「反日映画」で慰安婦碑運動に走った韓国系高校生 マンハッタン対岸の町は“コリアタウン”化していた

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5月23日、米東部ニュージャージー州フォートリーで行われた慰安婦碑の除幕式で、民族楽器の演奏を披露する女性たち(上塚真由撮影)

 米東部ニュージャージー州フォートリーに5月23日、同州で5例目となる慰安婦碑が設置された。慰安婦問題をめぐる2015年の日韓合意後も米各地で韓国系団体による設置が相次ぐが、フォートリーのケースの特徴は、地元の韓国系米国人の高校生たちが主導したことだ。高校生たちを動かしたきっかけは、韓国で大ヒットを記録した慰安婦映画。一方的な歴史認識は、10代の若い世代にも深く浸透している様子が浮き彫りとなった。

 ニューヨーク・マンハッタンの対岸にあるフォートリー。5月23日午後に地域の公園で行われた除幕式の“主人公”は、韓国系の高校生たちだった。

 除幕式の進行は高校生の男女2人が務め、開会の挨拶にたったのも、設置を進めた高校生の団体「ユースカウンシル・フォートリー」代表の男子生徒だ。

 男子生徒は、集まった100人超の来場者に謝意を述べた後、2年前に慰安婦設置の活動を始めたきっかけをこう明かした。「私と友人は『スピリッツホームカミング』という映画を見ました。慰安婦が堪え忍んだ恐怖を描いたものです。映画を見終わった後、何らかの形で女性たちを追悼したいと考えるようになり、碑を設置することに決めました。なぜなら、彼女たちの苦しみを、人々に知ってもらいたかったからです」

 短いスピーチだったが、参加者からは大きな拍手が送られた。

 男子生徒が述べた映画「スピリッツホームカミング」は日本では「鬼郷」という題名で知られる。2016年に韓国で公開され、大ヒットした映画だ。劇中では、慰安婦として連行された少女たちに対する日本兵の残虐な暴行、拷問シーンが描かれている。

 日本では「反日映画」との批判が上がり、韓国国内でも、事実を歪曲しているという議論があったほど。だが、“母国”から遠く離れて暮らす韓国系の若者たちの心を動かすのには十分な役割を果たしていた。

 フォートリーでの慰安婦碑には、韓国系の女子生徒がつくった「祖母が私に伝えた話」と題した詩文が刻まれた。この女子生徒も除幕式でスピーチし、映画を見て詩文を作ったことを明らかにした。

 「正直にいうと、映画を見るまでは、慰安婦問題について理解していませんでした。夕食のテーブルで、両親から慰安婦問題について聞かされていましたが、それが何を意味するのかは分かっていませんでした。歴史の授業で先生が5分ほどで言及していただけで、十分ではなかったのです」

 「映画は大きな衝撃でした」。女子生徒はこう話し、涙で声を詰まらせながら自作の詩を読み上げた。「日本兵」という言及はないが、虐待や拷問を受けた少女の叫びを詩にしたためている。

 ほかにも、20人ほどの高校生がおそろいの紫色のTシャツを着て、スピーチしたり、会場で来場者に水を配ったりと除幕式を盛り上げていた。

 こうした高校生たちの活動を「英雄的な取り組みだ」などと絶賛したのは、フォートリーのマーク・ソコリッチ区長だ。

 地元メディアによると、フォートリーでは2012年から慰安婦碑の設置計画があったが、複数の韓国系団体が、碑文の内容などをめぐって主導権争いを行い激しく対立、計画自体が一度は立ち消えとなった。その後、16年に高校生たちが活動を始めて設置にいたった経緯がある。

 ソコリッチ氏は、「情熱と知識を集結させた上、高校生たちが行ってきた尊敬すべき方法、コミュニケーションとロビー活動の能力のおかげで、われわれは今日という日を迎えられている」と発言。対立を繰り返す韓国系団体を一つにまとめた高校生たちに感謝の意を繰り返した。

 また、スピーチの後半では、露骨なまでに地元の韓国系社会に“ラブコール”を送った。フォートリーは人口約4万5000人のうち、韓国系が約4割を占め、韓国系住民は年々増え続けている。

 「この慰安婦碑は、韓国系米国人の人口が最も多い地域の指導者としての私の思いを代弁している。われわれはあなたがたに寄り添い、愛し、そして尊敬している」と感傷的に語り、「われわれは決して歴史を忘れないし、記憶にとどめ続ける」と叫んだ。

 除幕式後、地元日本人が設置に反対してきたことについて聞かれると、「韓国系の人口が多い地域の代表だ」と改めて開き直り、「この碑では、誰も特定して非難していない。敬意を表するために設置されたのだ」と反論した。

 地元韓国系にとっては長年の“悲願”だった慰安婦碑の設置。除幕式では、韓国の伝統衣装を身につけた女子生徒たちによる民族楽器の太鼓での演奏が披露されるなど、祝福ムード一色となった。それを、ソコリッチ氏ら行政関係者がうれしそうにながめ、慰安婦碑と記念撮影に収まる場面も。

 「行政関係者にとっては、慰安婦碑によって地域が一つにまとまればよいという程度にしか考えていない」。設置に反対してきた邦人の一人はこうつぶやいたが、映画の恐ろしさを感じるとともに、取材者でさえ、言い知れぬ疎外感を味わい、地域の邦人社会への心配ばかりが募った。(フォートリー 上塚真由)