シリア攻撃に秘めた米軍の北朝鮮防空網向け「威力偵察」

野口裕之の軍事情勢
14日、シリアへの軍事攻撃が始まり、首都ダマスカス上空を飛ぶミサイル(AP=共同)

 軍事上の偵察には、察知されぬよう行う《隠密偵察》と、故意に攻撃を仕掛けて「敵の所有武器や配置」など敵情を知る《威力(強行)偵察》がある。シリアのアサド政権が反体制派支配地域で化学兵器禁止条約に違反し化学兵器を使用したとして、米英仏軍は14日午前(日本時間)、巡航ミサイルで精密攻撃を加えたが、米軍にとり北朝鮮攻撃を想定した“威力偵察”だったと、筆者を含む一部安全保障関係者は考えている。

 注目したのは、ロシア軍がシリア軍に供与したり、自ら持ち込んだりしたミサイル迎撃システム《S300》と《S400》だった。特にS300は北朝鮮に供与され、北は改良型を配備済み。そこで米軍は、ロシア軍やシリア軍を“威力偵察”し→S300のミサイル発射を誘発し→能力を掌握した上で→朝鮮半島有事への備えを強化した、との推論を立てた。

 米軍は、シリア国内所在のロシア系軍事拠点を24カ所と分析する。そのうち、ロシア軍は少なくとも北西部ラタキア近郊のヘメイミーム露空軍基地にS400、西部タルトスのシリア海軍基地(ロシア海軍の補給拠点)にS300を配備する。

 果たして、シリア国内に所在する化学兵器の研究開発施設&貯蔵施設などに対し、米英仏軍は艦艇や攻撃機に装備した巡航ミサイル105発で攻撃し、全弾命中を果たした。ところが、ロシア・シリア軍はS300やS400のミサイルで迎撃しなかった。米軍の“威力偵察”は「音無しの構え」を貫いたシリア駐留ロシア軍にいなされた可能性は否定できない。

 迎撃ミサイル発射の封印が事実とすれば、ロシアは自国製兵器の性能秘匿は言うに及ばず、朝鮮半島における中国の影響力復活を憂い、S300改良型を配備する北朝鮮にも恩を売ったことなる。

 もう一つ、米軍が北朝鮮有事を濃厚に意識し、投入した兵器がある。米海軍協会ニュースは《複数のB-1B戦略爆撃機も攻撃に参加した》と伝える。仮に、B-1Bが発射したステルス巡航ミサイルが過去に使用されていない種類であれば、シリア攻撃に隠された新兵器の「性能試験」「演習」といった側面が浮かび上がってくる。

「第2次キューバ危機」回避か?

 もちろん、断定はできない。シリアのアサド政権を支えるロシアは「米軍巡航ミサイル71発の撃墜」を主張。アサド大統領も「旧ソ連製の防空兵器が迎撃に有益だった」と語る。だが、米側は「シリア軍の地対空ミサイル40発の発射は攻撃終了後。ロシア軍の防空システムは作動しなかった」と反論した。

 真相は明らかではないが、米軍はエスカレーションを回避せんと、ロシア軍と専用回線で連絡をとり、シリア上空における不測の事態を防ぐ手立てを講じた。2回=2日間の攻撃延期にも「米側の配慮」がにじむ。「着弾予定地点までロシア側に、シリアに筒抜けになるのを見越して事前通報した」との情報も、日米の安全保障関係者の間で流れている。

 マティス米国防長官は「外国人(ロシア)将兵の被害を避けるよう、配慮した」とハッキリと話しており、情報の確度は低くはない。情報が正しいとすれば、ロシア軍の防空能力を試さず、ロシア軍の作戦行動を牽制した「米側の配慮」説にポイントが加算される。

 米軍は昨年4月にも、反体制派支配地域で化学兵器を使ったシリア軍の航空基地などに巡航ミサイル攻撃を実施。60発の巡航ミサイルを撃ち込み、不発の1発を除き59発が目標破壊に成功した。ただ、このときもロシアが米国側から事前に攻撃を知らされていたにもかかわらず、シリアに配備した対空ミサイルが使われた形跡がなかった。

 ロシア上院国防委員長は露メディアに「シリアのロシア軍基地はS300とS400が安全に守っている」と明言したが、迎撃の有無は触れていない。当時も今回同様、安全保障関係者の間で「米国との対立激化を避けようと、攻撃を黙認したのでは」という観測が広がった。 

