台湾併合を狙う中国には、在韓米軍の移動で阻止!?

野口裕之の軍事情勢
3月、北京の人民大会堂で握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と中国の習近平国家主席(新華社=共同)

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が中国の習近平国家主席と会談した後、安全保障関係者と今後の展開をシミュレーションした。金氏の「朝鮮半島非核化表明」は《核・ミサイル開発の時間かせぎを狙う擬態》が最有力視されたが、副次効果?も浮上した。《米軍の台湾駐屯》である。半島情勢激変が後押しし始めた観がある。

台湾は戦略的3要衝の「交差点」

 《米軍の台湾駐屯》に至る道筋はいくつか想定されたが、その一つが《在韓米軍の漸減→撤退》だった。

 例えば、金氏が《核と弾道ミサイルの完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄を実行する》と“対米公約”。見返りに《体制保障》と《段階的な半島の非核化》を求め、歴史に名を刻みたいトランプ米大統領が条件をのんでしまうシナリオだ。

 だが、この「取引」には落とし穴がある。《段階的》は「時間稼ぎ」を、《半島の非核化》は「在韓米軍の漸減→撤退」を意味する。金氏との会談で《段階的な半島の非核化》に合意したとされる習氏に拒む理由はない。「北朝鮮大好き」で在韓米軍撤退を念頭に置く戦時作戦統制権返還要求を優先する韓国の文在寅大統領も飛び付き、在韓米軍撤退=米韓同盟の劣化→消滅へと舵が切られる。

 従って中国を後ろ盾とする南北の連邦化→統一に拍車がかかる。やがて対馬は中国・統一朝鮮と対峙する最前線と化し、統一朝鮮領に中国人民解放軍が駐留する。

 かくなる危機に陥れば、次善の策として在韓米軍を台湾に振り分けるべきだ。台湾は(1)中国が軍事膨張を止めぬ南シナ海(2)人民解放軍の台湾侵攻で来援が期待される米空母打撃群の通り道=太平洋(3)中国の対日侵略で緒戦の舞台になる東シナ海-の「3海域=戦略的3要衝の交差点」に位置する。日本列島~沖縄~台湾を結ぶ「海上の長城」上に自衛隊や米軍に加え台湾軍が防衛線を敷けば、中国の東方侵出を封じ込める巨大な抑止力となる。

 付言すると台湾は沖縄と並び米国が構築する世界秩序の策源地。日本にとっても経済の生命線たるシーレーン防衛の「守護神」だ。

 一方、在韓米軍はアジア・太平洋地域展開も考慮するが、朝鮮人民軍と、朝鮮戦争では北に合力した「人民解放軍」への備えが主任務だ。米軍の3カ所展開は理想だが、2カ所の選択を迫られれば沖縄・台湾への兵力投射に軍配が上がる。

 トランプ米政権の大統領補佐官(安全保障問題担当)に内定したジョン・ボルトン元国連大使も昨年、米紙への寄稿で《米軍の台湾駐屯》を提唱した。ボルトン戦略とは-

 《台湾への米軍駐屯や軍事装備の輸出拡大で、米国は東アジアの軍事態勢を強化できる》

 《海洋の自由を守り、一方的領土併合を防ぐ戦略は米国の核心的利益だ。台湾は沖縄やグアムに比べ、中国が軍事聖域化を進める南シナ海に近い。米軍の迅速な戦闘配置を柔軟にする。台湾との軍事協力深化は重要なステップだ》

 ただ、米軍の台湾駐屯には1972年の《上海コミュニケ》が障害になる。米国は中国側に「一つの中国」「台湾の全武力・軍事施設の最終的撤去(米軍駐留終了)に向け、これを漸減する」などを約した。他方、米国は79年、中国と国交樹立=台湾と国交断絶に踏み切った際、中国の台湾侵攻阻止などを念頭に武器売却などを担保した《台湾関係法》を発効させた。

 ボルトン氏は《台湾関係法の下で台湾との(軍事)関係拡大は十分可能だ。基地を設け活動する権利は全面的防衛同盟を意味しない。相互防衛条約の再交渉など新立法措置も不要だ》と明言。国際法の《事情変更の原則》を持ち出した。

 確かに、中国が軍事膨張を驀進する危機的情勢に直面する今、《上海コミュニケの大部分(前提)が時代遅れになり、拘束力を失った》といった合法的解釈も成り立つ。

台湾旅行法成立は米国家戦略の劇的大転換

 折しも3月、米台高官らの相互訪問を促進する《台湾旅行法》が米国で成立した。米国務次官補代理(東アジア・太平洋担当)や米商務次官補代理が早くも訪台し、米下院外交委員長(共和党)は蔡英文・総統と総督府で会談した。

