【野口裕之の軍事情勢】名提督・東郷平八郎でも北朝鮮の「瀬取り」を取り締まれぬ「自縛法」とは?(下) - 産経ニュース

【野口裕之の軍事情勢】名提督・東郷平八郎でも北朝鮮の「瀬取り」を取り締まれぬ「自縛法」とは?(下)

会談し握手を交わす韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=5日、平壌(韓国大統領府提供・共同)
平成29年3月、参院予算委員会に出席する財務省の佐川宣寿理財局長(右)ら(斎藤良雄撮影)
森友学園をめぐる財務省の報告で休憩に入る参院予算委員会=6日午前、参院第1委員会室(斎藤良雄撮影)
横付けして照明を点灯している北朝鮮船籍タンカー「Chon Ma San号」(手前)とモルディブ船籍タンカー「Xin Yuan 18号」=2月24日夜(防衛省提供)
「瀬取り」を行った疑いがある北朝鮮船籍のタンカー(右)とモルディブ船籍のタンカー=2月24日夜、東シナ海(防衛省提供)
日露戦争で東郷平八郎が座乗した連合艦隊旗艦の「三笠」=神奈川県横須賀市
 朝鮮半島有事が勃発しても、対象船舶への立ち入り検査を可能せしめるには、日本に重大な影響を及ぼす『重要影響事態』か、国際社会の平和と安定を脅かす『国際平和共同対処事態』の認定が前提条件となる。
 認められれば、軍艦などを除く船舶で積み荷や目的地を調べたり、航路変更を要請したりが可能となる。
 ただ、日本の法体系では、まず不審船の船長の「同意」が必要と定められている。生命に危険が迫らなければ武器使用もダメ。北朝鮮の密輸船の船長は、朝鮮人民軍海軍の士官や朝鮮労働党の工作員である可能性が極めて高い。
 こうした船長の「同意」は、法を整備した政治家も官僚も百パーセント思っていなかったはずだ。しかも、生命の危険に直面して初めて武器使用できる状況に備え、海上自衛官は西部劇のガンマン並みの神がかった技術と度胸を錬成しなくては自らの命すら守れない。
 事態が深刻になれば、船長の同意なしでも強制検査する《停船検査》の適用となる。疑わしい船に海自が停船命令を出し、従わぬ場合は艦長判断で武器を使用する。国際法上《臨検》と呼ばれる。が、有事の臨検は船舶の破壊行為を含むケースもあり、自衛隊が実施すれば憲法9条が禁じる交戦権の行使にあたる恐れを誘発する。
 それ故、停船検査にさえ厳しい条件を課す。日本が武力攻撃を受ける《武力攻撃事態》や、米国などへの攻撃で日本の存立も脅かされる明白な危険がある《存立危機事態》の認定だ。どちらも何重もの手続きを踏んで《防衛出動》が下令できる。
 一方、平時にも例外はある。不審船が強力な武器を所持しているなど攻撃の意思が明らかな局面だ。防衛相による海上警備行動発動で《武器を使った立ち入り検査》が容認される。
「英国商船」撃沈の卓見
 日本では国際法と距離を置き、周辺国を野放しにする国内法が跋扈する。こうした「自縛的法体系」を東郷は絶対に理解できない。本来、国家は国際法を自国に有利に柔軟に解釈し、国内法や軍事作戦にも反映させなければならない。東郷が見事に実践している。
 日清戦争劈頭の豊島沖海戦-。巡洋艦・浪速艦長だった東郷大佐は、海戦海域に遊弋する中立国・英国の旗を掲げた商船に空砲を2発撃ち→手旗信号で停船を求め→臨検のため部下の大尉以下を端艇で派遣。大尉は、英船会社所有の高陞(こうしょう)号が清国政府に雇われ、清国将兵1100名、大砲14門を含む武器・弾薬を輸送中との事実と、英国人船長に浪速随航を命じ、承諾した旨を報告した。
 この時代、船舶間通信は世界共通の国際信号旗をマストに掲げる旗旒(きりゅう)信号が主流だった。東郷が《本艦ニ随航セヨ》と旗を揚げると《清国軍ハ帰港ヲ迫り、随航ハ不可能》の回答。再協議も求めてきた。東郷は再協議には応じたが、大尉に「欧州人船員が望めば、連れて帰れ」と交戦国将兵と中立国船員を分けて扱う措置を命令。帰艦後、大尉は2回目の報告をした。
 「清国海軍士官は船長を脅迫、命令に服せぬようにし、かつ船内には不穏の状有り」
 清国軍による拿捕拒絶と判定した東郷が《船ヲ捨テヨ》と信号を送ったところ、高陞号は《端艇送レ》と応答す。東郷は拒否し《船ヲ捨テヨ》を再び打診。赤いB旗を掲揚した。攻撃の最後通告である。停船命令後2時間半が経過していた。東郷は号令する。
 「撃沈します」
 高陞号は没した。東郷は浪速に向かい泳いでいた船長以下船員数人を救助、一部清国将兵を捕虜にする。
 国際法上瑕疵なき、あっぱれな手順であった。海戦勃発は「宣戦布告前ではないか」と英国は激高したが、結局矛を収めざるを得なかった。英国の国際法権威2人が東郷の「正当性」を公表したからだった。
 他方、自衛隊は国内法はもとより国際法という「強力兵器」の援護が受けられぬ。かくなる環境では、世界三大提督に数えられるトーゴーが、たとえ自衛隊の優秀な人員・装備を指揮しても、戦の前に勝敗は決している。北朝鮮絡みの密輸船取り締まりでも同盟・友好国への「通報専門国」に成り下がる。
 国運を賭したロシアのバルチック艦隊迎撃を控え、東郷は決然と命じた。
 「皇国の興廃この一戦に在り、各員一層奮励努力せよ」
 朝鮮半島有事前夜や侵略意図を隠さぬ中国人民解放軍の異常な膨張…。東郷の訓示は大東亜戦争後最大の危機に直面している現下の情勢にも当てはまる。時まさに、わが国の「興廃」がかかっている、のである。国民「各員は一層奮励努力」しなければいけない。
 ところが、国会では日本の「興廃」とはまるで関係のない議論ばかりが“集中審議”されている。