【経済インサイド】コインチェック買収「36億円」高い?安い? 初公表の財務内容から見えたのは… - 産経ニュース

【経済インサイド】コインチェック買収「36億円」高い?安い? 初公表の財務内容から見えたのは…

初公開されたコインチェックの財務資料。急成長した様子がうかがえる(蕎麦谷里志撮影)
記者の質問を受けるマネックスグループの松本大社長(左)、コインチェックの和田晃一良社長ら=4月6日、東京都港区(宮川浩和撮影)
記者会見するマネックスグループの松本大社長(左から2番目)とコインチェックの和田晃一良社長(右から2番目)=4月6日、東京都港区(田辺裕晶撮影)
記者会見するマネックスグループの松本大社長(左から2番目)とコインチェックの和田晃一良社長(右から2番目)=4月6日、東京都港区
記者会見するマネックスグループの松本大社長(左から2番目)とコインチェックの和田晃一良社長(右から2番目)=4月6日、東京都港区
記者会見するマネックスグループの松本大社長(左)とコインチェックの和田晃一良社長=4月6日、東京都港区(宮川浩和撮影)
大勢の報道陣が詰めかけたマネックスグループによるコインチェック買収の記者会見=4月6日、東京都港区(宮川浩和撮影)
記者会見に臨む(左から)マネックスグループの勝屋敏彦取締役、松本大社長、コインチェックの和田晃一良社長、大塚雄介取締役=4月6日、東京都港区(宮川浩和撮影)
 約580億円分の仮想通貨「NEM(ネム)」を流出させた交換所大手コインチェック(東京)が、インターネット証券大手マネックスグループの完全子会社になることが決まった。買収に際し公表された資料では、これまで“謎”とされてきたコインチェックの財務内容が示され、関係者からは「36億円」の買収額の妥当性について賛否両論が渦巻いている。果たして高いのか、安いのか…。
 「典型的なスタートアップ企業(前例のない技術やアイデアを生かして急成長を図る企業)という印象だ」
 メガバンクの関係者はコインチェックの財務内容を見た印象をそう語る。公表資料によると、同社は平成27年3月期の最終損益が1000万円の赤字だったが、28年3月期は黒字に転換。29年3月期は4億7100万円の黒字を生み出していた。
 30年3月期の数字は公表されなかったが、流出したネムの補償として466億円を払った後も、資産額から負債額を差し引いた純資産額は「29年の純資産額(5億4000万円)を下回らない」としている。このため、30年3月期は500億円近い最終利益を生み出したとみられ、急成長してきた様子がうかがえる。
 マネックスがコインチェック買収を発表した4月6日の記者会見では、報道陣から「コインチェックの収益力からすると買収額は低い印象だ。予期せぬリスクがあったのか」といぶかる質問も飛び出した。
 マネックスの松本大(おおき)社長(54)は「『アーンアウト』とよばれる手法を使っており、見た目の数字は小さくみえる。リスクが大きいとか、コインチェックの収益力が小さいことが理由ではない」と述べた。
 アーンアウトとは聞き慣れない言葉だが、米国のM&A(企業の合併・買収)ではよく使われる手法で、買収額の一部を一定の条件が成立した段階で支払うというものだ。コインチェックの買収では、「今後3事業年度で発生した最終利益の2分の1を上限に元の株主に支払われる」ことが盛り込まれた。
 例えばコインチェックが31年3月期に10億円の利益を出せば、最大で5億円が元の株主に追加で支払われるという仕組みだ。
 メガバンク関係者は「元の株主にとっては、不祥事を理由に安く買いたたかれることが防げるし、マネックスとしても再建がうまくいかなかった際のリスクを最小限にとどめることができる。ちょうど良い落としどころだったのだろう」と分析する。
 ただ、企業がM&Aをする際、買収側は買収時の価値だけでなく将来生み出すであろう価値も上乗せして買収額を算出する。革新的な技術やアイデアを持っている企業であれば何百億円という値がついてもよさそうだが、このメガバンク関係者は「仮想通貨の売買を仲介していたコインチェックにはそういった魅力はない」とも打ち明ける。
 仮想通貨交換業者のある社長も「コインチェックは訴訟を抱え金融庁の登録業者でもない企業。上場企業の常識からすれば相当なリスクだ」とし、必ずしも今回の買収額が安いとはいえないとの見解だ。
 今抱える訴訟だけでも、仮に賠償を命じられれば巨額の損失が降りかかる。また、29年4月施行の改正資金決済法は、交換業者に登録制を導入した。改正法施行前から事業を運営していたコインチェックは「みなし業者」として業務を認められているが、万一、金融庁から登録許可されなければ、廃業を余儀なくされる。
 これに対し、ある業界関係者は「訴訟リスクなどさまざまなマイナス面を考慮してもマネックスはいい買い物をした」と話す。コインチェックの最大の魅力は最大手のビットフライヤーに次ぐ、170万口座という顧客基盤といい、「競争が激化する中、一から始めてこの規模に成長させるのは至難の業。流出問題で顧客が半分になったとしても魅力的だ」という。
 一つ気がかりなのはコインチェックのビジネスモデルだという。「利益率がものすごく高いが、これは明らかに仮想通貨交換の手数料ビジネスではない」と指摘する。
 仮想通貨交換業者は売買の仲介で得る手数料のほか、独自に仕入れた仮想通貨の直接販売もしている。安い時期に仕入れて高く売れば収益も大きく、コインチェックもこうしたビジネスで得た利益(利食い)が相当含まれているのではないかと分析。「かなり利食いをしており、顧客本位の経営をしていないのは明らか。長く続くビジネスモデルではない」と警鐘を鳴らす。
 そもそも、今回の流出問題も、顧客資産の保護よりも事業拡大を優先させたことが背景にあるとされる。「顧客資産の保護を第一に考え、サービスを再開したい」。4月6日の会見でそう述べたコインチェックの和田晃一良社長(16日付で退任し執行役員に就任)だが、取り組まなければならない課題は多い。
 6日の東京株式市場で、マネックスの株価は、ストップ高水準まで急上昇した。ネット証券のシェア争いで苦戦する中、市場はひとまず仮想通貨交換業への参入を好感した形だ。ネット証券の黎明(れいめい)期を支えた松本氏は、リスクを承知で起死回生の「賭け」に出た。(経済本部 蕎麦谷里志)
 マネックスグループ インターネット証券大手のマネックス証券を傘下に持つ持ち株会社。外資系証券出身で松本大氏が平成11年に設立した。ソニー系の証券会社などと統合し、規模を拡大。米国や香港でもネット証券事業を展開している。主な収益源は株式などの売買で得られる手数料で、30年3月末時点の口座数は約176万、預かり資産は約4兆2000億円。
 コインチェック 仮想通貨交換業の登録を申請中のみなし業者。平成24年設立。東京都渋谷区に本社を置く。国内大手の交換所を運営し、仮想通貨イーサリアムなどの取引を扱う。ビットコインを使った決済サービスも手掛け、飲食店などで採用されているが、今年1月下旬の「NEM(ネム)」流出後は停止中。昨年12月の取引高は約3兆8537億円。今年3月時点で、利用者の口座数は約170万、社員数は約100人。