【野口裕之の軍事情勢】米軍大将の亡霊がトランプ大統領の寝室で「在韓米軍撤退」を夜ごと囁く? - 産経ニュース

【野口裕之の軍事情勢】米軍大将の亡霊がトランプ大統領の寝室で「在韓米軍撤退」を夜ごと囁く?

南北融和に取りつかれている韓国の文在寅大統領(右)と北朝鮮の金与正・朝鮮労働党第1副部長=2月11日、ソウル(聯合=共同)
平成15年6月に来日し、歓迎行事で栄誉礼を受ける韓国の盧武鉉大統領(右)=東京都港区の迎賓館
連合国軍最高司令官・マッカーサー元帥(左)と韓国の李承晩大統領=1950年撮影
中国・丹東市郊外にある旧清城橋。中国人民志願軍はこの橋などから対岸の北朝鮮領に入って朝鮮戦争に参戦した(藤本欣也撮影)
米韓合同軍事演習が始まった1日、ソウル近郊の在韓米軍基地に駐機するヘリコプター(聯合=共同)
9日、米ホワイトハウスで発言するトランプ大統領(右)ら(AP=共同)
3月26日、北京の人民大会堂で握手する中国の習近平国家主席(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信撮影・共同)
 ドナルド・トランプ大統領の寝室に夜な夜な現れて、「在韓米軍撤退」を耳元で囁く亡霊がいるのでは?と筆者は想像をたくましくしている。亡霊の名は米陸軍のマシュー・リッジウエイ大将(1895~1993年)だ。
 前回、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と中国の習近平国家主席との会談後、安全保障関係者と実施した今後の展開を探るシミュレーション結果を一部紹介した。その一つが《在韓米軍の漸減→撤退》だった。陸軍大将の亡霊がトランプ氏に「在韓米軍撤退」を吹き込む理由は奈辺にあるのか。それが今次のテーマだ。
 まずは金氏が《核と弾道ミサイルの完全で検証可能、かつ不可逆的な廃棄を実行する》と一応“対米公約”。見返りに《体制保障》と《段階的な朝鮮半島の非核化》を求め、歴史に名を刻みたいトランプ氏が条件を呑んでしまうシナリオを考察したい。
 果たして、この「取引」には落とし穴がある。《段階的》は「時間稼ぎ」を、《朝鮮半島の非核化》とは北朝鮮だけでなく、核抑止力を伴う「在韓米軍の漸減→撤退」を意味する。
 金氏との会談で《段階的な朝鮮半島の非核化》につき合意したとされる習主席に拒む理由はなし。「北朝鮮大好き」で、在韓米軍撤退を念頭に置く戦時作戦統制権返還要求を優先政策にする韓国の文在寅大統領も飛び付き、在韓米軍撤退=米韓同盟の劣化→同盟消滅へとカジが切られる。従って、中国を後ろ盾とする南北の連邦化→統一に拍車がかかる。やがて対馬は中国・統一朝鮮と対峙する最前線と化し、統一朝鮮領に中国人民解放軍が駐留する。
 日本はもちろん、米国の東アジア&世界戦略にとっても最悪のシナリオ。朝鮮戦争(1950~53年休戦)で米陸軍第8軍や朝鮮国連軍の司令官を務め、窮地に陥った味方を反転攻勢させた名将リッジウエイが大統領に「在韓米軍撤退」を進言する道理はない。
 しかし、韓国軍のモラル(軍紀)&モラール(士気)の救いようのない低さを、かつて肝に銘じた私人としてのリッジウエイ氏なら、「在韓米軍の漸減→撤退」を心中に秘めている可能性がある。米軍筋や、米軍と接触した自衛官らいわく-
 「朝鮮半島有事で、米軍が備える相手は中国人民解放軍と北朝鮮・朝鮮人民軍の他にも存在する。韓国軍だ。米軍は3正面で戦いを強いられる」
「韓国軍だけが私の悩みだった」と語る米将軍
 韓国軍は近年、親に甘やかされて育った兵士が増加し、訓練教官は腫れ物に触るように扱うとか。民主化キャンペーンを進め、上官を「おじさん」と呼ばせるなど、上下関係が弛緩している。兵器製造過程での致命的ミスや部品の使い回しも度々で、稼働率は自衛隊では到底考えられないほど低い。
 そこにきて「北朝鮮大好き」の文政権の現出で、朝鮮半島有事において「韓国軍の作戦行動が緩慢になる」と利敵行為を危惧する米関係者は多い。文政権への情報漏洩を恐れて、韓国軍中枢への情報統制を敷いてもいる模様だ。
 韓国軍の「文化」は今も昔も変わりがないのかもしれない。後述するリッジウエイ将軍の回顧録《THE KOREAN WAR=日本語版・恒文社》は既視感満載だった。
 朝鮮戦争の戦端は朝鮮人民軍が1950年6月、当時の国境=38度線を突如越え開かれた。朝鮮人民軍の怒濤の南侵で米韓軍は最南端の釜山まで追い詰められる。9月の仁川上陸で形成が逆転、米韓軍は中朝国境に迫るが、義勇軍を装った人民解放軍が10月に参戦する。
