日本郵政グループがベンチャー企業の支援に乗り出すワケ

経済インサイド
東京中央郵便局で販売されているユカイ工学のコミュニケーションロボ「BOCCO」=東京都千代田区

 日本郵政グループが、あの手この手でベンチャー企業の支援に取り組んでいる。中でも、最も積極的なのは日本郵便。郵便局でモノづくりベンチャーの製品販売を始めたほか、ベンチャー企業の事業アイデアを生かした経営改革にも乗り出した。ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険も合同でベンチャー企業に投資するファンドの運用会社を立ち上げる。グループ挙げてのベンチャー支援は民営化の成果の一つとされるが、その狙いは…。

 JR東京駅前にある東京中央郵便局。記念切手売り場のすぐそばにある小さな陳列棚にはかわいらしいロボットなどが並ぶ。ユカイ工学(東京都新宿区)は2月1日、同局でコミュニケーションロボット「BOCCO(ボッコ)」の販売を始めた。ボッコは高さ約20センチ、幅約9センチ、奥行き約5センチの小型ロボだ。

 留守番の子供がボッコの録音ボタンを押して録音すると、外出中の父母のスマートフォン専用アプリに伝言が届けられる。また逆に外出先からスマホを使って、自宅のボッコに伝言を送ることも可能。さらに別売りの振動センサーをドアに貼りつけると、ドアが開いた瞬間にスマホにメールが届く仕掛けだ。

 同社はボッコをインターネット通販や家電量販店などで販売してきたが、青木俊介最高経営責任者(CEO)は「平成37年までに、家庭用のロボットが一家に1台ある世界を目指す」と話す。そんなユカイ工学にとって、全国2万4000カ所のネットワークを持つ郵便局は魅力的な販売チャンネルとして映った。

 東京中央郵便局ではボッコのほか、モノのインターネット(IoT)ベンチャーのチカク(同渋谷区)が開発した、スマホ撮影の動画をテレビで視聴できるようにした端末「まごチャンネル」、MAMORIO(マモリオ、同千代田区)の落とし物防止電子タグも販売している。

 まごチャンネルは2月23日発売。チカクの伊藤景司事業開発責任者は「販売先の郵便局を増やしたい」と語る。

 落とし物防止電子タグは、鍵など落としたら困るものにこの電子タグをつなげると、落とした場所から一定の距離になるとスマホにメールで知らせるというものだ。

 昨年には全国の郵便局で、風が吹いても壊れない雨傘「ポキッと折れるんです」を発売し“人気商品”に。突風などの際には傘の骨が内側から外側に折れることで力を外に逃がし、閉じて開けば元に戻る。

 日本郵便は、ベンチャー企業のアイデアを活用した事業改革にも乗り出す。起業支援のサムライインキュベート(同品川区)と組んだオープンイノベーションプログラム「ポストロジテック・イノベーションプログラム」の成果発表会を2月1日に開催。最優秀賞に輝いた名古屋大学発ベンチャーのオプティマインド(名古屋市中村区)は人工知能(AI)を使った配達ルート最適化システムを開発した。郵便番号を入力するだけで、携帯情報端末の地図上に最適なルートが表示される。

 この実証試験には、埼玉県草加市の草加郵便局が協力した。オプティマインドの松下健代表は「新人職員がこのシステムを使えば、ベテラン職員とほぼ同じ時間で配達をこなせることが確認できた」と話す。

 ベンチャー企業にとって、販路開拓や実用化に向けた実証研究は不可欠だが、巨額の資金が必要となる。日本郵政グループの持ち株会社である日本郵政は29年11月、全額出資子会社のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC=大企業のベンチャー投資子会社)「日本郵政キャピタル」を設立した。

 日本郵政傘下のゆうちょ銀行とかんぽ生命も2月9日付で「JPインベストメント」を共同で設立。両社以外の投資家にも出資を募り、総額1200億円規模のベンチャー企業を投資対象としたファンド(基金)を立ち上げる。こちらは主に金融とITを融合したフィンテック分野のベンチャー企業を投資対象としている。

 日本郵政グループが目指すのは「トータル生活サポート企業」。これまでの郵便、貯金、簡易保険に限らない多様なサービスの提供を目指しており、ベンチャー支援もその一つだ。開発した技術やサービスの実証実験、販路開拓に全国の郵便局網や10万台超の郵便配達車両などを活用できる。

 国の直轄事業から公社化を経て、19年の民営化で発足した日本郵政グループ。「官による民業圧迫」との批判から、住宅ローンや企業への融資ができないことも、ベンチャー投資に参入した背景のひとつだ。

 民営化から約30年が過ぎたJR東日本とJR西日本は、駅構内の空きスペースに商業施設を誘致したり、JRグループ外の企業に呼びかけてIC乗車券を使える小売店や飲食店を増やしたり…。鉄道会社の枠を超え、消費者に密着したビジネスを展開してきた。

 日本郵政グループはJR各社を“お手本”にしつつ、独自の道を模索する。日本郵便の横山邦男社長はこう意気込んだ。

 「経営資源やノウハウとベンチャーのアイデアが化学反応を起こすことで、世の中をわくわくさせるような価値創造につなげたい」(経済本部 松村信仁)

 日本郵政グループ 持ち株会社の日本郵政が、郵便・物流や金融事業の経営戦略を担い、子会社に日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険を抱える。各社は平成19年10月の郵政民営化で誕生し、27年11月に日本郵政、ゆうちょ銀、かんぽ生命の3社が株式の同時上場を果たした。日本郵政は傘下に収めたオーストラリアの物流会社の業績不振で巨額の損失を計上。29年3月期の最終損益は289億円の赤字と、民営化後初の最終赤字を余儀なくされた。不動産事業を強化しようと野村不動産ホールディングスの買収を計画したが、価格が折り合わず撤回した。