蚊は外してもいいからよく狙え…攻撃した人を匂いで覚える

びっくりサイエンス
指に止まって血を吸うネッタイシマカ(キリー・リッフェル氏提供)

 あなたは蚊をたたき潰すのが得意だろうか。苦手でも結構。外してもいいから、よく狙うことが大事だそうだ。

 デング熱やジカ熱などの感染症を媒介するネッタイシマカが、攻撃されたときの匂いを覚えていることを、米ワシントン大のジェフリー・リッフェル准教授らが実験で明らかにし、論文が米専門誌カレントバイオロジーに掲載された。

特定人物を認識

 研究チームは、試験管の内容物を撹拌(かくはん)するのに使われるミキサーで、パチンと手をたたいて攻撃されたときに似た刺激を雌の蚊に与え、同時に特定の人や、ラット、ニワトリの匂いにさらすという学習実験を行った。その後に、匂いに対しての反応を調べると、本来は引きつけられるはずの人やラットの匂いに近づかなくなった。一方、ニワトリに対しては影響がみられなかった。

 さらに、蚊の脳で起きている生理現象についても探った。ミツバチから人間まで幅広い動物において、記憶は脳内の神経伝達物質ドーパミンが関わっていることが知られている。チームは、薬剤の投与などでドーパミンをとらえる受容体というタンパク質が作れないように操作した場合は、学習前後での匂いへの反応の差が小さくなることを突き止めた。

 このことから蚊は攻撃されたときの匂いを覚えて危険から身を守っているとみられる。

効果は虫除けスプレーに匹敵

 蚊が忌避する成分として、第二次世界大戦末期に米国農務省の研究者が開発した化学物質のディートが70年以上にわたって使われている。しかし最近では、ディートが効かない蚊が現れているという報告もあり、同じ薬剤を使い続けることによる耐性獲得が懸念される。

 ワシントン大の研究チームの実験で、強く学習効果に関係する成分は、ニワトリが持たず、哺乳類の頭部で多く分泌される「オクテノール」だった。この成分で学習させたところ、24時間後の忌避反応は、40%濃度のディートに匹敵した。既存の虫除け剤に代わる、新たな忌避剤開発が期待される。

 ただ、匂いは濃ければ濃いほど、記憶が強くなるというわけではなかった。また、ネッタイシマカ以外の蚊が匂いに対して同様の記憶力を持つかどうかは今のところ不明だという。

犬のように芸も

 昆虫の脳は非常に小さいが、より高等な動物と同様に、生存において記憶を活用していることはよく知られている。

 理化学研究所のチームは昨年9月、羽ばたきに応じて見える景色が変化する昆虫用のバーチャルリアリティー(VR)装置を作成して、キイロショウジョウバエの脳の活動を観測し、ハエが実際にみている景色だけでなく数秒前に見た景色の記憶を使って飛ぶ方向を決めていることを見つけ、科学誌に論文が掲載されている。

 また、英ロンドン大クイーン・メアリー校の研究チームは、欧州原産で日本でも外来種として定着しているマルハナバチが持つさまざまな学習能力を明らかにしている。昨年2月には、サッカーに似たゲームを作り、ゴールにボールを運べば褒美の砂糖水を与えるようにすることで、まるで、犬に芸を仕込むようにハチを調教することに成功したという論文が米科学誌サイエンスに掲載された。しかもゲームを覚えたハチは、仲間のハチにそのやり方を教えていた。

 蚊は夏から秋に大発生するが、日本には地下鉄などで通年で活動するチカイエカもいる。今度見つけたら、どうせ外すからと適当に追っ払うのではなく、真剣に“教育”してやってはいかが?(科学部 原田成樹)