「借金で売却急いでいる」 不動産のプロも翻弄 地面師の巧妙だましテクニック

衝撃事件の核心
西五反田の土地をめぐる地面師事件の構図

 医療法人が所有する東京都品川区西五反田の土地をめぐり、所有者を装って売買代金約3億6000万円をだまし取ったとして、「地面師」の男らが警視庁捜査2課に逮捕された事件。男らは被害者である購入者側に対し、「土地所有者は借入金返済のために売却を急いでいる」などと説明して取引を急がせ、巨額のカネを詐取していた。購入者側が取引に不審さを抱いても、確認する時間を与えないための方便とみられる。捜査関係者への取材や訴訟記録などから浮かび上がるのは、不動産のプロからも正常な判断力を奪う巧妙なだましのテクニックだ。

全てが虚偽

 事件の舞台となったのは、JR山手線五反田駅と目黒駅の間、山手通り沿いにある一等地だ。ここは小平市の医療法人が所有する約480平方メートルの土地で、現在は高齢者福祉施設が建っている。

 ここがまだ更地だった平成25年4月5日午前、品川区にある東京法務局品川出張所に、今回の事件の登場人物たちが一堂に会した。

 集まったのは、契約書や本人確認書類を偽造し、不動産会社社長の男性から現金をだまし取ったなどとする偽造有印公文書行使容疑などで今年2月に捜査2課に逮捕された宮田康徳容疑者(55)や草薙讃(ただえ)容疑者(83)らだ。

 当時司法書士だった草薙容疑者が所有者の本人確認を担当。土地は医療法人から宮田容疑者らと共犯で逮捕された男(45)が経営するIT会社を経由し、男性が取得するとの方式で登記が申請された。男性は土地の代金として約3億6000万円を支払った。

 しかし、土地の所有者である医療法人理事長の免許証などが偽造されたものだったことが後に判明し、登記申請は法務局に却下された。男性は土地を取得できないまま、代金だけをだまし取られた。

 男性はこの“理事長”にも一度会っていたが、実は全くの偽者。売却話そのものが存在せず、宮田容疑者らと男性が続けてきた交渉すべてが虚偽だった。なお、この理事長になりすました男(59)も宮田容疑者の共犯として、捜査2課に逮捕されている。

取引急かす

 訴訟記録などによると、25年3月26日、宮田容疑者は男性に「医療法人が土地を安い値段で処分したがっている。3億6000万円で取得できて、転売すれば1億5000万円ほど利益が出るはずだ」と持ちかけた。

 「おいしすぎる話」で、いぶかしがられるのが普通だが、そこは“プロ”。宮田容疑者は「医療法人の理事長には借り入れがあり、返済のために売却を急いでいる。4月5日までに決済したい」と説明し、取引の期限を決めて男性をあせらせようとしたという。

 また、取引が進む中で、男性は契約前に理事長と面会するなどして本人確認をしようとしたが、宮田容疑者は「理事長には土地を転売すると話していないので、不動産会社のあなたは会わない方がいい」「理事長は医療法人にも内緒で土地を売ろうとしているので、病院では話ができない」など、さまざまな理由をつけて拒否していた。

 さらに交渉中に男性が対象の土地の下見に行くと、建設工事のためとみられるやぐらが建っていた。男性は宮田容疑者に問い合わせたが、「理事長の債権者が借金のかたにこの土地を狙って(工事をして)いる。期日までに返済しないと奪われてしまう」など、さらに男性をだます材料として活用していた。

HP見ていれば…

 こうして不動産のプロすら手玉にとる地面師だが、今回の事件の場合、理事長が経営する病院のホームページ(HP)には、理事長本人の写真が掲載されていた。その写真を見れば、理事長のふりをしている人間が別人だということは一目瞭然だった。

 さらに捜査関係者によると、理事長の本人確認書類として提示された免許証なども、見慣れている人物がきちんと見れば簡単に偽物と分かるほどずさんな作りだったという。

 所有者を十分に調べずに取引をしたことがだまされる結果につながってしまったが、ある不動産関係者は「所有者と取得者の間に仲介者が入る場合、双方をできるだけ会わせないようにすることは十分あり得る」と話す。所有者と取得者が直接交渉し、仲介者を除いて取引することを防ぐためだという。

 それでも司法書士などが本人確認を徹底していれば防ぐことができた被害だが、この不動産関係者は「取引(の成立)を急ぐ購入者側が、怪しさを指摘する司法書士を解任してしまうケースがあまりにも多い」とため息をつく。

 ある捜査関係者も「正規の手続きを慎重に踏めば被害は防げるが、他社に先に土地を取得されるのを恐れるばかりに手続きを簡略化するという業界の慣行が、地面師たちに逆に利用されてしまっている」と警鐘を鳴らしている。

 ■地面師 本人確認書類や土地登記書類などを偽造して土地の所有者になりすまし、土地の売却契約を結んだ相手から金銭をだまし取る行為を生業とする詐欺師の通称。地面師による詐欺被害は、地価が高騰したバブル期に続発した。しかし近年、東京五輪を控えた都心の不動産価格高騰を背景に再び被害が増え、警視庁は昨年以降、複数の地面師グループを摘発している。