【びっくりサイエンス】世界最大の頭脳集団「中国科学院」 共産党が強力に後押し、日本との勢いの差は歴然 垣間見える課題も - 産経ニュース

【びっくりサイエンス】世界最大の頭脳集団「中国科学院」 共産党が強力に後押し、日本との勢いの差は歴然 垣間見える課題も

中国科学院傘下の国家天文台が建設した直径500メートルの世界最大級の電波望遠鏡「FAST」=2016年9月、中国貴州省(新華社=共同)
中国科学院傘下の国家宇宙科学センターが開発した量子暗号の実験衛星「墨子号」を搭載し、打ち上げられたロケット=2016年8月、酒泉衛星発射センター(新華社=共同)
中国科学院傘下の国家天文台が建設した直径500メートルの世界最大級の電波望遠鏡「FAST」=2016年9月、中国貴州省(新華社=共同)
今年4月にも本格運用が始まる中国科学院傘下の先端科学施設「中国核破砕中性子源(CSNS)」の内部=2017年12月、中国広東省東莞市(共同)
今年4月にも本格運用が始まる中国科学院傘下の先端科学施設「中国核破砕中性子源(CSNS)」=2017年12月、中国広東省東莞市(共同)
 6万9千人対3千5百人--。これは中国における科学技術の総本山「中国科学院」と、日本唯一の自然科学系総合研究所である理化学研究所の人員を比べたものだ。中国共産党は1949年の建国直後に中国科学院を設置。科学技術を軍事や経済の根幹と見据えて投資を惜しまず、現在の年間予算は1兆円とも言われる。近年の勢いはすさまじく、科学技術の凋落が著しい日本との差は歴然だ。(2月10日掲載)
 中国科学院は、日本の内閣に相当する国務院に直属し、自然科学系の研究開発や高等教育などを主な任務としている。傘下には高エネルギー物理研究所(北京)や上海生命科学研究院(上海)、深●(=土へんに川)先進技術研究院(広東省)をはじめとして、全土に100カ所以上の研究所がある。7万人近い人員は、研究機関としては恐らく世界一だ。
 各研究所を通じて多数の研究施設を運用しており、主なものとしては(1)最新鋭の超電導トカマク型核融合実験装置「EAST」(安徽省)(2)近隣の原子力発電所から発生する素粒子ニュートリノを調べる大亜湾ニュートリノ観測所(広東省)(3)直径500メートルの巨大な電波望遠鏡「FAST」(貴州省)--などが挙げられる。
 さらには複数の大学も所管。このうち中国科学技術大学(安徽省)は、“最強の暗号”といわれる量子暗号の実用化に向けた研究で世界をリードする物理学者の潘建偉氏が副学長を務めている。研究に用いられている大型の実験衛星「墨子号」は中国科学院傘下の国家宇宙科学センターが開発して打ち上げたものだ。
 中国科学院の年間予算は2015年時点で約8600億円。近年の伸び率を考えると、今年は既に1兆円を超えていてもおかしくない。これに対して理研の今年度予算は10分の1ほどの965億円だ。
 年間予算は1998年から2015年までの17年間で10倍以上に膨れあがっている。背景としては、急激な経済成長に加え、「科学技術進歩法」という中国独自の法律によって“科学技術投資の伸び率は国家歳入の伸び率を上回らねばならない”と定められていることが大きい。
 この法律により、中国科学院だけでなく大学や他の研究機関でも予算の増額が続いている。国別の科学技術の年間論文数が米国を抜いて世界一になったのも当然だろう。この間、日本では「大学改革」によって運営費交付金が削減されるなどし、研究レベルの低下が続いてきた。
 中国共産党が科学技術を重視する背景には軍事と経済がある。特に、中国も米国や欧州、ロシアなどと同様に科学技術を国家安全保障の観点から重視しており、中国科学院とは別に「軍事科学院」が存在するほどだ。
 時代をさかのぼれば、毛沢東時代の中国は「両弾一星」のスローガンを掲げて核兵器や弾道ミサイル、人工衛星の開発を実現した。このとき中国科学院は人民解放軍を支援し、材料の開発や人材供給などに多大な貢献をしたとされている。
 現在も、例えば「長春光学精密機械・物理研究所」(吉林省)のように、人民解放軍との関連が疑われる傘下の研究所が存在する。科技大で開発中の量子暗号も、実用化されれば軍事面での利用価値が高いことは容易に想像できよう。
 もっとも、中国の科学技術は発展の勢いこそすさまじいものの、依然として米国や欧州などへのキャッチアップが中心だ。自然科学系のノーベル賞受賞者も1人しか出ていないが、日本人の受賞者も多くが数十年前の研究成果で受賞していることを忘れてはならない。
 その上で、中国の科学技術が置かれた状況について、科学技術政策に詳しい元文部科学省審議官の林幸秀氏は「基礎研究やオリジナリティーが欧米などに及ばない」と指摘する。背景には「10年でようやく成果が出るような研究は怖くてできない」という雰囲気があるという。
 さらには“敗者の山”を築いてイノベーションを起こした経験も少なく、日米欧などで生き残った成果を導入している段階にとどまっているといい、中国科学院などの真価が問われるのはこれからのようだ。
 日本としては、中国の科学技術の進展を正しく恐れつつ、対等に付き合うべく自らのレベルを高めていくべきだろう。(科学部 小野晋史)