時短ハラスメント ジタハラは「サービス残業の強要」と心得よ 田岡春幸

iRONNA発
「働き方改革」の論戦が続く衆院予算委員会で、打ち合わせする麻生太郎副総理兼財務相(右)と加藤勝信厚生労働相。左は安倍晋三首相=2月22日(斎藤良雄撮影)

 国会論戦は裁量労働制の適用拡大をめぐり与野党の攻防が続くが、働き方改革の号令一下、労働時間短縮を求められた企業では「時短ハラスメント(ジタハラ)」という新たな悩みも抱える。ニッポンの働き方はこれからどうなるのか。(iRONNA)

 これまで、日本の「病巣」とされてきた長時間労働は、結果として「KAROSHI」(過労死)という言葉に凝縮され、働き方改革は、いかに労働時間を削減していくかに主眼を置く。これは、労働者の健康管理という側面から必要であることは間違いない。

 とはいえ、長時間労働は本当に悪で、労働時間短縮が善なのか。むろん、働いた分の賃金がしっかり支払われないことは、あってはならない。本来は、ここをしっかり是正していく必要がある。

 しかし、業界によっては、技術向上のためにどうしても習得しなければならない技術がある。この練習時間まで削り労働時間を削減しろというのは労働者のキャリアアップの側面からも問題である。技術力が落ちれば、当然その企業の利益が減少し、日本経済の停滞にもつながる。

 そもそも、働き方改革で業務見直しを行わず、残業時間削減だけを行えば仕事が定時に終わらない可能性がある。それでも労働時間削減をお題目として、定時に帰らされる現象が起こる。これを今、「時短ハラスメント」と呼び、多くの企業で蔓延(まんえん)しているようだ。

ブラック企業と同じ

 たちが悪いことに、労働時間を短くすることを強制されながら、業務量は減らない。業務時間中に無理をするか、残業代が払われないことを覚悟しながら持ち帰って作業するしかなく、結果として労働者の不利益になる。

 ジタハラは、結果的にサービス残業を強いることになり、一見では分からないが、本来健全であった企業を「ブラック企業」に変えてしまう恐れがあるのだ。では、なぜこのようなことが起こってしまうのだろうか。

 まず、適切な人員配置ができていない。さらに、過度なノルマ設定、行き過ぎた成果主義になっているといった大きくこの2つの理由が考えられる。また重要なのは、管理職が部下の能力の把握や仕事のマネジメントをしていないことである。労働時間の中身を知らずに掛け声だけでやろうとしていることが多いのではないか。単に時短を叫ぶだけでは、管理職にマネジメント能力がないと言っているのと同じである。

 では、ジタハラが起きない組織にするにはどうすればいいだろうか。まず、上司が部下の労働時間の管理と中身、仕事の進捗(しんちょく)状況を把握し、一緒に考えていくことが重要である。部下は上司に逐一仕事の状況を報告する必要が出てくる。組織としては、人事考課や評価制度を変えていく必要がある。

時間至上主義の評価

 現状、「労働時間×営業数字」という評価を採用している企業が多く、評価が労働時間至上主義になっている。労働時間を削減したい場合は、ここを改める必要がある。給与(評価)が下がってまで早く帰ろうと考える労働者はいないだろう。これが、長時間労働を生み出している一つの要因であることは間違いない。

 また、労働時間に寄与しない評価基準を今後作成していく必要がある。労働時間を評価から外すことで、真の意味での「自由な働き方」が可能になるのではないかと考える。

 やはり、働き方改革で長時間労働を画一的に禁止すると、日本企業の組織体系が画一的になる可能性がある。どこの企業も同じ組織マネジメントをやり、企業風土と呼ばれるものがなくなる可能性も否定できない。もっと企業の自主性に任せたらどうだろうか。

 当たり前だが、仕事は内容によって必要な時間は異なる。はたして業種や企業規模を問わずに一律同じ内容の規制でいいのだろうか。何人も「働きたい権利」は、奪うことができない権利だと改めて認識すべきである。

 【プロフィル】田岡春幸(たおか・はるゆき) 労働問題コンサルタント。昭和51年、静岡市生まれ。大学卒業後、厚生労働省に入省し最低賃金法の改正、労使問題などに携わる。厚労省退官後は、企業の労務・人事系の顧問を務めている。主な著書に『中小企業がユニオンに潰される日』(青林堂)など。

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