ポルシェであおり運転→バイク転倒…命を救うはずの医師だったのになぜ

衝撃事件の核心
現場となった道路。杉本壮被告は被害者のバイクに幅寄せし、左側の農地に追いやった=神奈川県伊勢原市

 排気音を響かせ、300馬力のスポーツカーは1台のバイクを執拗(しつよう)に追い回した-。神奈川県伊勢原市の路上でバイクに幅寄せして転倒させ、運転していた男性を負傷させたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)などの疑いで25歳の無職の男が神奈川県警に逮捕、起訴された。男がハンドルを握っていたのはドイツ製の高級車「ポルシェ」。現場には今も衝撃の跡が残されていた。

 起訴された伊勢原市の無職、杉本壮被告は3月18日の午後1時45分ごろ、同市三ノ宮の市道で厚木市の男性会社員(45)のバイクにポルシェ「ボクスター」を幅寄せして接触させ、逃走したとされている。男性は道を外れて転倒し、左足を骨折する全治約8週間の重傷を負った。

 総輸入販売元の「ポルシェ ジャパン」のホームページによると、このボクスターに搭載される2リットルエンジンは最高出力300馬力で、停車状態から時速100キロに到達するまでの時間はわずか5・1秒(マニュアル車)という高性能を誇る。ぶつけられた男性が乗る125ccのスクーターはひとたまりもなかった。

 昨年6月に神奈川県内の東名高速道路上で夫婦2人が犠牲になった追突事故をはじめ、このところあおり運転によるトラブルが多発している。捜査関係者によると、今回の事件は杉本被告が路上に車を停車させていたところ、他の車の通行に支障をきたすとして男性から注意を受けたことが発端だった。

 「男性が声をかけてから、事件が起きるまではわずか5分以内だった。杉本被告はおよそ1キロにわたりあおり運転を行ったとみられ、車の左側面には接触した際についたとみられる薄い傷が残されていた。男性が転倒した場所は道路脇の農地で、ちょうど境界線を示すコンクリート製のくいが埋められていた。これが足にぶつかってけがにつながったが、頭に当たっていたら、亡くなっていた恐れもあった」(捜査関係者)という。

 杉本被告は調べに対し、「なぜ注意されたのか分からない」と話している。分からないから腹が立つ→腹が立つからあおってやろう-。そう短絡的に考えたのだろうか。恐ろしいことに、この杉本被告は元々は人の命を救うはずの医師だったというのだ。臨床研修医として勤務していたとされる神奈川県内の病院の担当者は「今はいない」といいながら、過去に在籍していた事実を否定しなかった。

 男性を置き去りにして一度は立ち去った杉本被告は約1時間10分後、再び現場に現れる。ただ、犯行の発覚を恐れたのか自身のポルシェではなく、友人の車に乗って戻ってきたのだという。

 捜査関係者は「本人は『バイクに当てた認識はない』とする一方、『でも、もしかしたら自分がやったかもしれない』などとあいまいな供述をしている」と明かす。この供述について、ある自動車ジャーナリストは「ポルシェはスポーツカーのなかでも死角が少なく『体の一部になるクルマ』といわれている。その中でもボクスターは最も運転しやすいモデルとして評判だ。『当てた認識がない』というのはありえない」と指摘した。

 男性が投げ出された農地には、今も激突したとみられるくいが根本からえぐられるようにして残されており、衝撃の強さを物語っている。あおり運転が行われた道路は幅は狭いものの、日中の交通量は多い。場合によっては他の車を巻き込んでいた恐れすらあった。

 前述の自動車ジャーナリストは杉本被告について、「スポーツカーに乗ると、気が大きくなる人間は確かにいる。まだ25歳であれば、粋がってやってしまったのではないか」との見方を示した。

 ハンドルを握る人間の中で、これほど迷惑な行為はない。(横浜総局)