米軍少将が憑依した中国共産党「悪徳サラ金戦略」が始まった! 

野口裕之の軍事情勢
南シナ海で行われた観艦式に出席した中国の習近平国家主席(左)=4月12日(新華社=共同)

 米海軍のアルフレッド・セイヤー・マハン少将(1840~1914年)の亡霊が没後1世紀以上を経て世界中の重要港に現れ、憑依し始めた。過去にもマハン少将の理論を忠実に体現する中国共産党と中国人民解放軍海軍の海洋権益戦略を紹介してきたが、麻生太郎副総理兼財務相の言葉を借りれば、近年は党・軍に加え新たに「悪徳サラ金」が加わった。

 麻生氏は昨年11月末の参院予算委員会で「(悪徳)サラ金にやられたようなもの」と答弁しているほど、中国による外国港湾・特区の買いあさりは荒っぽい。安全保障と経済は不可分の関係だが、中国共産党の場合、狙いを付けた国を半ば乗っ取り、踏み台にして軍事膨張をひた走っており、片足を「植民地主義時代」に置く。日米両国は同盟・友好国と抑止戦略の立案・実施を急がねばならない。

 まずは中国の「買いあさり」の実態の、ほんの一部を列記してみる。

 ▽豪州のダーウィン港=2015年、99年間の運営権取得

 ▽アラブ首長国連邦(UAE)のハリファ港=16年、埠頭の35年間の利用権を取得

 ▽ベルギーのセーブルルージュ港=17年、港湾運営会社を買収

 ▽スリランカのハンバントタ港=17年、借入金とバータで99年間の運営権取得

 スリランカの港は1世紀にわたり「中国の飛び地」と化すが、「借金地獄」の悲劇は続発しつつある。

 インド洋の島国モルディブも1600~2200億円もの大金を借りたために返済が滞り、19年中に中国への領土割譲が待ち受ける。モルディブを構成する島々の多くが地球温暖化→海面上昇で海面下に沈む危機に瀕している状況も、中国の食指を動かすに十分な条件だった。南シナ海の岩礁を埋め立て人工軍事基地へと造成し続ける「経験と実績」をモルディブでも役立てるはず。

 さながら高利貸が凶悪な博徒とつるみ「借金のカタ」に商家を乗っ取る時代劇を観ているかのようだ。しかし、詳細に分析をすれば、マハン少将の軍略を学習し、着実に実行に移していることが歴然とする。中国が強行する《現代版シルクロード経済圏構想=一帯一路》の説明より入る。

貧困国に「舌なめずり」

 中国国家発展改革委員会と国家海洋局は17年、《一帯一路建設海上協力構想》を発表。《21世紀海上シルクロード》上の朝鮮半島~アフリカ東岸にかけて存在する沿岸国家に向け、以下「提案」した。

 《海洋空間の共有と『ブルー経済』発展を主軸に、海洋生態環境の保護/海上での互恵・相互連接の実現/海洋経済発展の促進/海上の安全維持/海洋科学研究の深化/文化交流/海洋ガバナンスへの共同参画などを重点に『グリーン経済』発展の道を共に歩み、海を拠り所とする繁栄の道を共に創り出し、安全保障の道を共に築き、知恵と革新の道を共に建設して、協力・ガバナンスの道を共に図ることで、人と海の調和のとれた共同発展を実現させる》

 『ブルー経済』は、海産物+海底鉱物資源+海運・港湾+観光-など海洋資源に加え、バイオテクノロジーや再生エネルギーの潜在力にも注目した経済戦略。『グリーン経済』とは、環境に配慮したインフラ整備構想を包含した経済戦略を意味する。

 中国の「提案」には心から共感する。とりわけ「共に」を連発した辺りが素晴らしい。が、実態はまるで違う。「共に」を「中国共産党が」に置き換えると「買いあさり」の実態が的確に理解できる。そもそも海上シルクロードの暫定的な終点が世界で最も深刻な貧困国が集まるアフリカ東岸という仕組みにも、中国共産党の「舌なめずり」が透ける。

 さて「提案」に溶かし込んだ、マハン少将が中国共産党・海軍へ放った“ご託宣”とは何か。《『ブルー経済』発展を主軸》とうたう冒頭は、まさにマハン少将の海洋戦略理論そのものだ。マハン戦略を意訳・要約するとこうなる。

 《海軍は商船により誕生し、商船の消滅で消える》

 つまり、経済=国力や国家の繁栄・威信・安全にとり、強大な《海上権力=シーパワー》は不可欠で、制海権が戦局を決定する。従って、制海権掌握=戦略要衝確保が歴史上、覇権を担保してきた。

