文在寅政権は「韓中&韓朝同盟」日米が下げ続ける「対韓温度」

野口裕之の軍事情勢
22日、北朝鮮視察団が到着したソウル駅の前で、金正恩朝鮮労働党委員長の写真を燃やす保守団体の関係者。韓国当局は捜査に着手した(共同)

 韓国が「約束を守る」国だとは、知らなかった。

 何しろ、韓国の文在寅・大統領が10日の年頭会見で、「最終的かつ不可逆的な解決」を確認したはずの慰安婦問題をめぐる日韓合意を無視し「日本が真実を認識し、被害者に心より謝罪することが必要だ」として、合意は「最終的かつ不可逆的な解決」ではないとする考えを表明したお国柄。

 ただし、後述するが「約束を守る」相手国は中国であって、日本や米国ではない。言うなれば、甘えられる国は裏切り、おっかない国には忠誠を誓う、それが韓国という国の「正体」だ。

 しかし、韓国の「正体」に失望させられ続けてなお、米海軍・攻撃型原子力潜水艦の釜山港寄港拒絶には唖然とした。

 攻撃型原潜はバージニア級の《テキサス》で、1月中旬に補給・休養目的で釜山港に入港しようと、韓国側に打診したが拒否された。「人目につきにくい50キロ離れた鎮海港への回航」を提案したというから驚くではないか。結局、原潜テキサスは在日米軍基地が所在する長崎県・佐世保港に入った。

 バージニア級は巡航ミサイル・トマホークの発射システム12基を装備。海軍特殊作戦部隊ネービー・シールズの投入&回収に向けた構造を備え、朝鮮戦争(1950~53年休戦)再開ともなれば、対地攻撃に加え、朝鮮労働党の金正恩・委員長ら北朝鮮首脳の拉致・暗殺などを担う切り札の一つとなる。

 到底、《米韓相互防衛条約》を締結し、米韓連合軍を編成する同盟国に対する仕打ちではない。同じく巡航ミサイルを搭載する米海軍の攻撃型原潜《ミシガン》は昨年4月に釜山港に入るなど、昨年には原子力空母も含め頻繁に米海軍艦艇が同港を使用していたので、豹変が「国是」とは分かっていても、あきれてしまう。

 韓国が、中国など隣国の恫喝でコロコロコロコロ態度を豹変させる《事大主義/小が自らの信念を封じ、大=支配的勢力に事(つか)え、自己保身・生存へと流されていく外交姿勢》は、韓国が罹患する不治の病。平昌五輪に選手団を送る方針を今のところは固めた北朝鮮や、南北対話を最優先にする中国の顔色をうかがい、「韓米同盟色」を薄めたい、いかにも北朝鮮との同化を謀る文在寅政権らしい「浅知恵」なのだった。

対北ゴマすり続々と 「歴史の罪人」と化す文政権

 五輪開催を前に北朝鮮のご機嫌取りに余念のない文在寅政権の「浅知恵」は、続々と具現化している。 

 文在寅政権は、2016年に韓国へ亡命した太永浩・元駐英北朝鮮公使ら北朝鮮の体制に批判的な著名な脱北者に、平昌五輪期間はメディアのインタビューなど公開の場での活動を控えるよう勧告した。北朝鮮は脱北者を「人間のごみ」と非難する。

 まだある。

 北朝鮮が平昌五輪開幕前日(2月8日)に大規模な軍事パレードを計画している屈辱的状況をよそに、韓国軍の新兵器配備をめぐる行事の公報・広報も縮小された。

 3月末に米国で開かれる韓国空軍の次期戦闘機《F35A》の1号機ロールアウト(初公開)行事に際し、韓国国防相ら関係高官が送る手はずを整えていた祝賀ビデオメッセージもとりやめた。ステルス性能に優れたF35Aは北朝鮮の核・ミサイル発射の兆候に対抗し、先制攻撃を敢行する韓国軍の《キルチェーン》戦略の中核戦力だ。

