口を開かずとも“ダースベイダー”に 希望・細野豪志氏が嫌われる理由

野党ウオッチ
希望の党の細野豪志憲法調査会長

 「『だれだれ君』がいるから、このグループはイヤだ」-。小学生のケンカのような騒動が東京・永田町の一角で起きている。希望の党と民進党との統一会派結成交渉が頓挫した理由について、両党周辺が口をそろえて希望の党の細野豪志憲法調査会長(46)の存在を挙げているのだ。かつて将来の首相候補といわれた細野氏だが、民進党系の衆院会派「無所属の会」に加え、希望の党内でも「民進党系勢力再結集の足かせ」として「細野切り」を暗に主張する声が出る始末だ。そこまで嫌われる理由はいったい何か。

 今月6日午前、希望の党創設メンバーの松沢成文参院議員団代表(59)は国会内の一室で古川元久幹事長(52)に「翌7日の役員会で分党を提案する」と述べ、松沢氏側に同調する計5人のリストを突きつけた。しかし、古川氏は松沢氏の提案に難色を示した。

 そもそも松沢氏側の意向をくんで分党の選択肢を提案したのは執行部側で、1月17日に民進党との統一会派構想が頓挫する前の話だった。しかし、一呼吸を置いたことで、党内の若手を中心に勢力減を意味する分党への忌避感が生じ、分党提案は両院議員総会で否決される恐れがあった。党内の混乱を懸念した古川氏は松沢氏に対し、こうも本音を漏らしたという。

 「根回しをする時間がほしい」

 この言葉は玉木雄一郎代表(48)ら執行部にとっては、分党をなんとしても成就させたい思いの裏付けといえる。今や希望の党は、党創設メンバーとたもとを分かち、無所属の会を含めた民進党と合流して数を増やすことを求める意見の方が大勢だ。結党時の政策理念の貫徹よりも、組織拡大の重要性の度合いが増しているのだ。

 玉木氏の側近は「来年は参院選もあり、本格的に政権に対峙する年になる。その準備のためには、今年は再編に注力して野党の態勢を整え直さなければいけない」と力を込める。

 党内には、松沢氏らとは別に、急進的な「民進党系再結集」を掲げる大串博志衆院議員(52)らのグループもいて、民進党系再結集を否定していない玉木執行部の対応を注視している。民進党との合流路線をめぐる対応を誤れば、党は3分裂をしかねない。その民進党系再結集の“障害”が細野氏の存在なのだという。

 細野氏は昨年4月、当時在籍していた民進党の代表代行を辞任した。8月には離党届を提出し、安倍晋三首相(63)による衆院解散の決断を受けて結成された希望の党の創設メンバーに加わった。民主党政権では中枢を支え、野党転落後の民主党代表選に出馬したこともある細野氏が「逃げた」と映った。

 さらに民進党議員が細野氏に感情的なしこりを抱く決定的な事態が起きた。細野氏は民進党が党として希望の党への合流を決めた昨年9月28日の夜、テレビ番組で、希望の党への公認申請をめぐり「三権の長はご遠慮頂くのがいい」と述べた。念頭にあったのは野田佳彦前首相(60)と菅直人元首相(71)だ。細野氏は野田内閣当時、原発事故担当相を務めた。その野田氏への裏切りともいえる発言で、細野氏への忌避感が高まった。

 希望の党を立ち上げた小池百合子前代表(東京都知事)の側近の述懐によると、細野氏の発言内容は首相経験者を「排除」することで民進党色を薄めたい小池氏側の指令だった。実は、あらかじめ細野氏が発言する予定だったわけではなく、9月28日にテレビに出演する党創設メンバーが「三権の長排除」を語る算段になっていた。番組出演後、細野氏は小池氏側近に「野田さんに恩義がある。だが、ああ言わざるを得なかった」と涙ながらに語ったという。

 野田氏も昨年11月27日付のブログで、細野氏から「発言は上からの指示でやむを得ず…」などと謝罪されたことを明らかにしている。野田氏は発言を指示した人物について「小池都知事だったと改めて知り…」とした。とはいえ、政治は結果がすべて。発言した細野氏は自分の行動の責任を背負わざるを得ないのは言うまでもない。

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 尾はいまだに引いている。「無所属の会」の代表を務める岡田克也党常任顧問(64)は民進、希望両党の統一会派構想が頓挫した後の1月26日、BS番組収録で「衆院選のときの希望の党と違う存在になってもらわないと、統一会派を含めて手を結ぶわけにはいかない。それがけじめだ」と語った。「けじめ」の中身について岡田氏は明らかにしていない。ただ、民進党幹部は「岡田氏は希望の党が細野氏を切れるかどうかみている」と指摘する。

