黒田総裁が続投 日銀マンネリ人事をどう評価すべきか 飯田泰之

iRONNA発
衆院議運委で所信を述べる日銀の黒田東彦総裁=2日

 黒田東彦(はるひこ)日銀総裁の続投が固まった。安倍晋三首相は「黒田総裁の政策は間違っていなかった」と評価したが、2%の物価目標や金融政策を正常化する「出口戦略」のタイミングなど、次の5年に待ち受ける難題は山積する。賛否が分かれる「マンネリ人事」の意味を問う。(iRONNA)

 意外性に乏しい今次の提案に「リスクを恐れた臆病な選択」と評される側面もあろう。それでも、この選択が日本経済において現実的かつ妥当なものであったと筆者は考えている。

 日銀総裁の再任は山際正道氏(昭和31~39年在任)以来であり、現行の日銀法の下では初めてのことだ。異例であることのみをもって、今回の再任を批判する議論もあるようだが、再任があり得るとの前例ができたことは望ましい。

 近年、金融政策に関する将来予想や政策姿勢・レジームといった数字だけではとらえられない要因が経済に大きな影響を与えるようになっている。一方で、平成25年4月の現体制発足時に掲げられた「2%のインフレ目標」の未達をもって、その責任を取るべきであるとの議論も根強い。

 ◆ない物ねだり

 日銀は当時、消費増税の景気へのダメージ、労働力プール(働く意思と能力のある労働者の数)をともに過小評価していた。そのため、25年の急速な資産価格・雇用、さらには物価上昇率の改善をもって「労働市場の逼迫(ひっぱく)による賃上げの本格化は目前であり、一時的な消費増税ショックを財政出動で支えれば、目標の達成はそう遠いことではない」と判断した。これが誤りであったことは言を俟(ま)たない。

 さて、ここからより強力な金融政策を打ち出し、さらには財政政策についても拡大志向の総裁を望む声が出るのは自然なことだろう。しかしながら、後者については、ない物ねだりの感は否めない。中央銀行総裁は、財政政策に関していかなる権能も有していない。仮に日銀総裁が大規模な財政出動を主張したところで、政府がそれを採用する理由はない。

 また、これとは逆に目標達成ができなかったのだから金融緩和を収束させて出口戦略に向かう、つまりは早期に金融引き締めに転じる総裁を選ぶべきだとの議論もあるが、これは顧みるに値しない。株・為替・雇用はもとより、長くマイナス域に沈んでいた物価上昇率を曲がりなりにもプラス値が継続する状況まで改善した実績を無視することはできないはずだ。

 これらの実績を、米国経済の好調さに支えられた偶然の結果だとする主張もある。しかし、すでに米経済の好調が明確になっていた2013年初頭においても、金融緩和に批判的なアナリストの多くが円安は進んでも90円台、株価上昇も1万1千円から1万2千円程度であると予想していたことを忘れてはならない。米国の好景気は日本経済にとって強力な追い風ではあるが、その追い風を生かすためにも継続的な金融緩和の果たした役割は大きい。

 ◆バランスの良さ

 より素晴らしい総裁はどこかにいるのかもしれない。しかし、その人物を発見することはできなかった。現在行われている金融緩和の継続性への信認を傷つけず、それでいて2期目に訪れるかもしれない2%目標達成時に、市場とコミュニケーションを取りながらの政策変更を進める適任者が他にいるだろうか。

 とはいえ、本来ならば事前に十分に準備すべき後継者の育成を果たせなかったことは黒田体制1期目の問題点の一つとして指摘されてしかるべきだ。そして、この後継者の育成が2期目には必須の仕事となる。2人の副総裁の後任として挙がった若田部昌澄・早稲田大教授と雨宮正佳・日銀理事には、政策遂行の実務を支える提言や将来の総裁候補としてより高い視座も期待したい。

 こうしてみると、2期目の黒田体制のバランスの良さがよく分かる。もっとも、「バランスが良いこと」と「正しく、実効性ある政策を行うこと」はイコールではない。4月からの第2期黒田体制がどのような政策姿勢を打ち出すのか。ここのところ面白みがない金融政策決定会合に久々に注目が集まろう。

【プロフィル】飯田泰之 いいだ・やすゆき 明大政治経済学部准教授。昭和50年、東京都生まれ。東大経済学部卒。同大経済学研究科博士課程単位取得退学。専門は日本経済・ビジネスエコノミクス・経済政策・マクロ経済学。近著に『経済学講義』(筑摩書房)。

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