新日鉄住金が誕生からわずか5年半で「日本製鉄」へ 社名変更決断の背景

経済インサイド
「日本製鉄」に社名変更する新日鉄住金の君津製鉄所。同社は海外進出を加速する一方、国内では合理化による競争力再強化に取り組んでいる=千葉県君津市

 新日鉄住金が、来年4月1日付で社名を「日本製鉄」に変更すると5月中旬に発表した。平成24年10月に旧新日本製鉄と旧住友金属工業が経営統合して誕生した国内鉄鋼最大手は、わずか5年半で社名変更を決断し、住友グループの名門「住金」の称号は“消滅”することになった。現在の社名がようやく浸透し始めたこのタイミングで、あえて変更に踏み切る理由とは-。

 「日本発祥の製鉄会社として未来に向かい、世界で成長を続ける企業にふさわしい、より包摂的で新たな商号に変更する」

 5月16日に新日鉄住金が東京都内で開いた記者会見。進藤孝生社長は、社名変更の理由を繰り返しそう説明した。英文表記も「ニッポン・スチール&スミトモ・メタル」から「ニッポン・スチール」に変更。6月26日開催の定時株主総会で承認を得て正式決定するという。

 新日鉄住金という社名について、進藤社長は「かなり長いといろんな人からいわれてきた」と打ち明ける。確かに、英文表記だと特に長い。「しんにってつすみきん」ではなく、「しんにってつじゅうきん」と間違って呼ばれることもあった。

 「鉄鋼メーカーかどうかすらよく分からない」。同社の社員は苦笑する。

 だが、それが一番の変更理由ではない。

 変更の狙いを読み解く上で、最も重要なキーワードが、「世界」だ。

 鉄鋼業界ではここ数年、中国勢がやみくもに生産能力を増強し、製品が中国国外へあふれ出たため市況が極度に悪化。一時は、大半のメーカーが赤字に陥る異常事態となった。

 供給が需要を常に上回る中、再編の動きも進む。粗鋼生産量で世界首位の欧州アルセロール・ミタルは、中国が「ゾンビ企業」の整理に動き出して市況が上向き、同社も赤字から脱した途端、得意の企業買収を再開。4月にブラジルメーカーの買収を完了し、近くイタリアの最大手も傘下に収める計画だ。

 一方、中国勢の躍進はめざましく、今やトップ10の半分を占める。2016(平成28)年には5位の宝鋼集団と11位の武漢鋼鉄集団が統合して宝武鋼鉄集団となり、2位に躍り出た。この統合には、合理化だけでなく、規模拡大で海外企業を飲み込む意図があるといわれる。

 これに対し、新日鉄住金は、旧新日鉄時代に世界首位だったものの、現在は日新製鋼を含めても世界3位と、徐々に地位を低下させつつある。

 人口減で国内市場がしぼむと予想される中、危機感を強めた同社も海外で攻めの姿勢に転じつつある。3月2日には、経営再建中のインド鉄鋼4位、エッサール・スチールをアルセロール・ミタルと共同買収するための新会社を設立すると発表。同時期に欧州特殊鋼最大手のオバコ(スウェーデン)を数百億円で買収することも決めた。社名変更は、国際競争の生き残りに向けた決意表明といえる。

 記者会見では、昭和9年に設立された半官半民の国策会社、日本製鉄に関する質問も出た。新日鉄の前身である八幡製鉄と富士製鉄は、戦後の25年に日本製鉄が解体されて誕生した経緯があるからだ。しかし、進藤社長は「(復活は)あまり意識していない」と否定した。実際、新社名が「にっぽんせいてつ」と読むのに対し、戦前の日本製鉄は「にほんせいてつ」で、英文も「ジャパン・アイアン&スチール」と異なる。

 日本発祥にこだわったのは、「海外の会社と組むときに、日本の製鉄会社と明記した方が(相手も)分かりやすい」(進藤社長)といった、ビジネス上のメリットがあるからだという。

 ただ、このままでは日本の鉄鋼メーカーが消えうせてしまうとの危機感があるのは確かだろう。

 同社はオバコ買収と併せて、持ち分法適用会社の山陽特殊製鋼を子会社にすると発表。社名変更と同じ日に、日新製鋼の完全子会社化も発表している。旧新日鉄と旧住金の統合作業が一段落し、新たな企業が加わる中、攻めに向けてグループの再結束を図る必要もあった。理由の説明で「包摂的」という表現を使ったのはそのためだ。

 旧新日鉄は昭和45年の誕生以来、旧富士製鉄出身者と旧八幡製鉄出身者が交互に社長となるたすき掛け人事を続けた。能力人事を後回しにしてでもバランスにこだわるあたり、いかにも保守的な鉄鋼メーカーらしい。しかし、今回は、そんな従来思考をかなぐり捨てた。社名から「住金」の名称が消えることも躊躇(ちゅうちょ)しなかった。

 旧住金は、旧住友銀行(現三井住友銀行)、住友化学と並ぶ住友グループの中核で、「住友御三家」の一角。それほどの名門企業だけに、「住友」の名前が完全に消えることに旧住金出身者から反対の声も上がった。だが、平成26年4月には会長と社長を旧新日鉄出身者が占め、旧新日鉄側が主導する体制を固めた。今年3月に発表された6月下旬の新体制では、8人いる代表取締役から旧住金出身者が消えた。

 このため、今回の社名変更は既定路線とみられていたようだ。世界で生き残るためには避けて通れない判断だったのかもしれない。

 ある社員は断言する。

 「世界的な競争にさらされている今、もはや内部優先の考え方は通用しない。社内の共通認識だ」(経済本部 井田通人)

 新日鉄住金 日本最大手の鉄鋼メーカーで、粗鋼生産量は国内首位、世界3位。官営八幡製鉄所の流れをくむ新日本製鉄と、住友グループの鉄鋼メーカーである住友金属工業が合併し、平成24年に誕生した。30年3月末現在の従業員数は9万3557人。30年3月期の売上高は5兆6686億円、最終利益は1950億円(いずれも連結)。