大学入試改革 このままでは危ない「新テスト」 おおたとしまさ

iRONNA発
「大学入学共通テスト」導入に向け、試行調査(プレテスト)が行われた東京都内の高校=昨年11月13日(佐藤徳昭撮影)

 2020年、日本の教育は転換点を迎える。教育改革という旗印の下、大学入試センター試験に代わって、「大学入学共通テスト」の導入が決まったからである。知識を詰め込むだけの受験勉強では乗り切れなくなるとの触れ込みだが、本当に変わるのか。(iRONNA)

 大学入試改革の本丸は個別大学の入学者選抜の方法である。ペーパーテストだけに頼らず、面接・論文・高校時代の活動記録を評価するなど、多様な方法で入学者を選抜することを当初の目的とした。改革のもう一つの目玉がセンター試験の見直し。「基礎レベル」と「発展レベル」の2種類の「達成度テスト」に分けるとした。しかし個別の大学入学者選抜方法についてはまだ不透明な部分が多い。基礎レベルの達成度テストについては本格実施を23年度以降に先送りすることが決まっている。20年度以降、実質的にセンター試験の後継になる発展レベルの達成度テストは、「大学入学共通テスト(新テスト)」と呼ばれ、現時点ではこの行方に注目が集まっているので、ここでは主に新テストについて述べたい。

アップデート版

 新テストについて、当初は「年複数回の実施」「外部検定試験の活用」などのビジョンが示されていたが、高校の教育現場から「教科書の履修範囲を終えられない」という声が上がり、当面の実施は見送られた。つまり、新テストは、共通1次試験から続く「一発勝負の大学入試」の概念を改めるものではなくなり、現行のセンター試験に多肢選択・記述式問題を含めるだけのいわば「アップデート版」になってしまった。

 昨年12月、数学と国語について、新テストの試行版が公開された。従来のセンター試験との見た目上の一番の違いは、問題文の体裁。ほんの数行で終わっていたはずの問題文が、何行にも及ぶ会話文になっていたりする。「課題発見能力」も測るという意図があるのだろうが、これでは文章を速く正確に読み取るのが得意な受験生に有利で、教科そのものの能力が見えづらくなる。

 記述式問題については採点の方法が最大のネックだ。いくら専門の業者に委託するとしても約50万人分の答案を短期間で採点するだけの専門スタッフなどいるわけがない。結局は素人に機械的に採点させるのなら、記述式問題を出す意味があるのかという疑問が湧く。

 また「日本テスト学会」は、試行テストに見られた「5つの選択肢の中から適当なものをすべて選べ」というような多肢選択問題について、実際は選択肢ごとにそれが適切か否かの二者択一をしているにすぎず、「より深い思考力」を求めていることにはならない。5問正答のみを正答とし4問以下の正答は0問正解と同じとみなしてしまうことについても、「貴重な個人差情報を捨てる」と批判的な声明を出している。

文科省の作戦?

 このままでは「記述式も多肢選択問題もなしにして、現行のセンター試験のままでいいじゃないか」という結論になりかねない。

 一部報道によれば、テスト理論の専門家がすでに再三にわたって問題点を指摘したにもかかわらず、軌道修正がなされないまま今回の試行テストが実施されたという。だとすると、今回の試行テストは、公に批判を浴びる中で現実的な案に収斂(しゅうれん)していく文部科学省の作戦なのかもしれない。無理筋な改革を押しつけられたときに取るべきプロセスとしては間違ってはいない。ただしそれは、最終的な着地点が現行のセンター試験を「お色直し」した程度のものになることを見越しているからこその作戦だといえなくもない。

 英語の試行テストも始まり、全国158の高校で順次実施される。英語に関しては民間資格・検定試験の活用も同時に検討されており、それとの兼ね合いも論点になる。現時点で英検やGTEC、TEAPなどが名乗りを上げており、審査の結果が3月に発表される。

 改革によって得られるものと、生じる混乱のどちらが大きいか。受験生の志望校選びに影響を与えかねない新テストの実施まで、あと3年しかない。

 【プロフィル】おおたとしまさ 育児・教育ジャーナリスト。リクルート独立後、数々の教育誌を監修。教育現場を緻密に取材し執筆するスタイルに定評がある。小学校教員経験、中高教員免許、心理カウンセラー資格も取得。『中学受験という選択』(日経プレミアシリーズ)など著書多数。

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