【田村秀男のお金は知っている】「為替条項」は日米通商を壊す 粘り強くトランプ政権を説得すべき - 産経ニュース

【田村秀男のお金は知っている】「為替条項」は日米通商を壊す 粘り強くトランプ政権を説得すべき

 先週の日米首脳会談で両国は、通商問題についての新しい対話開始で合意した。トランプ政権側の狙いは為替条項付きの日米自由貿易協定(FTA)の締結にある。為替条項によって、日本側は通貨・金融政策で大きな制約を受けるばかりではない。2国間の貿易不均衡を是正できないし、日本経済を停滞させかねない。(夕刊フジ)
 まずはグラフを見よう。日米の貿易収支を円ベースの日本側統計とドルベースの米側統計の両面で追い、円の対ドル相場と対比させている。対米黒字のトレンドは円ベースとドルベースではかなり違う。黒字額は円ベースの場合、円安に連動して黒字が増え、円高とともに減る。その点では、米側の主張通り、為替条項は不均衡是正には有効と見えるが、虚像である。
 トランプ政権が目指す貿易赤字の縮小は、もちろん米側統計のドルベースのほうである。ドルベースの対米黒字は円ドル相場に反応しないのだ。
 統計学でいう円ドル相場とドルベースの貿易黒字の相関係数(完全な相関関係は1)は0・1と相関関係はなきに等しい。円ベースの場合、為替相場との相関係数は0・86と極めて高い。
 円高ドル安になっても、逆に円安ドル高でも対日赤字水準はほとんど変わらない。円高ドル安でも米国にとって対日赤字は減らないのだ。
 円ベースで動く日本経済のほうは、円ドル相場に翻弄される。1ドル=80円未満の超円高だった2012年前半、日本の対米黒字は年間4兆円台だったが、同年末のアベノミクス開始後の円安傾向とともに円ベースの黒字額は膨らみ、14年以降は6兆~7兆円台に達した。この黒字増加額は国内総生産(GDP)の0・4~0・6%に相当する。
 経済成長率がゼロ・コンマ%台の日本の命運はまさに円ドル相場で左右される。為替条項によって、日本が半ば強制的に円高ドル安政策をとるハメになれば、景気はマイナス成長に落ち込み、円相場に連動する株価も下落する。
 日本経済はデフレ圧力とともに沈む。だからといって、米国経済が対日赤字削減で浮揚するわけではない。日本の需要が減退すれば米国の対日輸出も減る。為替条項は日米双方にとって何の成果ももたらさないどころか、日米通商を破壊しかねない不毛の選択だ。
 為替条項は日銀の金融政策を制約するばかりでなく、急激な円高局面での円売りドル買いの為替市場介入も米側の厳しいチェックにさらされる。これら日銀や財務省にとっての不都合さをタテに為替条項に反対したところで、トランプ政権は引き下がるはずはない。むしろ、日本側が為替条項をいやがるのは、意図的な円安をもくろんでいるからだとする疑いを強めるだけだろう。
 安倍政権としては上記のように、為替条項は日米の経済にとって不毛な結果しか生まないと、粘り強くトランプ政権を説得すべきなのだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)