 もう少し噛み砕くと、経済→海運→植民地の循環を止めない3要素がマハン戦略の中核を構成。それを商船隊が支え、商船隊を海軍が支える構図だ。すなわち、中国は経済力で巨大な海軍を創設し→海洋=海運を支配し→現代の植民地たる海外の港湾・特区を「買いあさり」→海軍の根拠地と海外市場を同時に獲得し→経済力をさらに拡大し、海軍を一層肥大化させ…と、3要素の完全なる循環期に突入したのである。

中国植民地となるパキスタンの港

 中国人民解放軍が17年、海上交通の要衝=紅海とアデン湾をにらむアフリカ北東部ジブチに開設した初の海外基地は、海軍埠頭+大型ヘリポートを備え将兵1万人を収容する「大要塞」だった。

 米国防総省を筆頭に安全保障関係者の多くが監視する「2カ所目の海外軍事基地」はパキスタンのグワダル港だ。「貿易専門」と言い張る中国当局者以外の安全保障関係者の観測、ではあるが。「最大50万人の中国人用居住施設を5年以内に建設。パキスタンの劣悪な治安情勢に鑑み大規模な人民解放軍海軍陸戦隊(海兵隊)が派遣される」といった情報にも接したが、断行するに違いあるまい。

 パキスタン政府の警戒感はゼロだが、ネット誌(1月)で豪州国立大学安全保障学部の上級研究員が興味深い言い回しで警告していた。

 《グワダルは事実上、インド洋で最初の中国植民地となる》

 中国は一見、パキスタンに「悪徳サラ金」業者を帯同していないようにも見える。空港&発電所&大学を含む各種学校&脱塩型を含む水道インフラなどの建設+病院建設&医師派遣をはじめとする医療支援など、無償資金協力と緩やかな条件での融資=最低900億円規模を約束した。中国の無償資金援助は珍しく、追加援助も確実視され、大盤振る舞いは紛れもない。

 何しろ巨大な深水港建設は、中国西部とパイプライン&鉄道&道路でつなげ一大輸出拠点を誕生させる壮大な計画の根幹。太っ腹もムベなるかな。もっとも、40年後にグワダル港をパキスタンに返還するまでの間、中国は港湾収入の91%を受領、主要な税金も20年以上にわたり免除される。

中国に裁きを下す米国

 中国共産党の金満外交を論じてきたが、冒頭触れた参院予算委での麻生氏の発言との関係を説明する。

 麻生氏は《一帯一路》の資金源で中国が主導するアジア・インフラ投資銀行(AIIB)の運営や融資審査について「カネを借りた方も、ちゃんと計画を立てて返済しないと、サラ金に『取り囲まれちゃう』みたいな話になった場合、元も子もない」と述べた。「『カネを貸した経験のない人が急に貸す』という話だ。お手並み拝見だと思って見ている」とも語った。

 AIIBは、途上国などに融資する国際金融機関。融資を受け途上国はインフラを整備するが当然、返済が必要になる。融資機能は国内の金融機関やノンバンクと同じ。通常は返済能力などを審査する。

 ところがAIIBは国際金融機関経験がなきに等しい。麻生氏の『カネを貸した経験のない人が急に貸す』との指摘は、この辺りに向けたツッコミだった。

 借り手の途上国が返済しなければAIIBは中国を先頭に取り立てに走る。担保不動産の差し押さえもある。麻生氏の発した『取り囲まれちゃう』は、債務返済がないと借り手の途上国が中国の取り立てで、経済上は言わずもがな、政治・軍事上も支配されてしまう末路を示唆したのだろう。

 西側の国際金融機関であれば、途上国の潜在力や将来的発展を考慮し債務の減免を行うなど“執行猶予”を施すが、「中国系国際金融機関」は全く違った。払えないとみるや「借金のカタ」として中国への「属国化」や「領土割譲」を強いた。スリランカは先述の通り港を持って行かれた。

 高利貸が博徒とつるみ「借金のカタ」に商家を乗っ取る時代劇では、お奉行様が公平なお裁きを下し、高利貸らをやっつける。

 筆者は、米大統領選からドナルド・トランプ陣営の政策アドバイザーだったピーター・ナヴァロ通商製造政策局長に「お奉行」役を期待する。通商製造政策局は貿易・産業分析を安全保障とリンケージさせ戦略策定に当たる大統領直属の通商政策統括組織だ。

 経済・公共政策学者のナバァロ氏は中国共産党の非道ぶりを《米中もし戦わば 戦争の地政学/文藝春秋》など複数の著書・論文で極めて強く非難してきた。いわく-

 《共産党独裁政権の覇権追求は不変》

 《米中衝突を回避するには、中国の軍事力増強の基礎である経済力を弱め、一方で米国の国防力を増強することで、中国による米国覇権への挑戦意欲をそぐしかない》

 ナバァロ氏は、習近平指導部が掲げる看板《偉大なる中華民族の復興》の「異大なる中華民族の凋落」への掛け替えを目指している。