【野口裕之の軍事情勢】名提督・東郷平八郎でも北朝鮮の「瀬取り」を取り締まれぬ「自縛法」とは?(上) - 産経ニュース

【野口裕之の軍事情勢】名提督・東郷平八郎でも北朝鮮の「瀬取り」を取り締まれぬ「自縛法」とは?(上)

5日、平壌で韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(手前左)の手を握る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。労働新聞が6日掲載した(コリアメディア提供・共同)
9日、辞任の意向を麻生太郎財務相に伝えに向かう佐川宣寿国税庁長官=東京都千代田区(春名中撮影)
衆院予算委員会で、厚生労働省のデータ不備問題に関し陳謝する加藤勝信厚労相=2月20日、衆院第1委員室(斎藤良雄撮影)
衆院予算委員会で厚生労働省のデータ問題をめぐり協議する理事=2月19日、衆院第1委員室(斎藤良雄撮影)
2月16日、東シナ海公海上で横付けしてホースを接続する北朝鮮船籍タンカー(手前)と船籍不明の小型船(防衛省提供)
北朝鮮の核・ミサイル問題に関する外相会合で記念撮影する河野太郎外相(左)ら=1月16日、カナダ・バンクーバー(共同)
参院予算委員会理事会で財務省が提出した森友学園関連の決裁文書「原本」の写し=8日午前
財務省が参院予算委員会理事会に提出した「森友学園」への国有地売却問題をめぐる決裁文書の「原本」の写し
 「勝って兜の緒を締めよ」。永田町を歩くと、このフレーズを口にする自民党議員に結構出会う。
 厚生労働省の調査に不適切なデータがあったことが分かり、安倍晋三政権は今国会に提出する《働き方改革関連法案》に盛り込む予定だった裁量労働制の拡大を削除すると軌道修正。森友学園問題をめぐっても、財務省が問題発覚後、決済文書を書き換えた疑いアリと朝日新聞が報じた。いずれも野党が政府を追及している状況を受け、政府・与党関係者が自戒・自省して語ったのが、先述のフレーズであった。
 「勝って兜の緒を締めよ」は勝者にのみ許される自戒・自省の姿勢だ。安倍政権の「敵失」に乗じる戦法を連発し、政策論争に乏しい野党が口に出せないフレーズでもある。
 このフレーズは明治三十七八年戦役(日露戦争、1904~05年)後、戦時編制の聯合艦隊を解散し平時編成にした式典で大日本帝國海軍の元帥海軍大将・東郷平八郎(1848~1934年)が読み上げた《聯合艦隊解散の辞》の結語だ。
 後述するが、東郷は国際法を能く学習・習熟し、「新兵器」として戦力に加え、軍事強国を負かし、祖国を救った。以下、その名提督・東郷を海上自衛隊の自衛艦隊司令官に押し立てても、日本防衛はおぼつかない理由に迫る。
制裁の実効性高める壁
 折しも、段階的に強化されている国連安全保障理事会の制裁決議に反し、外国船舶から北朝鮮船に石油精製品などを密かに移し替える「瀬取り」が横行している。これまでも中国船、香港船籍の貨物船、ロシア船籍のタンカー、モルディブ船籍のタンカーが瀬取りに手を染めていた。国連加盟各国は遅まきながら、取り締まりに力を込め始めた。
 米主導の《大量破壊兵器拡散防止構想=PSI》に参加する17カ国は1月12日、北朝鮮の密輸防止に向けて海上での《船舶検査強化》を盛り込んだ共同声明を発表。同16日には20カ国外相会合が《船舶検査の徹底》を確認した。
 安保理制裁決議は法的拘束力があり、国連加盟国に履行義務が生じる。だが、途上国などは制裁順守への協力意志が低く、「制裁の実効性を高める際の壁」となっている。結果、アフリカ、アジア太平洋、中東の国・地域に、北朝鮮は石炭+繊維品や化学・通常兵器+軍事技術を依然、船舶などで密輸出している。
 もっとも、途上国を批判する資格が日本にあるかは甚だ疑問だ。「制裁の実効性を高める際の壁」にさえなっているかもしれない。朝鮮半島有事の戦火が最も拡大しやすい日本も足並みをそろえる決意だが、決意だけで実効性は乏しい。
 東郷は日露戦争でも、その前の明治二十七八年戦役(日清戦争、1894~95年)でも、国力・戦力の不利を補わんと国際法を大いに味方に付けた。
 しかし現下の日本では、中国や北朝鮮が有する核・通常戦力の風下に立たされている危機をよそに、憲法・安全保障関係法が自衛隊兵器や高い練度を誇る自衛官の能力を封じ込めている。日本の憲法や安全保障関係法は国際法との関係を半ば絶ち、自らを国損に追い込んでいるのだ。
 日本がPSIの共同声明に参加したとの報に接し、筆者は恥ずかしかった。
 海上自衛隊も昨年から日本海、東シナ海、黄海で北朝鮮船に石油製品などの積み荷を移し替える外国船を監視している。P3C哨戒機で不審船を発見し、海自艦が急行する作戦だ。
 けれども、朝鮮半島有事など事態が目に見えて「急変」しなければ平時とみなされ、海自の活動は当面、《公海上での警戒監視》と《収集情報の米軍への提供》にとどまる。実際に不審船を発見したら、取り締まりは米軍など同盟国や友好国に託すことになる。
 そもそも朝鮮半島は「急変」して久しい。《経済封鎖》されている北朝鮮と周辺諸国が置かれている環境は「臨戦状態」と言い切れる。戦争行為そのものの《海上封鎖》に至る展開も観測されているにもかかわらず、日本の法体系はわずかではあるが改善されて尚、「敵前逃亡」を続ける。 =(下)に続く