 人災ならぬ「韓国災」と呼ぶべき困難な後半戦の始まり…。リッジウエイ将軍の回顧録は《頻繁に逃げ出した》韓国軍への怒りで満ちあふれる。
 《韓国軍の態度だけが私の悩みだった。進撃する中国軍は韓国軍部隊を次々と敗走させ、そのたび韓国軍は補充困難な、高価な多数の(米国供与の)装備を放棄した》
 51年5月の東部中央戦区では、人民解放軍の攻勢に韓国軍が、戦線の遙か後方に駆逐されたが-
 《退却する韓国軍が放棄した装備は、肩をすくめるだけで済むものではなかった。それは完全装備の数個師団を充分に装備できた》
 人民解放軍は韓国軍の米製兵器を鹵獲(ろかく)した。《米軍が米軍の装備で殺された》のである。
 けれども、韓国の李承晩大統領はメンツに固執し、韓国軍の前線配備を譲らず、《非武装の巨大な韓国の人的資源を米国の武器で武装させれば、米軍の兵員は少なくて済む》と言い張った。リッジウエイ将軍によれば《李大統領の第一の課題は、彼の軍隊に充分な統率力を確立することであった》。だが、そもそも、李大統領自身が戦争勃発時に国民や将兵を置き去りにし、韓国南部へと「三十六計」を決め込んだ不適格者だった。
 結局、リッジウエイ将軍は《第一線から全ての韓国師団を引き上げ、訓練する時間が必要/(そうしなければ)米国による韓国軍の装備補強は検討しない》と警告し、おびえた李大統領に呑ませている。
 練度不足とはいえ、一国の指導者を“先頭”に敵前逃亡を繰り返す韓国軍戦史を、米軍将校は戦史教育課程で学んでいる。今なお、韓国軍に不信感を抱くのは当然だった。
逃げまくる韓国軍
 人民解放軍は韓国軍の無様を詳細に観察していた。攻撃目標を米軍や英軍、トルコ軍の防衛担任区ではなく、常に韓国軍の担任区に絞り、韓国軍は毎度総崩れ→潰走を続けた。リッジウエイ将軍は半ば「韓国軍はずし」さえ視野に入れていたようだ。
 《韓国軍1個師団の崩壊によって、他の国連軍部隊の各側面が危険にさらされ、彼らもまた後退を余儀なくされた》
 戦において、仮に左翼の韓国軍が防衛線を勝手に放棄すれば、右翼に陣取る友軍が脇腹を急襲される。軍事用語で「側背を衝かれる」といい、絶対に避けねばならぬ下策中の下策だ。
 これまでの、また、これからの米朝密約にもよるが、中国が朝鮮半島有事で米国の敵に回れば、人民解放軍と朝鮮人民軍は朝鮮戦争同様、韓国軍を狙い撃ちする。
 もっとも、日米韓vs中朝露の現構図が日米vs中朝露韓へと激変する恐れはある。文政権が北朝鮮との連邦制→統一に今以上に前のめりになり、北朝鮮に過剰配慮し、米国の軍事プレゼンス逓減を狙う近未来は否定できぬ。軍事費や部隊展開の地球規模での再配分を研究・分析中のトランプ政権は、米韓同盟順守義務より解放され、渡りに船と在韓米軍撤退を考える。米韓同盟消滅への序曲である。
 政治指導者が自らの野心を達成すべく、安全保障を利用する手法は禁じ手で、行えば国運を左右する。韓国には文氏はじめ、この手の大統領を数多輩出している。
米大統領に「軽薄男」と呼ばれた韓国大統領
 文大統領が師匠と仰ぐ盧武鉉大統領(1946~2009年)も然り。当時のジョージ・ブッシュ大統領(子)はホワイトハウス内で、大言壮語が目立つ盧大統領を「軽薄男」と呼んでいた。案の定、陸軍士官学校の卒業式(2005年)での祝辞で、米国を激高させた。
 「私たちは今後、韓(朝鮮)半島のみならず、北東アジアの平和と繁栄のため、『バランサー』の役割を果たしていく/私たちがどのような選択をするかによって、北東アジアの勢力図は変化するだろう」
 折しも、北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)脱退を表明(2003年)を経て、前月に核兵器製造を公式発表したばかりであった。南北融和に向けた自主外交路線を念頭に、盧大統領は米国を揺さぶろうと『バランサー』を自任し始めたのだ。
 リチャード・ローレス国防次官補(アジア太平洋担当)の反応を、筆者は今も忘れられない。
 「北東アジアのバランサー論は米韓同盟と両立できないコンセプトだ。もし、同盟を変えたければいつでも言ってください。希望通りにして差し上げます」
 ブッシュ政権は朝鮮半島以外にも在韓米軍を投射する、戦略の大変更提示…など、本気で圧力をかけた。盧政権は米国の強硬姿勢に大慌てし、対米懐柔に奔走。揚げ句の果てに、米韓自由貿易協定(FTA)締結やイラク派兵…など、ブッシュ政権の主要要求を全て受諾した。
 自身の力を認識できぬ韓国の歴代政権は同種の過ちを繰り返している。かくして、日米と中朝の間を「顔色」を見ながら行ったり来たりしている。