神戸製鋼の立て直しに水を差す「米中貿易摩擦」 いばらの道歩む新社長

経済インサイド

 製品データ改竄(かいざん)問題に揺れる神戸製鋼所が、4月1日付で副社長から昇格した山口貢(みつぐ)社長(60)のもとで再スタートを切った。山口氏には事業部門トップとしての実績があり、社内の評価も高い。もっとも、再発防止策を徹底し、地に落ちた信頼を回復するのは容易ではない。しかも、深刻化する「米中貿易摩擦」が同社の業績立て直しに水を差しかねず、山口氏は出だしから“いばらの道”を歩み始めた。

 「多くの皆さまにご迷惑をお掛けし、改めて深くおわび申し上げる」

 3月16日。東京都港区のホテルで開かれた山口氏の社長内定の記者会見は、いきなり謝罪の言葉から始まった。しかも、引責辞任を表明していた会長兼社長の川崎博也氏(63)は姿を見せず、異例ずくめのお披露目となった。1人で席に着いた山口氏は「神戸製鋼は変わったと思っていただけるよう、不退転の決意で変革に取り組む」と力説。事前にリハーサルしたこともあってか、報道陣の厳しい質問にもよどみなく答え、まずは無難なスタートを切った。

 山口氏の社長昇格は慌ただしく決まった。川崎氏の辞任表明は、データ改竄の最終調査報告書が出された3月6日で、山口氏に社長就任を要請したのはその翌日。山口氏はその場で受諾したが、「やはり驚いたというかびっくりした」と振り返る。

 昭和56年に入社し、20代を鉄鋼部門で過ごした後は、大型圧縮機などを手がける機械部門を中心に歩んだ。神戸製鋼は、傘下に鉄鋼やアルミ・銅、建設機械などの多くの事業を抱えているが、機械はいわば「非主流」。同部門の出身者が社長になるのは100年を超える歴史で初めてだ。

 社長に最も近い副社長は山口氏を含めて4人いたが、金子明氏(63)は最も多く不正に手を染めていたアルミ・銅事業の担当で、川崎氏とともに辞任。尾上善則氏(62)は川崎氏と同期で、やはり担当する鉄鋼部門が不正に手を染めた。梅原尚人氏(63)は、品質担当やコンプライアンス(法令順守)担当として責任があった。機械部門でも不正はあったとはいえ、数は少なく、山口氏は最も“無傷”に近かった。

 下馬評では、経営企画担当の水口誠専務執行役員(58)や神鋼商事の森地高文社長(59)=元神戸製鋼専務執行役員=が有力視されたが、同社には取締役しか社長になれない内規がある。このため、山口氏以外に選択肢はなかったともささやかれる。

 ただ、山口氏の評価は高い。平成29年には、同社で過去最高となる約130億円を投じ、スウェーデンの大型プレス装置メーカー買収をまとめ上げた。非主流部門出身とはいえ、経営企画担当として川崎氏を補佐した経験もある。実際、川崎氏からは「本社と事業部門を経験している人間がいい」と説明されたという。

 ある社員は「性格は真面目で決断力もあり、リーダーにふさわしい」と太鼓判を押す。

 ただ、川崎氏は辞任を表明した3月6日の会見で、次の社長に必要な資質として「強力なリーダーシップ」を挙げた。これに対し、山口氏は「対話、コミュニケーションが大事と理解している」と話したあたり、強力なリーダーシップより、「和を尊ぶ」タイプにみえる。

 同社は品質不正の再発防止策として、4月1日から全取締役に占める社外取締役の比率を3分の1以上に高めた。会長職を廃止し、社外取締役が取締役会議長を務めることも決めた。山口氏は「リーダーシップは(山口氏を先頭に)執行側でとっていくので、社外取締役の比率を上げることと齟齬は感じない」としたが、多くの“お目付け役”がいる中で実行力を発揮できるかは未知数だ。

 しかも同社は品質不正をめぐり、米司法当局から「サピーナ」と呼ばれる罰則付き召喚状で資料提出を求められている。北米の消費者からは損害賠償を請求されており、対応を一歩誤れば、傷口がさらに広がりかねない。

 さらに、品質不正への対応以上に難しそうなのが業績の立て直しだ。同社は30年3月期こそ450億円の最終黒字を見込んでいるが、過去10年の実に半分は赤字だ。特に主力の鉄鋼事業は収益改善が急務となっている。

 アルミ事業は高い利益を稼ぎ出しているが、トランプ米政権が3月23日に発動した輸入制限で、鉄鋼とともに先行きの不透明感が一気に増している。鉄、アルミともに日本から米国への輸出量は少なく、高い技術を必要とする製品が中心で、代替は効きにくい。

 このため、直接的なダメージは小さいとみられるが、輸入制限で米国からあぶれた製品がアジアに出回り、市況が悪化すれば、影響をもろにかぶる。米中貿易摩擦で世界経済自体が悪化し、需要そのものが激減するリスクもつきまとう。山口氏が優秀な経営トップとしても、「完全復活宣言」が出されるまでにはしばらく時間がかかりそうだ。(経済本部 井田通人)

 神戸製鋼所 1905(明治38)年創立の大手鉄鋼メーカーで、本社は東京都品川区と神戸市中央区にあり、海外では「KOBELCO」のブランドで知られる。複合経営と呼ばれる独自の多角化を推進。世界の鉄鋼メーカーで唯一、アルミ事業を手がけており、ほかにも建設機械や電力事業など多くの事業を傘下に抱える。平成30年3月期の連結売上高見通しは1兆8900億円。29年3月末時点の従業員数は3万6951人。