雲隠れ「はれのひ」社長登場も被害者へ「返済能力なし」と開き直り 被害者は晴れず

衝撃事件の核心

 成人の日を前に、一体何が起きていたのだろうか-。振り袖の着付けや販売を手掛ける業者「はれのひ」(横浜市中区)が成人の日を前に突然営業を取りやめ、晴れ着を着られなくなった新成人が相次いだ問題の余波が続いている。1月26日には、行方をくらませていた篠崎洋一郎社長(55)が初めて記者会見に臨み、謝罪の言葉を口にした。だが、被害者に「返済する能力がない」と言い切るなど弁明に追われた前代未聞の“ドタキャン”騒動に、被害に遭った新成人の「晴れの日」が踏みにじられた事実が変わることはなく、今も悔しさを内にしまい込んでいる人は多い。

 被害が明らかになってから10日が過ぎた1月18日。横浜市役所1階の市民相談室に設けられた「『はれのひ』特別法律相談窓口」には、無料で弁護士に相談できるとあって、被害者本人や親子などが相次いでかけつけた。山口敏子・市消費経済課長は「こうした特別相談を開催することはめったにないことですが、当事者の立場に立つと、専門家の声が聞きたいのではないかと判断して開設しました」と話し、市としても被害者救済に向けた動きを本格化させている。

 代替式典は見送り

 だが一方で、市教育委員会が一時検討していた成人式の代替式典については、無責任な民間企業の“尻拭い”を税金で行うことへの是非を問う声もあり、見送る方向という。

 市教委などは1月19日、着物の無償レンタルや写真撮影などで協力したいという「善意の申し出」をしている企業や個人の情報を掲載し、被害に遭った新成人との橋渡しにつなげる特設サイトを市ホームページ上に開設。着付けやヘアメークのボランティア、着物を無償で貸し出すといった善意の申し込みを受け付け、精査した上で情報を随時アップしている。

 また、行政を離れた動きも出てきた。

 お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣(あきひろ)さん(37)の声がけに、200人以上の有志や賛同した企業などが協力する形で、2月4日に横浜で「新成人祝いの会」が開催されるのだ。当初、先着150人としていたイベント参加者数は、同伴者を入れると250人以上、着物の着付けのみという人も20~30人程度に膨らんでいる。担当者も「想定以上の申し込みの数」としており、準備に追われているという。

 取引先が感じた予兆

 今回のトラブルには、多くの予兆があった。

 横浜市内の民間調査会社には、平成29年の初め以降、はれのひの取引先から支払いの滞りの情報と財務状況の調査依頼が寄せられるようになった。同年秋をピークに「情報を寄せてきた取引先は10社以上に上る」(民間調査会社関係者)と打ち明ける。このため、「呉服業界内でも29年春から秋にかけて、はれのひの経営が、かなり危ないという噂は出ていた」(同)と明かす。同社の調査では、はれのひの信用評価は最低評価に近いランクをつけられていた。

 着物を卸し、支払いを受けていたはれのひの取引先の一つの広報担当者は「契約上は月末締めで、納入から40日後に納入分を100%支払ってもらう約束だったが、28年10月の納入分を持って納入を打ち切った。その数カ月前から支払いが滞り始めたから」と話す。

 この会社の場合、はれの日の担当者からは「当面のお金がないので、少額ずつ支払います」と説明され、以降、毎月末に少額ずつの支払いはあったが、29年10月末の支払いを最後に支払いがストップ。「現段階で残った滞納金は1千万円以上。はれのひ側の弁護士が誰なのか、そもそもいるのかすら分からないので、動き出そうにも動けない。どうしようもないので、今後の動きを待つしかない」と悲痛な声を上げる。

 別の取引先でも支払いが滞っており、「今からおよそ2年前から納入は行っていない。昨年12月まで少しずつでも支払いは続いていたが…」と落胆する。

 負債10億円

 「もしも2回目の成人式が開催されたとしても、あの着物が着られないのなら、参加したいとは思えない。もう絶対に着られないですよね…」。被害に遭った横浜市南区の大学2年の女性(20)は、一生に一度しかない機会を台無しにされて、悔しさを隠しきれない。

 行政や民間の支援も、ひとまずは今年の成人式の被害者救済を主としているが、すでに今春の卒業式や、来年以降の成人式などの予約金を納めてしまっている人も多く、問題の解決をみるには相当な時間を要するとみられている。

 問題の発覚から3週間近くたった26日に、謝罪会見を行った篠崎社長は「取り返しのつかない事態」「全て私に責任がある」などと神妙な面持ちで謝罪を繰り返したが、詐欺の認識は語気を強めて否定した。

 会見に同席した破産申立代理人の弁護士は、現時点での負債額約は6億3500万円に上り、最終的には10億円に上るとの見通しを明らかにした。

 弁護士が同社の負債額を読み上げている間、篠崎社長は硬い表情でうつむき気味に座り、視線を上げることはなかった。質問は雲隠れした理由に集中。社長は成人の日以降は「神奈川県内の知人の家にいた。隠れるつもりはなかった」とした上で、「個人の資産は預金が数十万円あるだけで、(被害者に)返済する能力がない」とも言い切った。

 さらに、「昨年10月中旬には、こうした事態が想定できた。融資をしてもらえるよう金融機関と交渉したが、断られた」と明かした。

 事件化に向けては、警視庁や神奈川県警も動き出してはいるが、「捜査に着手したという段階。詐欺的であることに間違いはないが、だからといって詐欺罪を構成するとはいえない。事件化までにはまだまだ時間がかかる」(捜査関係者)とみられている。

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 【はれのひ】本社・横浜市中区。横浜みなとみらい、東京・八王子、茨城・つくば、福岡天神で振り袖の販売とレンタル店を運営、着付けやフォトスタジオも手がけていたが、平成30年1月8日の成人の日に突然休業した。予約客のために自主営業した福岡天神店を除く全店が休業し、着付け会場にも振り袖が届けられなかっため、購入したり、レンタルで着付けを予定していたのに晴れ着を着られない被害者が多数出て、警察などに数百件の被害相談が寄せられるという社会問題に発展。同26日、横浜地裁が破産手続きの開始を決定した。