【iRONNA発】プーチン大統領 世界で孤立するロシアの焦り 名越健郎氏 - 産経ニュース

【iRONNA発】プーチン大統領 世界で孤立するロシアの焦り 名越健郎氏

モスクワ中心部の広場で支持者を前に演説するロシアのプーチン大統領=18日(タス=共同)
名越健郎氏
 ロシアのプーチン大統領が再選を決めた。任期満了の2024年まで務めると、四半世紀近い長期政権となる。「大国ロシア」の復権を掲げ、なりふり構わぬ強権ぶりを誇示するプーチン氏。米欧との対立を深め、新冷戦時代に突入した世界はどこへ向かうのか。(iRONNA)
 ロシア大統領選の前、内外で奇妙な動きがみられた。プーチン大統領が3月1日の年次教書演説で、激烈な反米演説を唐突に行い、戦略核戦力の開発強化を表明したのだ。この直後に英国で起きた元ロシア軍スパイ暗殺未遂事件は謎めいているが、これも大統領選と関連があったとの見方がある。
 8人が立候補した大統領選は、そもそもプーチン氏の当選が確実な無風選挙だった。事前の世論調査でも、プーチン氏の支持率は70%前後で、事実上の信任投票だったといえる。このため、選挙戦は盛り上がりに欠けた。出馬を拒否された反体制指導者、アレクセイ・ナバリヌイ氏が選挙ボイコットを呼びかけたこともあり、投票率も低いとみられていた。
「ショック療法」
 これでは欧米諸国から「官製選挙」と批判され、クレムリンのメンツがつぶされかねない状況が生まれた。このため、プーチン氏は「ショック療法」に出た。教書演説の最後の3分の1は米国批判で、ロシアが開発した6種類の新型核兵器の動画も公開した。「ロシアの最新兵器で米国のミサイル防衛(MD)は無意味になる」などと強調し、このミサイルが米国の都市に落下する架空アニメまで用意したのである。
 「内容の過激さに議員らも卒倒した」(コメルサント紙)とされ、効果満点だった。国威を発揚し、国民の愛国心に訴え、投票率や得票率をかさ上げする狙いがあったのだろう。
 前回2012年の大統領選でも、プーチン氏は都市部住民の反プーチン運動という逆風に見舞われており、当選後、ウクライナ干渉やシリア空爆という国粋主義的な強硬路線を推進した。その結果、クリミア併合直後、支持率は空前の90%に達した。
 だが、その後、欧米の制裁や原油価格下落で国民の生活苦が広がり、長期化するプーチン体制への閉塞(へいそく)感が出始めた。今回、投票日をクリミア併合4周年に設定したこととあわせ、プーチン政権は再度、米国を手玉に取る強硬外交で選挙を乗り切ろうとしたのだろう。
 ただし、プーチン氏は「落とし所」も用意している。演説の最後に「世界に新たな脅威を作り出す必要はない。むしろ、交渉のテーブルにすわり、新たな国際安全保障システムについて協議すべきだ」と述べた。
 米露間では近年、軍備管理協議が行われておらず、米露交渉を再開し、ロシアが米国と対等の核大国であることを内外にアピールする狙いのようだ。新型核兵器計画は、交渉への呼び水とも取れる。
裏切り者への憎しみ
 「誰もロシアに耳を貸さなかった。今こそ聞くがいい」と述べたことも、ロシアの孤立感を浮き彫りにした。友好国の中国を含め、ロシアへの関心が世界的に低下し、無視されていることへの焦りが読み取れる。
 英国で起きた元ロシア軍スパイ暗殺未遂事件も、決して無関係とはいえないだろう。プーチン氏はかつて「国家への裏切り者には悲劇的な最期が待っている」と述べたことがある。06年、英国亡命中にロンドンで放射性物質ポロニウムを盛られて死亡したロシアの元スパイ、アレクサンドル・リトビネンコ氏の事件も想起させる。
 同氏はチェチェン戦争に絡むプーチン政権の闇を告発し、ロシアの裁判所で欠席裁判の末に有罪となったが、英捜査当局は後に元ロシア情報機関員、アンドレイ・ルゴボイ氏の犯行と断定した。
 今回の事件は謎が多いが、大統領選のタイミングと奇妙に一致する。プーチン氏の反逆者への憎しみは人一倍強い。ゆえに、プーチン氏が欧米との関係悪化を演出し、政権への求心力を高める工作だったという見方も英国などで出てきている。
 【プロフィル】名越健郎(なごし・けんろう) 拓殖大教授。昭和28年、岡山県生まれ。時事通信社でバンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長を経て退社。平成24年から拓殖大海外事情研究所教授。著書に『北方領土の謎』(海竜社)、『独裁者プーチン』(文春新書)など多数。
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