【びっくりサイエンス】津波の恐怖、VRで記者がリアルに体験 防災訓練用の運転シミュレーター - 産経ニュース

【びっくりサイエンス】津波の恐怖、VRで記者がリアルに体験 防災訓練用の運転シミュレーター

運転中の津波を体験するシミュレーターに映し出される光景(板宮朋基・愛知工科大准教授提供)
運転中の津波を体験するシミュレーターを体験する記者=1日、愛知県蒲郡市の愛知工科大
運転中の津波を体験するシミュレーターについて説明する愛知工科大准教授の板宮朋基さん=1日、愛知県蒲郡市の同大(草下健夫撮影)
 地震発生後に車で避難する最中に、もし津波に巻き込まれたら-。普段は想像するしかないこんな状況を、仮想現実(VR)を駆使して臨場感豊かに体験できる運転シミュレーターが開発され、防災訓練に活用されている。記者が体験したところ、なすすべもなく車が沈んでいく状況に大きなショックを受けた。
 愛知県蒲郡市にある愛知工科大の研究室。運転シミュレーターの座席に着いてゴーグルを装着すると、精巧に再現された街並みが視界に広がった。首を動かすと風景が滑らかに連動して動き、街角で火の手が上がるなど地震直後の様子が分かる。訓練とは分かっていながら、緊張感が高まった。
 ハンドルを握りアクセルを踏むと、エンジン音とともに車が前進。しばらく進むと突然、路上に広がる黒い異物を発見した。「これが津波か」などと思う余裕もなく、気づいたときには車が水に入り込んでしまっていた。
 車はプカプカと漂い始めた。駄目なのは分かりつつ、引き返せないかとハンドルを回し、アクセルやブレーキを踏むが、まるで反応なし。もう、どうすることもできない。
 足下がひんやりしてきた。視線を落とすと、どす黒い水が膝から腰、胸元へとみるみるかさを増してきた。車は徐々に沈んでいるのだ。一体、どうすればいいのか。
 途方に暮れ始めたところで「以上で体験は終了です。お疲れ様でした」の表示。訓練であることを思い出し、ホッとした。東日本大震災で、こんな経験をして命を落とした人がいたかと思うと、悲痛な気持ちになる。こんなことは、二度と起こってほしくない。
 シミュレーターを開発した同大准教授の板宮朋基さんは「前の車などを気にしながら運転し、しかも目の前から津波が来ることは未経験のためすぐに認識できず、間に合わないようだ」と話す。
扇風機で水の冷たさを表現、体が錯覚
 画像処理学が専門の板宮さんは、同大に赴任した4年前、学内にある大型の運転シミュレーターを知り、津波からの避難に車を使うことのリスクを体験する手段として活用することを考えた。
 3年ほど前には、パソコンやVRのゴーグルを使い、大型シミュレーターの100分の1ほどの低コストで持ち運びもできる独自の装置を開発した。開発には岩手大や防災科学技術研究所の研究者も協力。その後も、車が走ると座席に振動が起こるようにするなど、細かい改良を続けてきた。パソコンの性能やゴーグルの画質向上も進み、よりリアリティーの高い装置になっている。
 街並みは名古屋市南区の国道をCGで精巧に再現。足下に感じた水の冷たさの正体はなんと、扇風機からの風だった。「体が錯覚し、冷たい水のように感じられる。映像も含め、車内に水が入り込んでいく感覚を特に重視した。生理的な感覚から、危機感や嫌悪感を持てるようにした」と板宮さん。
 この装置を各地の防災訓練や自動車関連のイベントなどに展示してきた。体験者からは「車で逃げるのはやめる」「どう避難するか家族で話し合う」といった感想が聞かれるという。
車での避難の是非、考えるきっかけに
 板宮さんは「車は避難所の代わりになる安心感があり、高価な財産でもあるため、つい家族を乗せて走り出してしまうようだ」という。しかし、津波が来たらどうなるか。渋滞にはまっている間に巻き込まれることもあり得る。「この装置の体験をきっかけに、危険を心に刻んでほしい」
 ただ、高齢者など徒歩で避難するのが難しい人もいる。板宮さんは「車による避難を一律にやめようとはいえない。起こり得る状況を体験し、考えるきっかけにしてほしい」と話す。
 ゲームなどの娯楽で人気を集めているVR。今後は防災訓練など、命を守る分野での活用も進みそうだ。(科学部 草下健夫)