 昨年と今回の米軍による2回の攻撃とも、史上初となる米露直接交戦といった戦局のエスカレートに、米国が、あるいは米露双方が配慮した結果なのだろうか。ロシアにしても、シリアは中東~地中海をにらむ橋頭堡としての価値は高いが、シリアのために「第2次キューバ危機」を誘発する軍事行動など、全く視野に入れてはいないのだ。米国に至っては言わずもがな、だ。

ロシア製防空網の盲点を突いた米英仏軍

 だが、別の見方をする安全保障関係者もいる。

 米英仏軍が既にロシア製防空システムの能力を掌握。「S300や、もっと優秀なS400の防空エリアをつかんでいる証拠を暗に伝えるべく、レーダーの盲点を突き、防空エリアを正確に避けてみせた」か、「露レーダーが米軍の新型ステルス巡航ミサイルを捕捉できなかった」との仮説も視野に入れ、追加分析する必要があろう。

 このシナリオが正しければ、北朝鮮・朝鮮人民軍は大きな衝撃を受けたはず。なぜなら北朝鮮はS400に比べ性能の劣るS300の改良型を保有する。しかも、米英仏軍が発射した巡航ミサイル数は105発と発表されている。いたって抑制的な数だ。米海軍は1隻で最大154発の巡航ミサイルを発射可能な原子力潜水艦を有する。同型潜水艦や水上艦艇、航空機を多数投射して一斉攻撃すれば、S300はもとよりS400の迎撃能力をも凌駕する。

 北朝鮮は米軍を本気にさせれば、105発というシリア攻撃で使われたミサイル数に、ゼロが幾つも付く文字通りケタ外れの飽和攻撃を受ける。

 北朝鮮は核のみならず化学兵器開発もやめず、シリアに化学兵器・ミサイル関連製品と技術者をセットで密輸・提供してきた事実は、国連安全保障理事会・北朝鮮制裁委員会専門家パネルの報告書でも明らか。シリア攻撃は、シリアへの「ケジメ」であるとともに、北朝鮮に対する「ケジメ」予告宣告なのだ。

「カダフィ大佐の最期」想起させたシリア攻撃

 一方で、保守系の安全保障関係者ですら「カダフィ大佐の血だらけの最期」が北朝鮮・朝鮮労働党の金正恩委員長にもたらした悪影響を主張し、シリア攻撃を下策と断じている。

 こうした意見に筆者は懐疑的だ。「血だらけの最期」に至る過程を振り返る。

 国連安保理が反政府勢力を鎮圧するカダフィ政権に軍事制裁決議を採択し、仏英米軍を主力とする多国籍軍がリビア政府軍を攻撃。反政府軍に追われたカダフィ大佐が2011年10月に拘束→殺害され、42年間続いたカダフィ政権が崩壊した。リビアとは「反米同志」関係で、ミサイルや核物質を密輸していた北朝鮮の金正日・正恩父子はカダフィ大佐の血まみれの最期に、「明日のわが身」を想像したとしても不思議はない。

 金父子は、西側に譲歩し、核・ミサイル開発放棄など武装解除すれば命取りになるとかたくなに信じ、民主化をせず、独裁体制=先軍政治を一層強化。弾道ミサイル発射や核実験を繰り返した。

 けれども、北朝鮮の核・ミサイル開発はカダフィ政権崩壊のはるか以前より強行されてきた。カダフィ政権の崩壊で核・ミサイル開発への決意を強めた側面はあろうが、北朝鮮の核・ミサイル開発に関わる「放棄」「実験停止」「凍結」を約束しながら、破りまくった歴史は忘れてはならない。

 シリア攻撃を受け、「中国+ロシア+イランが北朝鮮に『米朝核廃棄合意』に向けた時間稼ぎや合意内容の微妙なすり替えに関し、『水面下で知恵を授ける』」との懸念も、安全保障関係者の間で少なくない。しかし、中国+ロシア+イランは今も昔も、北朝鮮に『水面下で知恵を授ける』行為を、ずっとやっている。

 シリア攻撃に異を唱えることは、北朝鮮の核・ミサイル完成に猶予を与え→次の「四半世紀」も北が繰り出す核の恫喝に震え→命じられるがままに「延命資金」を拠出し続けろと、声を張り上げているに等しい。