 さらに韓国国防省は、上陸機動ヘリコプター《マリンオン》を配備した海兵隊へも「北朝鮮への斬首・潜入作戦に使用する、といったPRは控えるように」と命じた。

 まだまだある。

 韓国警察当局は保守系の政党や団体が金正恩・委員長の写真や北朝鮮旗を焼いたパフォーマンスを問題視し、捜査に着手した。

 韓国のサヨク団体が日章旗や安倍晋三・首相の写真を頻繁に火あぶりにする日常茶飯事の蛮行に、本格的捜査のメスが入ったとは聞いたことがない。

 昨年11月のドナルド・トランプ米大統領の訪韓時でも、写真の「火刑式」が挙行されたが「激甘」対応だった。

 韓国の保守系最大野党・自由韓国党のスポークスマンは20日、文在寅政権を次のごとく非難した。

 「(ピョンチャン五輪を返上、ピョンヤン五輪を宣言した)期間限定の平和も束の間。北朝鮮が核兵器を完成させ、核・ミサイルで韓国や全世界に向け挑発と脅迫を本格化させるのなら、文政権は『歴史の罪人』となる」

中国の「勅令」には即、服従する韓国

 反面、韓国の文在寅政権は、中国の「勅令」には極めて迅速に服従する。

 中国の「関係改善の3条件=3つのノー」要求を昨秋、ほぼ無条件で呑み、ほぼ満額回答で応えた。しかも、同盟相手の米国に相談もせずに。

 すなわち-

 (1)米国のミサイル防衛システムに加入しない。

 (2)日米韓の安全保障協力は軍事同盟に発展しない。

 (3)北朝鮮・朝鮮人民軍の核・ミサイル攻撃などから韓国を守る米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)システムの追加配備をしない。

 (2)は実行に移された。朝鮮戦争再開前夜の危機的状況の中、昨年11月14日まで日本海で行われた日米(韓)共同演習の直前、韓国は参加を拒否。日米と米韓の分離演習を成功させたのだ。

 もはや「日米韓協力」などという言葉は死語で、「韓中&韓朝同盟」こそ実態だ。

 今後、文在寅政権は「韓中&韓朝同盟」に基づき、危ない政策を着々と実現させていくだろう。一連の政策は「米軍のプレゼンスが朝鮮半島を緊張させる」との、著しく倒錯した反米親北思想が後押ししている。

 行き着く先は、在韓米軍の撤退だ。

 文在寅・大統領には、在韓米軍撤退を狙った《戦時作戦統制権》の返還にまつわる“前科”がある。

 戦時作戦統制権とは、戦時に軍の作戦を指揮する権限。現在の米韓連合司令部では、在韓米軍司令官(大将)が連合軍司令官を兼務して戦時作戦統制権を行使し、連合軍副司令官は韓国軍の大将が就いている。言い換えれば、韓国軍は戦時、米軍の指揮下で軍事行動を実施し、単独で自軍を動かせない。

 戦時作戦統制権の淵源は、朝鮮戦争にまでさかのぼる。爾後、北朝鮮情勢の緊迫化や従北サヨク政権の出現の度、戦時作戦統制権が米韓の駆け引きのテーブル上に並んだ。

 従北サヨクの盧武鉉政権は米国に対して戦時作戦統制権の返還を求めた。要求を受け、2006年の米韓首脳会談で米国は戦時作戦統制権の返還に合意する。2007年には返還期限「2012年4月」が設定された(その後の保守政権で延期を繰り返す)。

 けれども、盧武鉉・大統領(1946~2009年)の隠された狙いは戦時作戦統制権の返還ではなかった。盧氏は返還要求前、トンデモない極秘命令を韓国軍合同参謀本部に下していた。

