日本は焦らねばならないのか 米朝会談めぐる日本の“孤立”に韓国は期待?

ソウルから 倭人の眼
 米朝首脳会談について報じた韓国各紙=10日、ソウル(共同)

 米朝首脳会談が行われる見通しとなったことで、韓国では「日本が焦り、慌てている」といった見方がメディアを中心に定着している。トランプ米大統領が5月までに北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談を行う意向を示したことは、大きなニュースではあるが、日本政府は慎重に状況を見極めようとしている。にもかかわらず韓国は、日本が絶対に焦っていると思いたいかのようだ。(ソウル 名村隆寛)(※3月25日の記事を再掲載しています)

定着した「日本の焦り」

 米朝首脳会談に関する今月上旬のトランプ発言以降、韓国では「日本パッシング(無視)を心配する安倍(首相)」(朝鮮日報)、「安倍首相に焦燥感」(中央日報)、「衝撃を受け、前例ない首脳会談の急進行に戸惑っている」(KBS放送)などとの“分析”が目立った。

 3月10日付の朝日新聞朝刊は「日本政府内では衝撃が走った。(中略)北朝鮮の非核化に向けた交渉が『日本抜き』で進みかねない事態に警戒感も広がる」と報じた。韓国での報道はこれらの引用から始まったようだが、その後も続く。

 安倍首相と文在寅(ムン・ジェイン)大統領による16日の電話会談については「安倍首相の発言は南北首脳会談、米朝首脳会談の開催合意の過程で、日本が疎外される、『日本パッシング』の懸念が提起される状況で出てきた」(中央日報)といった具合だ。焦り、疎外感、慌てる、急ぐ。そんなイメージで韓国は日本をとらえている。

焦ってほしいのか

 ソウルにいるため現在の日本の社会状況に対する皮膚感覚がないため、東京にいる知人数人に電話で聞いてみた。「そんなに日本は焦っているのか」と。返事は大体否定的だった。

 外務省関係者は「安倍首相はトランプ大統領と話し合ったし、4月には訪米もする。韓国の特使も訪日し、金正恩氏の意思を説明した。日本パッシングなんてピント外れだ」と冷静に語っていた。

 日本政府は、こと北朝鮮問題に関して焦りが禁物であることを、当然理解している。2002年に小泉純一郎首相(当時)が訪朝し、金正日(キム・ジョンイル)総書記に日本人拉致を認めさせ、拉致被害者を奪還した。当時、韓国各メディアは総じて小泉政権の日本を激賞し「日本がうらやましい」とまで言った。

 しかも、当時、小泉氏の訪朝に官房副長官として随行し、北朝鮮への安易な妥協を戒めたのは安倍氏だった。浮つかず、日本は石橋をたたいて渡るように慎重に対処してきた。

 それなのに、韓国メディアによれば、安倍首相は北朝鮮をめぐり「焦って、疎外感を感じている」というのだ。それほど、日本が孤立し、焦燥感を抱くことを期待しているのか。日ごろから安倍首相バッシングが好きな、韓国メディアによる「安倍憎し」の心情の表れかとさえ思ってしまう。

また日本のカネに期待?

 韓国では一方で、日本への“期待”もある。北朝鮮にからむカネの問題だ。

 中央日報は社説で「日本が最近の事態の流れから排除されたとし『日本パッシング』を心配するのも無理はない」と指摘。その上で、「日本は南北、米朝交渉から外れたが、将来の統一を前後に予想される対北経済支援で大きな役割を担える国だ。決しておろそかにしてはならない外交安保パートナーだ」という。

 統一にメドが立った時点で、日本は経済支援のために役に立つべきだそうだ。日本を批判する一方、経済的には利用するという韓国でよく見られるムシのいい主張である。ただ、勝手に心配するのは結構だが、日本は「排除された」と思っていないし「日本パッシング」を心配してもいない。

 北朝鮮のすり寄りに過去何度も裏切られ続けてきた韓国では、今回は保守派を中心に慎重論や冷めた見方もある。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の腹心で、第2回南北首脳会談(07年)で訪朝した文在寅(ムン・ジェイン)大統領には過去の教訓もある。

 しかし、現在の韓国には以前に感じたような雰囲気がある。2000年の南北首脳会談が決まったときのムードだ。当時に比べ慎重さはうかがえるが、当時言われた「バスに乗り遅れるな論」のような風潮だ。それを象徴しているのが「日本の焦燥感、疎外感」を決めつけるかのような韓国の日本への優越意識だ。

バラ色の夢よ、今度こそ

 当地で状況を見つめていて、別にバスに乗り遅れてもいいと思う。安全かどうか分からないバスに無理に乗ることはないし、日本は最悪も想定できる国だ。

 ところで、4月末に南北首脳会談が控える中、奇妙なことがあった。文大統領にノーベル平和賞を受賞させようと弁護士協会など約120の団体が「ノーベル平和賞推進委員会」の結成計画を発表したのだ。トランプ米大統領や金正恩委員長との共同受賞も進める計画だった。北朝鮮の人権問題を度外視して。

 しかし、世論が反発し大統領府に抗議。さすがの大統領府も2回にわたり「文大統領とは無関係で、望ましくない」などと迷惑気味に立場を発表した。結局、委員会は1日で解散宣言し、金大中氏に続くノーベル平和賞受賞というバラ色の計画は、将来に持ち越しとなった。「孤立に焦る日本」を横目に韓国では楽観的な人々が夢を見ている。