南北接近は「半島の春」? 韓国艦撃沈の「主犯」が笑う白昼夢

久保田るり子の朝鮮半島ウオッチ
3日、平壌での南北合同公演で一緒に歌う北朝鮮の金英哲・朝鮮労働党副委員長(左から3人目)と韓国の都鍾煥・文化体育観光相(同4人目)ら(韓国代表取材団・共同)

 南北首脳会談を今月27日に控え南北は実務会談で詰めの調整を急いでいるが、議題は北朝鮮側の意向を優先する形になりそうだ。会談は南北軍事境界線にある板門店の韓国側施設「平和の家」で行われるため、韓国側では、『夫人は同行?』『金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長はどんな方法で境界線を越える?』などがもっぱらの話題。訪朝した韓国芸術団の平壌公演は北朝鮮側の客1万2000人が席を埋め尽くすなど和解ムードの中、韓国左派は「朝鮮半島の春」と盛り上がっているが、保守派は「アヘンの白昼夢」と酷評しており親北反北の左右対立は深刻化だ。(※4月14日の記事を再掲載しています)

目玉は軍事境界線越え?

 実務協議は5日、7日とすでに2回開かれているが、首脳会談の議題は18日に予定される閣僚級会談で調整される。南北は3月初旬の韓国特使団の訪朝で首脳間のホットライン(直通電話)設置で基本合意しており、首脳会談直前に初通話を予定するなど、イベント性を重視して平和ムードを高める計画のようだ。

 韓国側は非核化問題のほか平和体制構築、終戦宣言などの政治議題とともに南北交流の活発化を具体化したい意向で、今月3日の韓国政府非公開懇談会では「主題を限定せず、あらゆる議論が可能」との意見が出るなど、韓国側の絞り込みができていないこともうかがわせている。

 肝心の非核化について韓国側は、金正恩氏が中朝首脳会談で明らかにした「段階的」で「(制裁緩和などと)同時並行的な」包括的合意に向けた路線を事実上、すでに支持している。

 3月末に来日講演した文在寅(ムン・ジェイン)大統領の最側近、文正仁(ジョンイン)・統一外交安保特別補佐官(延世大名誉教授)によると、合意→申告→査察→検証と進み、検証を担うのは国際原子力機関(IAEA)だという。しかし「合意は一瞬だが履行の実現には長い時間がかかる」と留保を付け、「この長い時間」が「段階的」を意味するとした。「北朝鮮が具体的に一歩進めば、韓国や中国が国連に安全保障理事会の制裁緩和を要請することもできる」(文正仁氏)と、早くも制裁緩和を視野に入れた発言が聞かれる。

朝鮮半島の春は爛漫?

 4月1日と3日に平壌で開かれた韓国芸術団の公演は1万2000人で埋まったが、観客は朝鮮労働党の対南工作部門「統一戦線部」関係者や党中央の楽団団員、軍の芸術団員らだった。韓国紙「朝鮮日報」によると北朝鮮住民は韓国芸術団の公演があった事実は知っているが、出演者や出し物などは知らないという。

 韓国芸術団にはテコンドー演武団も加わり、合同公演なども行われて「私たちはひとつ」などと手を取り合ったが、実際には盛り上がったのは劇場の中だけで、北朝鮮の一般人からはかけ離れた作り物の交流だった。

 しかし、参加した韓国側からは「北朝鮮側の観客が世代交代した」「選曲では韓国側のレパートリーを多く入れるなど北側の配慮があった」などの好意的な談話が韓国メディアを賑わした。

 親北メディアで知られる韓国紙「ハンギョレ」は「いまや『朝鮮半島の春』は爛漫だ。南の芸術団の平壌公演で南北の間に情緒的な親しみも深くなった。文化交流が凍った心を溶かして冷戦の壁を崩す大きな力だということを立証した」と書いたが、保守派の自由韓国党は「朝鮮半島に春が来ると大騒ぎしているが、アヘンで白昼夢を夢見るアヘン長寿の春に過ぎない」との論評を出した。

哨戒艇爆破の「主犯」がジョークを言う時代

 北朝鮮は南北融和時代の北側責任者に金英哲(ヨンチョル)・統一戦線部長をあてている。金英哲氏は訪韓し、平昌五輪の閉幕式に出席したほか芸術団の訪朝でも歓迎夕食会などを主催した。だが韓国で「金英哲」といえば、2009年から2016年まで金正恩体制で再編成された韓国破壊任務の特殊機関「偵察総局」の責任者で、2010年の哨戒艦「天安」撃沈事件の首謀者として悪名高い人物だ。

 「天安」の魚雷攻撃については韓、米、豪、英、スウェーデンの合同調査団の調べで「北朝鮮の攻撃」と結論が出ている。文在寅政権はいまのところ、正面から「北犯行」を否定してはいないものの「撃沈の主犯を明確にすることは難しい」とあいまいで、金英哲氏への風当たりも微風で終わっている。

 当の金英哲氏は平壌公演の韓国取材団に「南側で『天安』撃沈の主犯といわれる人物が私です」などと冗談まじりで自己紹介。夕食会ではこんな挨拶をした。

 「人情が伝われば思いが通じ、思いが通じれば道は開かれる。今回のように北と南の芸術家が歌の旋律に深い同胞愛をのせながら互いに力を合わせれば、全同胞に豊かで立派な実りをもたらすことになるだろう」 「天安」で死亡した韓国軍人は46人。遺族会や仲間の将兵は韓国政府に「北朝鮮に謝罪を要求すべきだ」と求めている。(編集委員)