「自動運転車」は危険か? 事故を起こしたテスラ車種に乗ってみた

経済インサイド
自動運転モードが作動するテスラの「モデルX」。メーターパネルで前方の車に続く自車を確認できる=4月5日

 米電気自動車(EV)メーカー、テスラの3車種目のEVでスポーツ用多目的車(SUV)「モデルX」が3月、米国の高速道路で衝突事故を起こした。事故時に部分的な「自動運転機能」が作動していたことから、「自動運転車」が公道を走ることへの不安が日本でも広がった。運転手不要の車が当たり前となる時代が本当に訪れるのか。日本でモデルXに試乗し、自動運転の課題を探った。

 3月23日、米西部カリフォルニア州の高速道路でテスラのモデルXが中央分離帯に衝突し運転していた男性が死亡。同18日には、西部アリゾナ州で試験走行していた米配車大手ウーバー・テクノロジーズの自動運転車が、横断歩道ではない場所を横断していた女性をはね、死亡させる事故を起こした。

 相次ぐ事故は自動運転技術の開発を急ぐ他社にも波及。事故に直接関係のないトヨタ自動車が、米国での自動運転車の公道走行試験を一部中断するなど、波紋を広げている。

 自動運転を過信するのは危険だ。モデルXは、運転手がハンドルを握ることを前提に、車線逸脱を防いで車間距離を保つ運転支援システム「オートパイロット」を搭載していた。テスラは、音声などで警告したにもかかわらず、運転手の男性が事故前の6秒間にわたってハンドルを握っていなかったことを明かした。

 自動運転は危険なのか-。

 記者は4月5日、事故を起こしたモデルXに試乗しようとテスラ日本法人の店舗「テスラ青山」(東京都港区)に向かった。

 約1000万円からと高価だが「売れ行きは堅調」(広報担当者)という。目を引いたのは鳥が翼を広げるように開く後部座席の「ファルコンウィングドア」。高級スポーツカーそのままのイメージだ。

 目的地は静岡県御殿場市。まず、記者が助手席に、テスラのスタッフが運転席に座った。最初に目に入るのが、運転席の左側にある17インチの大画面ディスプレーだ。タッチパネルを操作するとさまざまな情報を表示でき、例えば、画面の上半分に目的地までの地図ルートを、下半分に電力消費量や航続距離の予測値を示すことができる。

 期待と不安が入り交じる心境で、東名高速道路の海老名サービスエリア(神奈川県海老名市)で運転を交代。恐る恐るアクセルペダルを踏み込むと、2トン超の重さを感じることなく、無音で一気に加速し、モデルXがEVであることを実感した。

 高速道路の本線に合流後、ハンドル左側のレバーを2回続けて手前に引くと自動運転モードが作動。メーターパネルの速度表示の右側にあるハンドルのイラストが灰色から青に変わり、アクセルやブレーキを踏まなくても前方の車との車間距離を保ちながら、ハンドル操作しなくても車線の中央を走り始めた。軽く握ったハンドルも自動的に動き、カーブを滑らかに曲がる。追い越し車線に入ろうと記者がウインカーを操作すると、追い越し車線後方に車がいないことを自動認識した上で勝手にハンドルが切られ、車線変更を終えた。

 モデルXは、複数のカメラや12個のセンサーで周囲の障害物を検知するなどして危険を回避する。トラックが横を通り過ぎるたびに肩に力が入ったが、御殿場インターチェンジで東名高速を降りると先進技術に身を任せる余裕が出てきた。

 体験した自動運転は日本も準拠する米自動車技術者協会(SAE)の5段階の分類で、ブレーキやハンドルなど複数の操作が自動となる「レベル2」にあたる。

 レベル2は運転の責任の主体が運転手となるため、ハンドルに手を添えることが前提だ。モデルXでは、一定時間手を離すと「ハンドルを握ってください」との警告がパネルに表示され、警告を無視するとチャイム音でも注意を促す。

 「テスラは経営破綻した」。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は4月1日、短文投稿サイト「ツイッター」でこうつぶやいた。エープリルフールの冗談だが、事業の先行きへの不安が高まっていることを受けて2日の同社の株価は下落した。

 テスラをめぐっては、モデルXの事故以外にも投資家心理に影を落とすニュースが相次いだ。3月末には、主力セダン「モデルS」を12万3000台リコール(回収・無償修理)すると発表。価格は3万5000ドル(約370万円)からで、手の届くEVとして予約が殺到する「モデル3」は生産の遅延が続く。

 記者は、テスラが逆風に見舞われる中で試乗したが、ハンドルやアクセルをどの程度動かすかを判断する手間を省けるストレス軽減効果は大きいと感じた。

 ただ、完全自動運転までの道のりは険しい。レベル2の一歩先にあるのが、一定の条件下で自動走行し、緊急時に運転手が操作する「レベル3」だ。しかし、会話などに気を取られている運転手が緊急時に迅速にハンドルを握ることは難しい。事故の法的責任を誰が負うかという問題もある。

 スウェーデンの高級車メーカー、ボルボ・カーはレベル3の安全性に懸念を示し、エリア限定で全て自動化される「レベル4」を2021年に実用化する目標を掲げている。

 ドライバーの自動運転システムへの過信にどう対応し、事故をどう減らすか。自動運転車に突きつけられた課題は重い。(経済本部 臼井慎太郎)

 テスラ 米カリフォルニア州に本社を置く新興の電気自動車(EV)メーカーで、シリコンバレーのIT技術者らが2003年に創業。社名は19世紀末から20世紀にかけて活躍した天才発明家、ニコラ・テスラの名前に由来する。最高経営責任者(CEO)は電子決済大手ペイパルの創業者でも知られるイーロン・マスク氏。日本市場には10年に参入し、EVの共同開発でトヨタ自動車と資本・業務提携したが、16年までに解消した。08年発売の初代EV「ロードスター」以来、今年3月までに日本を含め世界で30万台以上を販売した。

 自動運転車 搭載したカメラやセンサーで周囲の状況を把握し、自動で走る車。ハンドル、アクセル、ブレーキのいずれかを自動で操作する「レベル1」▽ブレーキやハンドルなど複数の操作が自動となる「レベル2」▽一定の条件下で自動走行し緊急時に運転手が操作する「レベル3」▽エリア限定で全て自動化される「レベル4」▽運転手を必要としない完全自動運転が可能な「レベル5」-の5段階ある。