財政危機ベネズエラ政府が窮余の仮想通貨発行…「信用できない」と早くも物議

経済インサイド
2月20日、ベネズエラの首都カラカスで、仮想通貨「ペトロ」について説明するマドゥロ大統領(中央)=ロイター

 仮想通貨交換業者大手コインチェック(東京)から約580億円分の仮想通貨「NEM(ネム)」が流出し市場が動揺する中、南米のベネズエラが独自の仮想通貨を発行し、物議を醸している。政情不安や財政危機に直面するベネズエラは米国の経済制裁で資金調達が封じられ、外貨獲得のために仮想通貨を発行。マドゥロ大統領は矢継ぎ早に第2の仮想通貨の導入も表明した。ただ価値が担保されるかは不透明で「信用できない」などと非難する声も相次ぐ。ベネズエラの試みが失敗すれば、仮想通貨への信頼は一段と失われかねない。

 ベネズエラは2月20日、仮想通貨「ペトロ」の発行を始めた。同国によると、国家による仮想通貨発行は世界初という。豊富な埋蔵原油を裏付けとし、「1ペトロが原油1バレルの価格に相当する」(マドゥロ氏)というもので、国外の投資家に1億ペトロを上限に売り、最大60億ドル(約6400億円)を集める計画。仮想通貨の発行で資金調達する「新規仮想通貨公開(ICO)」と呼ばれる手法などを活用する考えだ。

 ロイター通信などによると、マドゥロ氏は20日、7億3500万ドル(約780億円)相当に上る購入申し込みがあったことを明かした。その後も世界中から申し込みが相次ぎ、すでに約50億ドル(5300億円)に達したとされる。

 マドゥロ氏はさらに「攻勢」をかける。ペトロの売り出しを始めた翌日の21日、金を裏付けとする新たな仮想通貨「ペトロ・ゴールド」を導入すると発表。テレビ演説では「ペトロにもまして強力で、ペトロの強化につながる」と強くアピールした。

 ベネズエラが仮想通貨の発行に乗り出した背景には、深刻さを増す経済状況がある。世界最大の原油埋蔵量を誇りながら、政権によるバラマキ政策や無理な価格統制がたたり国内産業は疲弊。これに原油価格の低迷や米国による経済制裁が加わり、外貨や物資が不足して物価は急激に上昇している。

 ベネズエラの対外債務は約1400億ドル(約14兆8000億円)にも上るといい、国債や国営ベネズエラ石油の社債の利払いなど大規模返済の期限が4月に迫る中、デフォルト(債務不履行)に陥る可能性も指摘されている。

 こうした中、マドゥロ氏は「最後の手段」として仮想通貨を発行して外貨を獲得し、財政破綻を回避したい狙いだ。共同通信によると、マドゥロ氏は国営テレビで、「新たな国際的資金調達の形を目指す」と強調。将来的には現実の通貨の廃止や、石油取引をペトロで実施することも検討するという。

 しかし、この官製仮想通貨が広がるかは不透明だ。

 米財務省は、ペトロの取引をすれば、米国がベネズエラに科した経済制裁に違反する可能性があり、「法的なリスクがある」と警告。仮想通貨交換業者がペトロを取り扱うかは見通せない。

 仕組みに対しても懐疑的な見方が多い。仮想通貨「イーサリアム」の開発者であるヴィタリック・ブテリン氏は「ペトロは原油ではなく原油価格に基づいた(ベネズエラの法定通貨)ボリバルに対応している」と指摘。「ペトロは中央集権的なもので、ベネズエラ政府に依存している。そのベネズエラ政府は信用できない」と切り捨てた。

 米シンクタンクのブルッキングス研究所は、「ペトロは国家の不法債務救済の一形態で、ベネズエラの経済的苦境を克服できない」と強調。「ペトロに価値がないと分かれば、『仮想通貨は詐欺を促進する』という意見を助長しかねない」との認識を示している。

 仮想通貨市場が急拡大する中、既存の金融システムの変革を迫られた各国の中央銀行は、デジタル通貨発行の検討を進めつつある。

 南米ウルグアイの中銀は昨年11月、希望者1万人を対象に「eペソ」の試験運用を始めた。紙幣の印刷や脱税・資金洗浄対策のコストを減らす狙いだ。エストニアも独自のデジタル通貨「エストコイン」を発行する計画を明らかにしている。

 一方、日米欧などの中銀が参加する国際決済銀行(BIS)は3月、中銀が発行・管理する法定デジタル通貨について、現時点ではメリットが限定的で、金融システムなどに与える影響に関する「慎重な検討が必要」とする報告書をまとめた。

 ペトロが失敗に終わった場合、仮想通貨全体の信頼が失墜しかねない。そうなれば、通貨の技術革新に向けた議論で、現状維持を求める慎重派の意見が強まる可能性がある。(経済本部 中村智隆)

 ベネズエラ 南米北部に位置し、北はカリブ海、南はブラジルに面する国。2016年の人口は約3200万人。原油埋蔵量は世界最大とされ、主要産業は鉱業や石油化学。13年4月、前大統領の死去に伴い現在のマドゥロ大統領が就任した。政情が不安定化する中、経済失政で昨年の消費者物価上昇率(インフレ率)は2616%と初の4桁台を記録。国民の多くが食料、医薬品の入手に苦しみ、餓死者も出ている。