【経済インサイド】3つの難題抱える東芝が期待する救世主 半世紀ぶり「伝説の経営者」? - 産経ニュース

【経済インサイド】3つの難題抱える東芝が期待する救世主 半世紀ぶり「伝説の経営者」?

4月1日付けで東芝の会長に就任する車谷暢昭氏(左)と握手する綱川智社長=2月14日、東京都港区(今野顕撮影)
4月1日付けで東芝の会長に就任する車谷暢昭氏=2月14日、東京都港区(今野顕撮影)
4月からの新体制で東芝は復活できるか=東京都港区(宮川浩和撮影)
 東芝の会長兼最高経営責任者(CEO)に、三井住友銀行の元副頭取で英投資ファンド、CVCキャピタル・パートナーズ日本法人会長の車谷暢昭(のぶあき)氏(60)が4月1日付で就任する。約半世紀ぶりに誕生する外部出身トップには就任早々、原子力発電事業の再編▽東芝メモリ(半導体子会社)の売却▽成長の青写真-の3つの難題が待ち受ける。名バンカーは東芝の救世主になれるか-。
 「東芝の再建を託される大仕事を拝命したのは天命であり、男子の本懐だ」
 東芝が新人事を発表した2月14日、車谷氏は記者会見でにこやかに語り、火中のクリを拾う悲壮感はなかった。
 三井住友銀では長年、経営の中枢である企画畑を歩み、副頭取時代には次期頭取の候補として注目された。ただ、昨年、旧住友銀行出身で2期下の高島誠氏(59)が頭取に就き、銀行での出世レースに終止符が打たれると、銀行の仲介なしに自分の人脈でCVCキャピタル日本法人会長に転じたという。
 「(三井住友銀と並ぶ東芝の主力取引銀行の)みずほ銀行からも照会があったが、うちが送り込んだわけではない」
 三井住友銀幹部は今回の東芝トップ人事に同行の関与はなく、東芝が自らの意思で車谷氏を選んだと説明する。「彼は大きくものを動かすのを好む」。高収入のファンドトップの地位をなげうって再建中の東芝に移るのは、並々ならぬ決意と意欲を感じさせる。
 「社外の目線を入れて新しい改革を進めることが必要だ」。東芝の指名委員会委員長を務める池田弘一社外取締役(アサヒグループホールディングス相談役)は、車谷氏に白羽の矢を立てた理由を語る。
 新生東芝のトップの役割分担は車谷氏が中長期の事業戦略を担当し、社長を続投して新設する最高執行責任者(COO)に就く綱川智氏(62)が業務執行を受け持つ。
 東芝が外部人材にトップを委ねるのは、昭和40年に石川島播磨重工業(現IHI)会長だった土光敏夫氏(1896~1988年)を社長に指名して以来53年ぶりだ。土光氏は今も「伝説の経営者」として知られる。それだけに、経営再建への期待は高まるが、車谷氏には土光氏のような事業会社の経験がなく、その手腕は未知数だ。
 車谷氏は東芝復活への課題として、資本の早期回復▽事業構成の見直し▽ガバナンス(企業統治)改革-の3点を掲げた。いずれも中長期のテーマだが、一方で就任早々に直面する難題も見えてきた。
 まず、原発事業の再編だ。東芝、日立製作所、三菱重工業の国内原子炉メーカー3社は昨春に原発向け燃料事業の統合を計画していたが、東芝の経営危機を受けて延期になっており、この計画を再び始動させる必要がある。
 福島第1原発の事故後、国内の原発新増設や海外での需要増が見込めず、3社を取り巻く事業環境は厳しいままだ。このため、燃料だけでなく、将来的には原子炉事業の再編観測もくすぶる。車谷氏は三井住友銀時代に危機にひんしていた東京電力の支援枠組み作成に携わるなど原発事業に精通し、経済産業省とのパイプも持つ。会見では「さまざまなバリエーションがあり、どういう選択肢がいいのか検討する」と含みを持たせた。
 2点目は半導体子会社「東芝メモリ」の売却だ。東芝は財務改善のため東芝メモリを3月末までに米投資ファンドのベインキャピタルが主導する「日米韓連合」に売却する方針だが、中国当局の独占禁止法審査が長引いて間に合わない公算が大きい。売却契約では3月末までに手続きが完了しない場合、東芝に契約を解除できる権利が発生するとの規定がある。
 東芝は昨年末に約6000億円の第三者割当増資を実施。この結果、東芝メモリを3月末までに売却できなくても2期連続の債務超過を回避し、上場を維持できる見通しとなった。このため、稼ぎ頭の東芝メモリを手放すのかとの不満が社内外でくすぶる。実際、東芝メモリ売却に伴い、東芝の本業のもうけを示す営業利益は平成30年3月期にゼロになる見通しだ。
 綱川氏は「売却方針に変更はない」と強調する。東芝は約1兆円の売却益を得なければ、財務に不安を残しかねないからだ。また、半導体メモリー事業で必要とされる年3000億円規模の設備投資の資金を今の東芝が捻出するのも難しい。一方で、巨額の増資を引き受けた一部の「物言う株主」(アクティビスト)からは売却撤回を求める声も上がっている。
 3点目は、今春発表の中期経営計画でどのような成長の青写真を示すかだ。東芝メモリを手放して、物言う株主が納得する成長戦略を示すのは容易ではない。
 主力行幹部は「M&A(企業の合併・買収)などの手を打つのでは」と語る。東芝が新たに中核とする社会インフラ事業は収益性が低く、国内ビジネスが中心のため、海外市場の開拓が欠かせないからだ。銀行マンや投資ファンドのトップとして、M&A助言などで手腕を発揮した車谷氏が、攻めのM&Aに踏み切る展開もありそうだ。
 車谷氏には、収益性の高い事業を見極めて投資する目利き力や、成長を牽引(けんいん)する強いリーダーシップなども求められる。外部出身トップとして土光氏のように東芝を復活に導けるか-。(経済本部 万福博之)
 車谷暢昭氏(くるまたに・のぶあき)東大卒。昭和55年三井銀行(現三井住友銀行)。副頭取などを経て平成29年5月からCVCキャピタル・パートナーズ日本法人会長兼共同代表。愛媛県出身。
 土光敏夫氏(どこう・としお) 石川島播磨重工業(現IHI)の社長・会長、東京芝浦電気(現東芝)の社長・会長を歴任した昭和を代表する経営者。昭和40年に経営危機に陥っていた東芝の再建を託される形で社長に就任した際は、あらゆる領域で合理化を推進し、わずか1年ほどで経営を立て直した。その経営手腕を買われ、49年から「財界総理」と呼ばれる経団連会長を2期6年務めた。56年には鈴木善幸首相(当時)らに請われて第二次臨時行政調査会長に就任し、行政改革の旗振り役としても活躍した。