【経済インサイド】自動運転車、コネクテッドカー…白熱する自動車大手のAI技術者争奪戦 - 産経ニュース

【経済インサイド】自動運転車、コネクテッドカー…白熱する自動車大手のAI技術者争奪戦

ホンダの人工知能(AI)搭載ロボットの試作機(左)とロボット四輪車=1月、米ラスベガス(共同)
横浜赤レンガ倉庫の近くを通る自動運転車。車両開発の要となる技術者の争奪戦が過熱している=2月、横浜市
会社説明会で企業担当者に質問する学生ら。自動車メーカーも厳しい選別の目にさらされている=3月、東京都文京区
日産自動車とDeNAが自動運転車を使った配車サービスの実験開始を発表し、走行デモンストレーションが行われた=2月23日、横浜市
商用サービス向け電気自動車の試作車を説明するトヨタ自動車の豊田章男社長=1月8日、米ラスベガス(共同)
 自動運転車、通信機能を備えたコネクテッドカー(つながる車)…。国内の自動車大手や部品メーカーが、業種や国境の垣根を越えて、次世代車の開発を担う技術者の獲得にしのぎを削っている。一方、売り手市場の中、理系の新卒者や既卒の技術者は就職・転職先を厳しく選別。企業側は、技術者が働きやすい研究開発体制を構築して魅力を高めようと知恵を絞っている。
 「やりたいことを、本気でやろう。」
 ホンダは、中途採用を告知するウェブサイトにこんなキャッチコピーをつけて、技術者のチャレンジ魂をくすぐる。
 技術職の募集職種は、人工知能(AI)を使った自動運転支援システムの研究開発▽コネクテッドカーの通信技術開発▽電動二輪車の研究開発-など幅広い。
 ホンダは、平成30年度の中途採用を29年度比2割増の700人にすると発表。自動運転技術やAIなどに開発領域が広がっていることを踏まえ、異業種からの採用も増やす。
 三部敏宏常務執行役員は「ホンダには芝刈り機からバイクまでAIを使って動かしたい『おもちゃ』が多くある」と強調。アイデアの実現に向けて情熱を燃やす創業以来の経営思想「ホンダイズム」が息づく開発環境だと自信をのぞかせる。
 一方で、「中途採用は取り合いだ。10人ほしいからすぐに10人を集められるかといえばそうではない。仕事のやりがいを見いだせる組織でないと人材は集まらない」と気を引き締める。
 特に今後、世界で開発競争が活発化する自動運転車をめぐっては、各社が専門人材の拡充や開発体制の強化を急ぐ。
 ホンダは32年に高速道路での自動運転、37年をめどに一般道の決められたエリアで全ての操作を自動化する「レベル4」の自動運転技術の達成を目指す。
 このため、ホンダ子会社の本田技術研究所は28年、東京都港区にAIの研究開発拠点を開設。大学や研究機関が集まる都心部に拠点を構えることで、国内外の技術者との連携を強めることが狙いだ。
 自動車部品大手のデンソーも4月、東京都港区のJR品川駅近くに自動運転などの研究開発に取り組む拠点を新設した。
 エンジンなどを扱う機械工学系人材の比重が高かった自動車大手は、AIを活用する経験が浅い。それだけに外部と連携し技術を補うだけでなく、自前の人材確保も不可欠だ。
 多種のセンサーやAIを駆使し人の運転を代行する自動運転車を、複雑な市街地で実用化するハードルは高い。AIで車両や歩行者などの動きを予測し危険を回避する精度が実用化の鍵を握っている。
 2020年代前半に一般道で自動運転できる技術の実用化を狙うトヨタ自動車も布石を打った。3月、デンソー、アイシン精機との共同出資で自動運転技術を開発する新会社を東京都文京区のトヨタ東京本社内に設立。3社の社員約300人で発足し、国内外から技術者を集め、1000人規模に拡大するという。
 技術者の転職支援を手がけるメイテックネクスト(東京都台東区)に企業から寄せられる求人は、「製品の制御」「電子回路の設計」「IT・AI関連の開発」に携わる人材だ。このうちIT・AI関連の求人数は、集計を始めた平成28年6月の432人から上昇し続け、今年2月に4倍の1730人に達した。
 ただ、自動車メーカーが目を付ける技術者には電機や金融など他業種も熱い視線を注いでおり、人材獲得は一筋縄ではいかないのが実情だ。理系学生の厳しい選別の目にもさらされ、かつて多くの学生の憧れの的だった自動車業界の存在は揺らいでいる。
 就職情報会社のマイナビ(千代田区)が昨春、30年3月に卒業する見込みの大学生を対象に調査した「就職先企業の人気ランキング」では、21年3月卒まで5年連続で理系学生の首位だったトヨタが、30年3月卒は6位と低迷している。
 熾烈(しれつ)化する人材争奪戦をどう乗り切るべきか。メイテックネクストの河辺真典社長は「発想力とスピード感が求められるIT業界の思想を開発に取り入れる必要がある」と解を示す。
 その上で、工場との連携や現場経験の積み上げを重んじる従来の開発部門とは一線を画し、自動運転技術を開発する別会社を立ち上げたトヨタの選択を「(人材獲得の)一つの方向かもしれない」と評価した。
 開発組織を分離することで、安定より自由な職場環境を重視する技術者気質を踏まえた人事制度を設計したり、従来の賃金体系と異なる処遇で優秀な人材を引きつけたりしやすくなる。
 昨年、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の日本法人が理系新卒者を初任給約40万円で募集。日本企業の大卒の平均の約2倍の待遇が話題となった。
 トヨタや日産自動車などに務めた経歴をもつボルボ・カー・ジャパンの木村隆之社長は「優秀な理工系人材が多いインドなどに開発拠点を配置し、待遇も世界基準に引き上げるべきだ」と持論を披露する。
 労働人口が減少する中、AIは一部の仕事を担い始めたが、次世代技術を生み出すには、AIを駆使できる優秀な人材が必要だ。技術者の争奪戦はますます激化しそうだ。(経済本部 臼井慎太郎)