アブダビ“日の丸油田”権益更新の影に韓国がオウンゴール?

経済インサイド
権益が更新された下部ザクム油田の生産施設=アブダビ首長国(国際石油開発帝石提供)

 国際石油開発帝石(INPEX)が2月、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国に持つ“日の丸油田”の権益更新を決めた裏側に、権益奪取を狙う韓国の“オウンゴール”があった可能性があることが分かった。韓国が原発プラントの輸出契約時に結んだ軍事密約を解消しようとしてUAEと摩擦が生じ、獲得競争で後れをとったというのだが…。(※4月4日にアップされた記事を再掲載しています)

 「バラカ原発の成功は韓国とUAE共同の成功だ。韓国が海外に初めて原発を建設する事業であり、UAEはアラブで初めて原発を保有することになった」

 3月27日までの4日間、UAEを訪問した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、UAEメディアとのインタビューで原発輸出事業の成果を強調した。

 だが、この訪問までには曲折があった。韓国の任鍾●(=析の下に日)(イム・ジョンソク)大統領秘書室長は2017年12月にUAEを訪問。保守系の朴槿恵(パク・クネ)政権から革新系で脱原発を掲げる文政権に交代したのを機に密約を解消しようと試み、UAEの怒りを買って弁明を迫られたという。

 問題の密約は巨額の賄賂を受け取ったとして韓国検察に逮捕された李明博(イ・ミョンバク)元大統領の在任中に結ばれたと指摘される。原発輸出に力を入れた李政権が契約をとる見返りに、UAEが戦争状態になったら韓国軍が自動的に介入するというものだ。韓国紙の中央日報が今年1月、李政権で国防相を務めた金泰栄(キム・テヨン)氏のインタビューとして報じた。

 イスラム教スンニ派のUAEはシーア派のイランと対立している。風雲急を告げるペルシャ湾岸でさらに緊張が高まれば原発が軍事標的になる可能性があり、UAEは懸念を強めているもようだ。韓国は11年から教育訓練部隊をUAEに派遣中。金氏は「UAEには金があるが人口は少なく、安全保障に不安を抱いていた」と背景を語った。

 朝鮮日報によると、文氏は今回の訪問でUAEとのパートナー関係を格上げし、外交・防衛次官級協議体の新設など対話の枠組みを整備することで合意。関係の修復を図った形だ。

 この密約騒動が日本のアブダビ権益延長にどう関係したのか。中東問題に詳しい研究者は「本来なら日本の権益比率がもっと下がってもおかしくない状況だった。韓国がライバルでなくなったおかげで取り分が増えたのでは」と解説する。

 INPEXはアブダビの海上油田「下部ザクム油田」の権益について2月26日にアブダビ国営石油との間で40年間の権益期間延長を合意した。権益比率は12%から10%に低下したものの、増産を図ることで20年代半ばに現在の水準を上回る量の原油を引き取れるようにする計画だ。

 UAEはペルシャ湾岸の有力産油国で外資に油田を解放する数少ない国。日本の自主開発油田(日の丸油田)の約4割が集中しており、原油の中東依存から抜け出せない日本にとってエネルギー安定確保のため極めて重要な場所といえる。

 今回の更新でも世耕弘成経済産業相が何度もUAEを訪れ、石油化学産業の育成といった経済協力のカードを並べて貢献を訴える官民挙げた運動が奏功した。

 だが、実は日本側は今回の権益更新で、「ゼロ回答もありうる」(経産省幹部)と懸念を強めていた。海底が浅く経済性に優れた油田だけに、インドや中国などの新興国勢が激しい競争を仕掛けてきたからだ。

 中でも韓国はUAEのバラカ原発受注で日本勢に競り勝った波に乗り、海上油田でも権益奪取に意欲を示していた。「韓国が万全の態勢で攻めてきたら、日本の取り分は5%ぐらいに減っていてもおかしくなかった」(前述の研究者)とも指摘され、自滅は日本にとって渡りに船だった。

 韓国が受注したバラカ原発4基の完成は遅れ、遅延金の発生も取り沙汰されるなどこちらも混乱した。

 とはいえ、今後の資源争奪戦で怖いのは中国だ。

 アブダビは石油依存から抜け出すための産業育成や、海水淡水化などのため電力はいくらあっても足りず、さらに4基の建設を計画中だ。

 国ぐるみで原発輸出を進める中国が資源獲得と合わせて攻勢を強めれば、原子力政策への風当たりが強い日本は劣勢となる。

 今回の権益更新では逃げ切った日本勢だが、中東の油田に日の丸を掲げ続けるには、世界のパワーバランスの変化をにらんだ態勢の強化が不可欠となりそうだ。(経済本部 田辺裕晶)