不祥事幕引きはかる「名ばかり第三者委員会」は存在するか 〝格付け〟すると…

経済インサイド

 不祥事を起こした企業は、外部の有識者らで構成する「第三者委員会」を設置して原因を究明し、再発防止につなげる-という対応が一般的だ。しかし、企業法務に詳しい弁護士らが平成26年4月につくった「第三者委員会報告書格付け委員会」(委員長・久保利英明弁護士)は「名ばかり第三者委」が企業に都合のいい報告書を出し、問題の“幕引き”や経営陣の保身に利用されるケースがあると指摘。格付け委は内容を厳しく評価することで第三者委の調査を適正化するよう訴えているが、外部調査の受託は大手法律事務所の「絶好の商機」となっており、1件10億円が相場ともいう。

 日産自動車は昨年11月17日、新車の無資格検査問題に関する報告書を国土交通省に提出。詳細は明らかにしていないが、西川広人社長が報酬の一部を返上。担当の副社長も更迭し、問題は一段落した格好だ。

 国内最大手、西村あさひ法律事務所の弁護士チームによる報告書は、検査不正は「多くの国内工場で1990年代から常態化していた」と推測。カルロス・ゴーン会長は99(平成11)年に日産に来ており、結果的に、ゴーン氏の責任を認めない経営陣の主張の“論拠”になった。日産は翌日から、喪が明けたかのように平時モードに移行。不祥事企業にとって、外部の調査報告書提出は、禊(みそぎ)となることが多い。

 しかし今年1月、この報告書について格付け委は厳しい評価を与えた。格付け委の各委員が優れている方からA~D、F(不合格)で評価しD6人、F2人と“採点”したのだ。久保利委員長は「報告書として失格だ」と断言する。

 久保利氏は「工場別のヒアリング結果では、類似あるいは同一の記述が繰り返されている。コピーアンドペースト(コピペ)さえ疑われる」と指摘した。副委員長の国広正弁護士は、報告書の原因分析で「規範意識の鈍磨(どんま)」「経営管理部門と現場の乖離(かいり)」などが挙げられていることについて、「ありきたりの言葉の列挙に過ぎず、真の原因に迫ろうとする姿勢をうかがうことはできない」と批判。また、事務局長の竹内朗弁護士は管理者層と現場の距離感の改善に関し、報告書が「外部にいる当職らにおいて提言することは困難で、適当ではない」としたことをとらえ、「調査チームの職責の放棄であり、その専門性不足を露呈するものだ」と切り捨てた。

 “反論”を求めたが、西村あさひは「コメントは差し控えたい」としている。

 日産の報告書は、格付け委がこれまで評価した15件の中でも低い。DとFを除く委員がいなかった報告書は、2020年東京五輪・パラリンピック招致をめぐる不正疑惑(日本オリンピック委員会)▽慰安婦報道(朝日新聞社)▽羽田空港の施工不良(東亜建設工業)-の3件のみだった。

 格付け委は2月6日、ある「声明」を出したが、その内容は日産の報告書が低評価だったもう一つの理由と関係している。調査手法を決める経営者側の問題だ。

 そもそも日産は第三者委を設置せず、西村あさひに調査を“丸投げ”していたのだ。第三者委は弁護士だけでなく、公認会計士やジャーナリスト、学識経験者ら多彩なメンバーになりやすい。また、弁護士でも複数の所属の違う顔ぶれになれば、一つの法律事務所が調査にあたるより、緊張感が生まれやすいのは自明だ。

 日本取引所グループの傘下で上場審査や上場管理などを担う日本取引所自主規制法人の「上場会社における不祥事対応のプリンシプル(原則)」では、「調査の客観性・中立性・専門性を確保するため、第三者委の設置が有力な選択肢になる」としている。声明は、日産、SUBARU(スバル)、東レがこれに準拠した第三者委を設置しなかったとして、「こうした対応では、『事実関係や原因を解明し、その結果をもとに再発防止を図ることを通じて、自浄作用を発揮する』という目的を達することは困難」と指摘した。

 日産の西川社長は2月8日、産経新聞などのインタビューに応じた。検査不正問題の調査手法について問われ、「いろいろな調査をしてもらい、直すべきところは十分に把握できた。調査の質が第三者委と比べて劣るか劣らないかということは、コメントする立場にない」と話した。

 声明を発表した記者会見で久保利氏は「調査が不祥事を“マイルド化”するための印象操作に使われている」と指摘。格付け委委員のジャーナリスト、松永和紀氏は「不祥事企業が弁護士の仕事をつくり、弁護士は会社の意向を受けた報告書をつくるという構造ができあがっている」と話した。調査の報酬は開示されていないが、久保利氏は「大手法律事務所では1件10億円が一つの基準になる」と明かす。

 国広氏は「不祥事企業が状況をごまかすとどういうことになるか、東芝の例を見ればわかる」と指摘する。平成27年7月に第三者委が不正会計の報告書をまとめた東芝は、3カ月後に合意した原発関連のM&A(企業の合併・買収)の失敗により、主力事業の売却に追い込まれた。「第三者委が東芝の意向で調査対象から原発を外した。“フタ”をされたことで、その後の買収にもチェックが入らず、致命傷になった」と警鐘を鳴らしている。(経済本部 高橋寛次)