【びっくりサイエンス】透明マントだけじゃない「メタマテリアル」の世界 がん発見やカラフルな硬貨も - 産経ニュース

【びっくりサイエンス】透明マントだけじゃない「メタマテリアル」の世界 がん発見やカラフルな硬貨も

メタマテリアルで実現したさまざまな色(田中拓男氏提供)
赤外線を吸収する金のシートの試作品(田中拓男氏提供)
彩色するために開発されたメタマテリアルの構造(田中拓男氏提供)
 「メタマテリアル」という言葉を聞いたことがあるだろうか。メタは「超越」、マテリアルは「物質」を意味し、ナノという百万分の1ミリ単位の世界で人工的な金属構造を作り、さまざまな特性を実現する物質だ。ペンキを塗らずに彩色したり、がんを早期に発見したりするのに役立つほか、人類の夢である“透明マント”の可能性も秘めているというから驚きだ。
 理化学研究所でメタマテリアルを研究している田中拓男主任研究員は昨年4月、アルミニウムの表面を微細に加工し、ペンキなどで塗装することなく、さまざまな色を生み出すことに成功した。
 可視光はいくつもの波長に分けられ、虹の七色に代表されるさまざまな色は、それぞれ固有の波長を持つ。ちなみに白色はすべての波長を合わせたものだ。
 一方、私たちの身の回りにある物質は、それぞれが固有の波長の光を吸収する性質を持っている。
 そのため、例えば青色の波長を吸収する物質に光が当たると、白色から青色を除いた光を反射し、私たちの目には黄色として映る。
 田中氏はこの原理を応用。物質の微細な構造を変化させることで、吸収する波長を選択できる手法を開発した。素材はアルミニウムで、基盤の上に一辺が数百ナノメートルの薄い四角形を無数に配列。例えるなら、部屋の中に座布団を何枚も並べたイメージだ。
 四角形の一辺の長さや隣との間隔を変えることで、吸収される光の波長がさまざまに変化する。その結果、好きな色を反射させることができた。実物を見ると、色の鮮やかさは際立っている。
 既存の塗料に比べたメタマテリアルの強みは、軽さと耐久性だ。アルミニウムは非常に薄く、重さはペンキの約500分の1。さらにアルミニウムの表面はすぐに酸化して腐食を防ぐため、半永久的に色あせない。
 実用化の可能性はさまざまだが、例えば十円玉のような硬貨を彩色することも選択肢の一つ。カラフルな硬貨というのは斬新だ。
 彩色から一歩進んで、この“座布団構造”に期待されるのは、がんの早期発見だ。ここでの主役は可視光よりも波長が長い赤外線。素材も赤外線と相性が良い金を使う。
 最近、がんには特有のにおいがあることが分かってきた。そのにおいでがんの有無を判断する「がん探知犬」は、一部の自治体で健康診断に採用されている。
 田中氏は、このにおいに注目した。においは元をただせば分子で、これが鼻に入ることで感じられる。分子はそれぞれ固有の赤外線を発しており、その波長をとらえれば種類を判別できる。
 検査を受けにきた人の息や汗を金で作ったメタマテリアルのシートで測定することで、がん特有の分子を見分ける寸法だ。
 田中氏は既に約2センチ四方の試験用シートを作製。今後5年間ほどかけ、金のシートで見分けられる分子の種類や、見分けるために必要な分子の量を見極めるという。
 最後に、メタマテリアルの究極的な応用として世間の関心が高い「透明マント」にも触れておきたい。実現すれば誰もが手を出したくなる代物だが、田中氏に言わせると実現へのハードルは極めて高いらしい。
 開発に当たっては、特殊な形の微小な金属片を配列し、周囲の光が自分の体を避けるように屈折させることが必要だ。このとき、光を思い通りに屈折させるための技術が非常に難しいといい、莫大(ばくだい)な開発費を投入しても「マントの大きさは十円玉くらいがせいぜいでは」と田中氏は話す。
 むろん、素材が透明でなければ、毛布をかぶったときのように自分も何も見えなくなる。だが、仮にアクリル樹脂のように透明な素材でマントができたとしても、何も見えないことに変わりはない。すべての光が自分を避けてしまうと、周囲の光景は自分の目に届かないからだ。
 インターネットで「透明マント」と検索すると、メタマテリアル関連だけでもさまざまな話が見つかる。それらの根拠は分からないが、すぐに信じ込むのはやめた方がよさそうだ。(科学部 小野晋史)