【iRONNA発】平昌五輪 金与正「アイドル外交」の空疎な現象 田中秀臣氏 - 産経ニュース

【iRONNA発】平昌五輪 金与正「アイドル外交」の空疎な現象 田中秀臣氏

三池淵管弦楽団の公演を観覧する(左から)北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長、金与正党中央委員会第1副部長、韓国の文在寅大統領=11日、ソウル(聯合=共同)
田中秀臣氏
 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の実妹、金与正(ヨジョン)氏が平昌五輪開会式に出席し、「ほほ笑み外交」が大きな話題を呼んだ。「金与正ブーム」とでも言うべき現象を北朝鮮と共同演出したのは、他ならぬ韓国である。人気アイドルグループ、少女時代のソヒョンのサプライズ出演は、その表れではなかったか。(iRONNA)
 平昌五輪が開幕前から国際政治の観点で注目を集めているのは、北朝鮮側のいわゆる「ほほ笑み外交」攻勢のためである。金与正党中央委員会第1副部長らの高位級代表団が韓国入りしてからの過熱報道は、五輪そのものへの関心を上回っている。
 特に注目を浴びたのは、「金委員長に直言できるただ一人の人物」などと評されている与正氏の発言と動向だろう。確かに、故金日成(キム・イルソン)主席の直系が韓国を訪問したのは初めてである。メディアでは、与正氏が金委員長の「親書」を携えて、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に平壌での首脳会談を提案したことが報道されている。
 この一連の報道を見る限り、韓国と日本のメディアが「金与正ブーム」とでも言うべき空疎な現象に貢献している、と批判的に見ざるを得ない。まず、韓国到着後、初めて文大統領と会談したときの与正氏の表情が、顎をしゃくりあげた感じでまさに相手をにらみつけるような視線、いわば「女王様」的だったことが大きく報道された。
メディアの印象操作
 「白頭血統」というのだそうだが、故金日成主席に始まる北朝鮮の「金王朝の王女」とでもいうべき印象を、その写真は伝えている。だが、このような起源、つまり抗日戦士として北朝鮮の独立に貢献した金主席の話は極めて誇張されたもので、アイドル(偶像)の中でも最も虚偽性の高いものである。そのようなアイドルの欺瞞(ぎまん)的な側面を全開にした「女王様然」とした表情を垂れ流すメディアの印象操作には、やはり北朝鮮のイメージ戦略にくみしたと評されても仕方がないだろう。
 そもそも北朝鮮の「アイドル戦略」は、なにも北朝鮮単独で行われたものではない。韓国政府の強い協力がなければ不可能である。五輪の開催日程はとうの昔に決まっていたわけで、まさに北朝鮮と共同演出した「金与正ブーム」なのだろう。
 与正氏の在韓最終日には、三池淵管弦楽団のコンサートを文大統領と隣り合わせで観劇するというクロージングまで用意した。さらに北朝鮮の「公式アイドル」といえる牡丹峰(モランボン)楽団の団長である玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏が登場し、歌唱を披露したという。
 ここでも、韓国政府は北朝鮮と共同のサプライズを仕掛けている。韓国の人気ガールズグループ、少女時代の「末っ子」で人気の高いソヒョンとのコラボを企画していたのだ。ソヒョンに目をつけた理由の一つとして、彼女がかつて潘基文(パンギムン)前国連事務総長を「尊敬する人物」として挙げ、国連の活動イベントの際に面談したことが考えられる。彼女の出演は韓国政府が北朝鮮の「アイドル攻勢」に積極的に関与した証拠でもある。
加速する世論の分断
 こうした一方、米国は北朝鮮に変わらぬ強硬姿勢を示しており、今後は金融制裁など以前から効果的といわれてきた手法を駆使するだろう。韓国政府が北朝鮮の「ほほ笑み外交」という政治的プロパガンダに実質的な協力を行い、多くのメディアも知ってか知らずか加担してしまった。韓国国内でも世論の分断が加速するかもしれない。
 訪韓した安倍晋三首相は、文大統領に「米韓合同軍事演習を延期すべきではない」と発言した。日本では、文大統領が「内政問題」だとして不快を示したことに、安倍批判が自己目的化した識者たちが、またも安倍発言を問題視している。
 しかし、米韓合同軍事演習は日本を含めた北朝鮮、そして中国・ロシアへの広域的な安全保障政策の一環であり、その延期に意見を表明することは間違いではない。韓国での分断も注意すべきだが、日本の世論の、あまり合理的な意見に基づくとはいえない分断にも注意が必要だろう。
 【プロフィル】田中秀臣(たなか・ひでとみ) 上武大ビジネス情報学部教授、経済学者。昭和36年生まれ。早稲田大大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『経済論戦の読み方』(講談社現代新書)など多数。近著に『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)。
 iRONNAは、産経新聞と複数の出版社が提携し、雑誌記事や評論家らの論考、著名ブロガーの記事などを集めた本格派オピニオンサイトです。各媒体の名物編集長らが参加し、タブーを恐れない鋭い視点の特集テーマを日替わりで掲載。ぜひ、「いろんな」で検索してください。