中国が建てたアフリカ連合本部から大量の情報が上海に「自動送信」されていた!

野口裕之の軍事情勢
握手する中国の王毅外相(右)とアフリカ連合のマハマト委員長=2月8日、北京(共同)

 筆者が所属している安全保障関係者の研究会で1月のフランスのルモンド紙の報道が課題に取り上げられた。報道や研究会に出席した関係者の追跡情報などを総合すると、こうなる。

 【中国政府は、アフリカ版EU(欧州連合)ともいわれるアフリカ各国政府の協力機構AU(アフリカ連合)の本部ビル(エチオピアの首都アディスアベバ)建設や本部内の情報通信システム整備を請け負った。ところが、「置き土産」として情報通信システムの基幹たるコンピューター内に「バックドア=裏口」を密かに仕掛け、AU内外の情報を盗み取っていた】

 諜報活動は国家の繁栄や国民の安全に不可欠で、日本のように諜報力が乏しい国こそ問題だ。ただ、中国の場合、「途上国支援の聖人」を装い、度を超した美辞麗句を並べる。

 例えば、駐日中国大使館は2012年1月30日の公式ホームページでAU本部の落成式の様子を掲載したが…

 中国共産党のナンバー4だった政治助言機関・中国人民政治協商会議(政協)全国委員会の賈慶林・主席があいさつに立った。

 《AU会議センターは中国政府と人民のアフリカ諸国、人民に対する「プレゼント」であり、アフリカ諸国の団結・向上と統合に対する「中国の支持を示す」もので、新世紀の中国アフリカ関係の深化・発展のシンボル、縮図であり、双方の実務協力の途上に「壮麗な一曲を記す」ものとなるだろう》

 情報窃取という、とんだ「プレゼント」が「中国の支持を示す」+「壮麗な一曲を記す」とは笑止千万だ。もう少し建設プロジェクトを説明しよう。

 敷地面積13・2万平方メートル/総建築面積5万平方メートル。オフィスビル+会議ビル+付帯施設で構成され、メーンのビルは高さが99・9メートルある。中国の対アフリカ支援では過去最大(当時)だった。214億円の総工費は全額、中国政府の負担で、建設は中国最大の国有ゼネコンが担当した。

 しかし、これで「めでたし めでたし」とはいかないのが対中外交の常。本部ビル内の情報通信システムは深夜を迎える度にすさまじい通信量を送信した。技術陣が原因を調べると、信じがたい量の情報が上海のサーバーへと送られていた。しかも、落成式から5年もの間、AU側は気付かなかった。

 中国政府は当然、「バックドア=裏口」のセットを否定した。他方、AUの中国観は甘過ぎた。

 中国大使館の公式ホームページは-

 《AUのジャン・ピン委員長、エチオピアのメレス首相、AU議長国赤道ギニアのオビアン・ヌゲマ大統領があいさつし、アフリカ各国とAUを代表し、中国政府と人民および会議センターの「建設に携わったすべての作業員に感謝」を述べた》

 《賈主席は中国政府と人民を代表し、「会議センターの『金のカギ』をAU委員会に贈った」》

 AU側は「建設に携わったすべての作業員に感謝」してはならなかった。中国は、海外での開発プロジェクトの際、セメントなど建設資材や労働者を自国より持ち込む。AU本部のプロジェクトでも同様だった。地元経済に配慮して、可能な限り現地産の資材や地元労働者を採用するわが国とは対極にある。

 それどころか、中国人労働者の中に中国人民解放軍所属のハッカーが紛れ込んだのは間違いない。賈主席が「AU委員会に贈った会議センターの『金のカギ』」は「バックドア=裏口」を作動させるカギだったのだ。

 中国が、ユーラシア大陸~アフリカ大陸に至る現代版シルクロード《広域経済圏構想=一帯一路》内の国々で「バックドア=裏口」を仕掛けまくれば、中国の《広域経済圏》は、中国の《広域諜報圏》と化すだろう。

