【経済インサイド】北海道・十勝でベンチャー企業の誕生が相次ぐワケ - 産経ニュース

【経済インサイド】北海道・十勝でベンチャー企業の誕生が相次ぐワケ

KOYA.labの「タイニーハウス」。ロフトには天窓があり、星空を眺められる=平成29年4月、北海道本別町
KOYA.labのタイニーハウス=北海道本別町
KOYA.labの「タイニーハウス」前で食事を楽しむ家族=平成29年10月、北海道陸別町
紡毛機で糸を紡ぐグループホーム利用者=平成29年11月、北海道帯広市
 開拓者精神が根付く北海道。移民により地域発展に取り組んできた十勝で、ベンチャー企業が相次ぎ誕生している。起業家らは高い生産力を持つ農畜産業や豊かな自然環境といった地域資源に着目。十勝の絶景と移動型宿泊施設を組み合わせるなどユニークなアイデアの新事業が続々と生まれている。キーワードは“掛け算”。起業精神あふれる十勝の若者たちは、斬新なビジネスモデルを創り上げた全国の経営者のノウハウを学び、「稼ぐ力」を身につけようとしている。
 眺望が素晴らしい丘や馬とふれあえる牧場など4カ所のうち好みの場所を選び、車で「タイニーハウス(小さな家=トレーラーハウス)」を牽引(けんいん)して設置する。
 こんなオリジナリティーあふれる宿泊プランを用意したのが平成29年1月設立のKOYA.lab(北海道本別町)だ。創業者は地元で土木建築業を営む4代目の岡崎慶太氏。「北海道の田舎を満喫してもらいたいが、地元にホテルはない。リゾートホテルは無理なので一風変わったホテルを建てることにした」
 同年6月に利用した男性は「トレーラーハウスと聞いていたので(豪華さに)びっくり。水洗トイレやシャワー、ロフト(屋根裏部屋)などが付いているすてきすぎる家。快適空間に癒やされる」とのコメントを残した。
 宿泊だけでなく、食事は地元産食材や調理器具などをそろえてくれるので、利用者は火にかけるだけでバーベキューやダッチオーブン(分厚い金属製の蓋の上に炭火を置くことのできる鍋)でつくるアクアパッツァ(魚介類をトマトとオリーブオイルなどとともに煮込んだ料理)、スープカレーなどを味わえる。
 岡崎氏の背中を押したのが、十勝の稼ぐ力を創り出す「とかち・イノベーション・プログラム(TIP)」。地域の金融機関、自治体、シンクタンク、マスコミなどが野村総合研究所の協力を得て27年から始めた。岡崎氏はTIP1期生だ。
 「革新は同じムラ社会からは生まれない」との考えから、十勝に根を張って起業へのモチベーションを持つ若者(火の玉人材)が、独創性のあるアイデアで事業を大きくした全国の経営者(火種)から学んだり、若者同士が対話したりして稼ぐ力を培う。
 帯広信用金庫など地域金融機関がプロデューサーとして主体的に動き、帯広市など十勝19市町村がバックアップする態勢も整えた。
 岡崎氏の火種となったのは「養鶏業から村丸ごと振興」を成し遂げたコッコファーム(熊本県菊池市)の松岡義博会長だ。
 「地元を巻き込んで成功したと聞いて、やってみたい気持ちに火が付いた」といい、TIPの同期でタイニーハウスの設計者でもある山本晃弘執行役員と二人三脚で奮闘する。
 起業にあたって重視したのは、地域商店とのコラボレーションによる「真の地域振興」。既存店舗が繁栄するための起爆剤になることだったという。地元の本別町商工会青年部に所属していたつながりを生かし、料理は飲食店から運んでもらうほか、シーツのクリーニングやガス供給などで地域とのコラボが進んでいるという。
 初年度は10組ほどの利用にとどまったが、手応えは感じており「2年目は3~4倍に増やす。タイニーハウスをもう1台作りたい」と意気込む。まずは十勝でビジネスモデルを確立し、全国展開も視野に入れる。「同じスタイルを取れる田舎は全国にある。各地の商工会青年部も地域を盛り上げたいメンバーばかりなので、宿泊施設を持っていないところに声をかけていきたい」と意気込む。
 高齢社会という地域課題の解決に挑むプロジェクトも立ち上がろうとしている。わたしはひつじ(帯広市)の伊藤由生子代表が、地元の羊牧場から収穫できる羊毛を要介護高齢者たちに編んでもらい、フェルト(シート)を作るアイデアを抱いてTIPの第3期(29年7~11月)に参加した。
 一人で起業する考えだったが、ワークショップを通じて「一人では実現不可能なアイデアと分かった。私と違う視点、意見を聞いているうちにプランが具体化し現実味を帯びてきた。みんなと一緒ならできると感じた」と振り返る。
 今は合同会社設立に向け、認知症高齢者グループホーム経営者ら仲間3人と奔走する。創業時に苦労する資金調達は、帯広信金の提案で、インターネットによる資金調達「クラウドファンディング」を活用する予定。伊藤さんは「要介護の高齢者でも作業中は生き生きとしている。羊をツールに認知症にならない空間を作りたい」と語る。
 TIPを呼びかけた野村総研の齊藤義明氏は「1人では無理でもチームなら化学反応が起きる。今までなかったアイデアに変わるよう促す」と説明する。
 第3期を終えて28件の新事業構想が誕生し、このうち5事業が会社設立にこぎ着けた。世界市場を視野に入れた本格的なビジネスから、スケールより地域の魅力を深掘りするビジネスまで多種多彩だ。
 地方創生に必要なのは人材だが、十勝には「開拓者精神が残っており、自分でビジネスを起こすと考える人が多い」(齊藤氏)という。政府も地方創生の成功例として注目している。(経済本部 松岡健夫)