、懸命の調整で決勝に間に合わせ、初優勝に貢献。チャンピオンシップのMVPと2季連続のベスト5に選出された。
 一方、新人王に選ばれた馬場雄大(22)は「怒られてばかりだったが、特に何か言われたことはなかった」と話す。主将の正中岳城(33)も同じ感想だが、「それぞれ特性がある。自分はほっといてもやるだろうと考えたのではないか」。ただし、チームに常に細かく目を配る指揮官の姿には突き動かされる部分も多かったという。昨季とは役割が大きく変わった竹内譲と、指揮官が他のコーチも交えて練習後に話し込む光景をよく目にしており、「監督はよく見ているなという安心感があった。いろいろなアプローチができる方だし、単に厳しいだけではなかった」と語る。
 5月29日の年間表彰式後、「慣れていないスタイルによくついてきてくれた。あきらめずに練習に取り組む姿勢が優勝の鍵だった」と選手をねぎらったパビチェビッチ監督。来季も隙のないチームを作り上げてくるはずだ。(運動部 奥村信哉)