 「在韓米軍撤退と撤退に伴う対策の研究をせよ」

 自軍戦力の限界を悟る韓国軍合同参謀本部は、のけ反った。

 そこで、盧氏の研究命令を「戦時作戦統制権の返還」に巧みにすり替えた上で、回答を上申したのだった。 

 盧武鉉・大統領の極秘命令は、盧氏を大統領選挙中も支え、盧武鉉政権では大統領秘書室長を務めるなど「盧武鉉の影法師」と呼ばれ最側近であった文在寅氏の入れ知恵であったやもしれぬ。文氏も自らの大統領選挙で戦時作戦統制権の任期内返還を公約。盧武鉉政権にならい、またも戦時作戦統制権の返還話を持ち出した。

 当然、文大統領の最終的な狙いも盧武鉉・大統領と同様、《在韓米軍撤退》である。

 在韓米軍撤退を本格的に仕掛ける前に、予兆があるに違いない。

 文在寅政権は米国に、平昌五輪・パラリンピック期間中の米韓合同演習「中止」を求め、米国のドナルド・トランプ政権も中止を呑んだ。だが、北朝鮮との同化を目指す文在寅政権は五輪・パラリンピック後、米韓合同演習の「無期延期」にカジを切る可能性がある。「無期延期」の向こうにチラつくのは、北朝鮮と中国が強硬に要求している米韓合同演習の「廃止」だ。

 さらに、米韓合同演習の「廃止」の向こうには《在韓米軍撤退》が待ち受ける。

米国は同盟国・韓国への情報統制を始めた

 腹立たしいことに、米国防総省や在韓米軍では、高度な警戒監視態勢を北朝鮮・朝鮮人民軍のみならず、同盟関係にあるはずの韓国軍にまで執らざるを得ぬ「二正面作戦」を強いられている。

 例えば、米国防総省や在韓米軍司令部は文在寅政権など歴代サヨク政権のたび、北朝鮮への漏洩を恐れ、韓国軍への情報統制を強めてきた。

 もっとも、立場をわきまえぬ文在寅政権が在韓米軍撤退を過剰に画策し続ければ、「ならばご要望にお応えしよう」と、米国がキレ、本当に韓国よりおさらばする危うさも漂う。 

 盧武鉉政権中の2006~08年にかけて在韓米軍司令官を務めたバーウェル・ベル退役陸軍大将は昨年末、米国政府系メディアのボイス・オブ・アメリカ(VOA)との電話インタビューにおいて、異例の強さで韓国に警告を発した。

 「自分が司令官在任中に『北朝鮮を懐柔するために軍の準備態勢を和らげよう』といった提案が出されたら、直ちに米大統領に在韓米軍撤退と米韓相互防衛条約破棄を進言しただろう」

 「米韓合同演習を交渉手段として利用するのなら、米韓軍戦力と韓国国民の危機を創るだけ。そうなれば、米国は米韓同盟を捨てねばならない」

 「五輪閉幕後、本来計画された演習を全範囲で実施しなければならない」

 「味方の戦力をダウンさせたいなどの提案は米軍と韓国人の命を(北朝鮮との)交渉のテーブルに置いているのと同じで、適切ではない」

 2011~13年の間、在韓米軍司令官だったジェームズ・サーマン退役陸軍大将もVOAに明言した。

 「朝鮮半島が緊張する原因は米韓合同演習ではなく、北朝鮮の挑発」

 「北朝鮮が緊張緩和に関心があるのなら、弾道ミサイル発射を止め、非核化すれば済む」

 「(米韓合同演習延期など)北朝鮮をなだめようとする試みが通じたことはなく、北朝鮮との取引は効果的でもない」

 まさにその通り。

 現に1990年代、米韓合同演習(チームスピリット)を中断したが、北朝鮮に核・ミサイル開発の時間を献上しただけだった。

 日本に加え、米国も韓国の無節操・破廉恥に振り回され疲れ果てている。記録的寒波に襲われている日米両国だが、体感温度とともに「対韓温度」も下げ続けているのである。