 今月10日夜、都内の料亭に立憲民主党にシンパシーを感じる“離党予備軍”と呼ばれる民進党参院議員3人が集まり、今後の対応について協議した。それぞれ思惑は異なるものの、一致したのは細野氏がいる希望の党とは合流できないことだった。

 出席者の1人は「細野氏が役職につかず隅っこにいても、細野氏と同じ党ということでは支援者から反発されてしまう」と語る。

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 民進党と希望の党の統一会派交渉をめぐり、無所属の会側の重鎮は希望の党幹部に対し、水面下で「細野切り」を求めてきた。これを受け、希望の党幹部は交渉が本格化する1月中旬から細野氏への離党工作を実施した。党幹部は1月15日に細野氏に面会し、離党を促したという。

 ただ、その日の夜に分党否定論者の創設メンバーである長島昭久政調会長(55)、笠浩史衆院議員(53)らが細野氏を「逆説得」し、細野氏は党残留を決意した。ところが、細野氏は長島氏らとの会合の最中に体調に異変を感じた。「人生初めて」(細野氏)というインフルエンザを罹患していた。1月17日には希望の党との統一会派をめぐる民進党の両院議員懇談会が予定されており、希望の党幹部が連絡を試みたが、細野氏は寝床に伏せってしまい、電話には出ずじまいだった。

 無所属の会側は、細野氏残留を知り、両院議員懇談会では希望の党との統一会派結成について反対に転じ、統一会派構想は頓挫した。

 それでも希望の党執行部は「細野切り」を画策した。次なる手段は、安全保障法制や憲法をめぐる党見解について「細野氏が、とうてい飲めない内容にする」ことだった。

 旧民主・民進党時代は安全保障法制に反対していた細野氏だが、希望の党結党時には賛成に転じた。希望の党の昨年の衆院選公約でも「現行の安全保障法制は憲法にのっとって適切に運用する」「9条を含め改憲論議を進める」と明記した。

 しかし、1月26日の両院議員懇談会で玉木氏が発表した党見解は、安保関連法の「武力行使の新3要件」の削除が盛り込まれ、憲法9条を改憲議論の優先対象から外し、9条1、2項を維持し自衛隊の存在を明記する安倍首相の改憲案については「反対」と軌道修正した。

 野党再編のため見解を修正した希望の党執行部だが、ここに来て根回しの稚拙さが浮き彫りになっている。細野氏に対して党幹部が離党や憲法調査会長の辞任を促しても、細野氏は最近まで自分が統一会派結成の障害となっていることを知らなかったようなのだ。ある中堅議員は「交渉担当者が細野氏に対し、あいまいにしか離党宣告を伝えられなかった」と嘆く。

 26日の両院議員懇談会で示された党見解について、細野氏は記者団に「憲法に関しては幅のある書き方をしているので、9条も含めしっかり議論していくというスタンスは変わらない。受け入れ可能だ」と述べた。離党を促したつもりの幹部だが、一方で憲法調査会長である細野氏に対し事前に党見解を示していた。党幹部の1人は「作戦ミスだ。細野氏に事前に考える時間を与えてしまった」と悔いる。

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 細野氏は統一会派構想が頓挫した後の1月26日、記者団に今後の自身の対応を問われ「腰を落ち着けて党としてどうしていくのか考えていくべき時期ではないか。あわてるよりは、しっかり党内でそれぞれのことについて議論していくことの方がいいのではないか」と語った。離党の意志はないようだ。インフルエンザから回復した直後には、周囲にこう漏らしていた。

 「何もしていないのにいつも悪く言われてしまう。まるで(映画『スター・ウォーズ』の悪役)ダースベイダーだ…」

 細野氏は今後、周辺に多くの「敵」を抱えながら、針のむしろのような政治環境で生きていくのだろうか。それよりも松沢氏が提案する分党に参加する方が形式上はスッキリする。松沢氏は現在の玉木執行部率いる希望の党について「結党時の理念と考えが変節している」と指弾している。分党が実現すれば松沢氏側の勢力は小さくなるが、政策と理念で筋を曲げなかった側にこそ、展望が開けてくるのではないだろうか。

 衆院選前に一時、細野氏の担当記者となり、細野氏が議員会館にこもって結党準備に努力してきた姿を見てきた。党務に忙殺され、地元で選挙準備も行えず、選挙期間中はリスクをとって全国を応援のための遊説にまわり、地元は留守にした。数を選ぶのか、それとも政策・理念で筋を通すのか。民進党離党を決断したときの気概を思い起こしてもらいたい。 (政治部 奥原慎平)