 台湾旅行法成立は米国家戦略の劇的大転換だ。台湾関係法は対中配慮もあって総統、副総統、行政院長(首相)、外相、国防相らトップ5人のワシントン入りを事実上禁じ、米政府高官も台湾のカウンターパートに会えなかった。それが一転、米台首脳以下、いつ&どこでも会えるようになった。

 特記すべきは台湾旅行法が米上下院ともに全会一致で通過したことだ。初の総統直接選挙(1996年)→野党・民進党への民主的な権力移譲(2000年)→平和的な政権交代(08年と16年)と台湾は民主制度を完成させた。国際秩序破壊と米国益に損害をもたらす中国の「中華帝国化」との鮮明な差が米議会・政府に深く認識された証左だった。中国の猛烈なロビー工作にもかかわらず、だ。

 当然、中国は激烈に反発した。台湾旅行法成立直後、台湾侵攻の先陣を切る《南京軍区=現東部戦区》の元副司令官(退役中将)が中国ニュースサイト「環球網」に掲載した計画はスゴ味に満ちていた。

 《大陸(中国)民衆の相当数で武力統一を求める声が日増しに高まっている》

 元副司令官はワーゲームを基に、ミサイルや空爆を主体とする《火力戦》で、台湾の軍事拠点などを48時間以内に破壊・制圧し、無力化できると分析。《最小被害》で台湾を陥落させられると主張した。

 習氏も昨年の党大会で、今世紀中頃までに人民解放軍を「世界一流」に昇華させる構想を明らかにした。2020年までにIT化を推進、35年には現代化を実現する、という。

 脅しではない。米国も同様の分析をしている。米海軍大学教授らの研究会がまとめた《中国の海軍艦艇建造》の分析結果には息をのむ。いわく-

 《2030年に主要艦艇415隻態勢を整える》

 対するトランプ政権は過去100年間で最小規模に縮小された現有米海軍艦艇274隻の大増強を目指すが、46年が目標で、人民解放海軍の建造速度と雲泥の差がある。国防予算の行方が未知数で、建艦数を抑えられてきた造船関連業界の熟練工確保や設備復旧も追いついていない。さらに-

 《20年までに米海軍の対艦巡航ミサイルの射程以上のミサイルを大量保有/世界第2位の海軍となる》

 《30年までにハードウエア面で米海軍と数だけでなく、質も比肩する》

 米軍制服組トップ=統合参謀本部議長のジョセフ・ダンフォード海兵隊大将も昨年、上院軍事委員会で証言した。

 「中国は25年頃までに、米国の最大脅威になる」

 台湾も17年の国防白書で、台湾侵攻能力を20年までに備える、と悲観的だ。

台湾軍に忍び寄る中国スパイ

 在韓米軍撤退の有無にかかわらず、米軍の台湾駐屯は急務となった。実は米軍の台湾駐屯で人民解放軍牽制にもう一つ「重し」が加わる。中国共産党が仕掛ける《心理戦》への対抗だ。

 中国の軍・共産党の間諜が台湾軍の現役・退役の軍人・軍属らを間者に仕立て上げる事件は、過去に複数回明るみに出ている。だが、1月に発覚した台湾併合を狙い中国が策定した《星火T計画》は衝撃的だった。台湾の国防省発表やメディア報道を総合すると、次のごとき策謀であった。

 (1)中台統一主義者や買収に乗ってきそうな台湾軍の協力者をデータベース化

 (2)取り込み済みの人脈を深化させ、諜報力向上

 (3)表向きは安全保障研究者を装う

 先述した元南京軍区副司令官も、インターネットやメディアを通じて台湾軍将兵に投降を呼びかける《心理戦》を提言している。しかし、米軍が駐屯すれば台湾軍の内通分子が謀反を起こし難いし、起こしても即時鎮圧ができる。

 軍事力=ハードと諜報力=ソフトの両面作戦で、台湾は存亡の瀬戸際に立つ。実際、習氏は自らが政権の座にあるうちに台湾統一を成し遂げて歴史に名を刻みたいと執念を燃やす。とりわけ、共産党結党100年を迎える2021年を前に実績を誇るべく、20年には凶暴性を一挙に爆発させるだろう。習氏は3月、全国人民代表大会の閉幕演説で宣言した。

 「偉大な祖国の領土を一寸たりとも中国から分割させない」