増大のはずが…シンボル壊死でクリニック提訴「仕事への意欲喪失」

衝撃事件の核心
男性がクリニックを提訴した千葉地裁

 「男性のシンボルを失った悔しさは相当なもの」-。原告代理人弁護士は力を込めて語った。男性器増大の手術の失敗により男性器の大部分が壊(え)死(し)、排尿などが困難になったとして、50代の男性が千葉県船橋市内の美容整形クリニックと運営する医療法人社団を相手取り損害賠償を求めて千葉地裁に提訴した裁判。賠償請求額約2億4000万円という損害は、単に性的不能になっとなった精神的な苦痛によるものではなく、綿密に逸失利益を積み上げたものだった。

 提訴後に記者会見した代理人の弁護士によると、原告の男性が訴訟を起こした動機は、クリニック側に誠実な対応がみられなかったからだった。

 訴状などによると、男性は平成27年10月27日に、過去に受けた手術による男性器の変形の修正及び、「フィラー」とよばれる充(じゅう)填(てん)物を注射する手術を受けた。近年、失敗した手術例も指摘されているが、手術前に医師から危険性についての説明はなかったとしている。

 同クリニックのホームページには、男性の受けた手術法について「注射だけの安全性の高い治療」「簡単・手軽に陰茎増大と長茎が可能」などのメリットについての記載が大部分を占め、リスクについては「まれに内出血は現れます(内出血はいずれ消えます)」などと書くのみで、壊死の可能性についての記載は確認できなかった。

 同月31日、男性は手術後に内出血や黒色変色、中から押されるような痛みを感じ、同クリニックを受診。クリニックは男性器の一部に壊死の可能性を確認した。その後、切開での血液排出やマッサージなどの処置が行われたが、効果は少なく、壊死は進んでいった。

 同年11月18日、同クリニックは自身での治療は不可能と判断、男性を横浜市内の病院に紹介。翌日、男性は同病院で大部分を除去する手術を受けることを余儀なくされた。

 現在、亀頭部が壊死するなど形状は大きく変形し、大きさも数センチを残すのみで、排尿に支障をきたすなどしている。治療は現在も続いているが、壊死した部分が再生することはないとみられている。

 男性側は▽手術前に壊死するなどのリスクがある可能性があることを説明しなかった▽手術後に適切な処置をせず、症状を悪化させた▽外部の専門医療機関の紹介を適切に行わなかった-などと主張。クリニック側の対応に納得いかず、肉体的、精神的に大きなダメージを受けたとしている。

 請求した損害賠償額は計約2億4千万円。このうち、現在までの治療費などは約170万円にすぎない。慰謝料も約750万円だ。大半を占めたのは、男性器を失い仕事に取り組む意欲の喪失を余儀なくされ、これによる逸失利益約2億1千万円だ。

 代理人弁護士によると、交通事故などで男性器を失った場合などで、これに起因する労働能力の喪失などで、逸失利益が認められるケースがあるという。そうしたケースを参考に、男性のケースでも逸失利益を積み上げ、逸失利益は2億円を超すとはじき出した。

 原告の代理弁護人は記者会見で、「和解にむけた交渉なども進めてきたが、クリニック側からは十分な回答と謝罪が得られなかった」と、提訴に踏み切った理由を改めて説明。メリットのみを強調し、十分な説明をしないで手術を薦める医師が多い現状に「この訴訟から一石を投じたい」と提訴の社会的意義を強調している。

 同クリニックは「患者が合併症を併発したことについては把握しているが、医師は適切な治療をしており過失はない」と話し、「謝罪も行っている」としている。第1回口頭弁論では、原告の請求の棄却を求める答弁書を提出、全面的に争う構えを見せた。

 男性器についての悩みは簡単に消えるものではない。もしメリットのみを強調して、クリニックがその危険性を語らないまま手術に踏み切り、その後も満足なケアを受けられなければ…。男性なら誰でも心情的に同情できる訴えに聞こえるが、裁判所は法的な賠償責任をどう判断するのか注目される。