中国伝統の「自爆史」が炸裂

 けれども、自らの振る舞いで窮地・国損を誘発する中国伝統の「自爆史」は“健在”だった。

 中国商務省のまとめで、中国企業が2017年に海外で行った直接投資(金融分野を除く)は13兆円で、前年を29・4%も下回った。中国の対外投資額で前年割れは03年の統計公表開始後、初めて。原因は、海外への不正な資金流出を警戒する中国政府の規制強化もあるが、決定打は安全保障上の理由に基づく被投資国の拒絶反応であった。

 象徴的だったのは中国・電子商取引大手アリババ集団関連会社の米国・国際送金大手マネーグラム社買収計画破談(昨年末)。総額1300億円に上るTOB(株式公開買い付け)計画だったが、対米外国投資委員会(CFIUS)は計画の申請を承認しなかった。CFIUSは米財務省が主導する審査機関。通常、外国企業による米企業買収に関し安全保障上の懸念がある場合、買収拒否を大統領に勧告する権能を有する。

 他にも、中国が策した米国の保険会社や証券取引所などの買収案件が相次ぎ拒否された。また、EU欧州委員会は昨年9月、域外企業の欧州企業買収に向けた審査強化策を打ち出した。インフラ+軍事+宇宙分野で、ハイテクが海外の政府系企業に渡ることを防ぐ狙いがある。

 先述したAU本部建設にまつわるルモンド報道の2週間前、中国・華為技術(ファーウェイ)は、米通信大手AT&Tを通じ自社製最新スマホMate10を米国内で販売する戦略を断念した、と発表した。米政府側の安全保障上の憂慮を反映した結果だ。

「孔子学院」という看板をかけた諜報機関

 中国の「自爆史」は、新たなページも刻み始めた。

 FBI(米連邦捜査局)のクリストファー・レイ長官は米上院情報特別委員会・公聴会(2月)で、中国政府が国外での中国語や中国文化の普及拠点と称する《孔子学院》の一部を対象に、捜査に乗り出している状況を明らかにした。

 米国内で展開されている諜報活動への捜査とみられる。米国内では、孔子学院が「親中派育成の場」との警戒感が強まっている。

 レイ長官は、孔子学院の活動が米学術界で中国に対する「無邪気な」見方を広める手段になっていると「懸念」を示し、「われわれは注意深く(孔子学院を)見ており、捜査に発展したケースもある」と言い切った。

 孔子学院は中国・国家教育部の一部局が司令塔となり、日本を含む世界中の大学に開設資金や助成金をバラまいている。2016年までに139の国・地域に、500以上の孔子学院が根を張った。

 “友好・文化交流”を隠れ蓑に、「中国共産党の思想&中国文化への共鳴→親中派の増殖」+「英語に代わり中国語を世界共通言語にしよう」と目論んでいるのである。最終目的は「世界の中国化→世界制覇」に他ならない。

 建国史が浅い米国は、大東亜戦争(1941~45年)以前より、中国文化に必要以上に“神秘性”を感じるヘキがある。2014年6月にはようやく、米国大学教授協会が警告を発した。

 「孔子学院は中国の手足として機能しており、学問の自由が無視されている」

 危険性を認識し、米国やカナダの数大学が孔子学院を閉鎖した。

 考えてみれば、孔子学院なるネーミングも笑える。中国共産党は文化大革命(1965~76年)で、孔子哲学や儒学を葬ったのではなかったか。

 一連の厚顔無恥の振る舞いは《中華思想》も影響している。

 中華思想とは「中国王朝」が宇宙の中心であり、その文化・思想が神聖だとする民族中心主義の独善的思想のこと。自らを皇帝に見立て、国家主席の終身制を進める習近平国家主席が築きつつある「独裁王朝」も「偉大なる中華民族の復活」をスローガンにするなど、中華思想が支えている。