日本の在来アリが米国で大繁殖 食性変えて現地アリを駆逐 巣の数は日本の2倍

びっくりサイエンス
米国で大繁殖している日本在来のオオハリアリ(松浦健二・京都大教授提供)

 日本では昨年、刺されると死ぬこともある南米原産の猛毒アリ「ヒアリ」が初めて侵入したことが判明し大騒ぎになった。日本の在来アリより凶暴で、定着すれば在来種を駆逐して大繁殖すると懸念されたためだ。結局、初期の駆除が成功し定着には至らなかったが、実は海外で逆の現象が起きていることが京都大などの研究で分かった。日本の在来アリが海を渡って米国の森に侵入、現地のアリを蹴散らし大繁殖しているというのだ。(※1月13日の記事を再掲載しています)

巣の数は日本の2倍

 米国で猛威を振るっているのは「オオハリアリ」。東アジアに広く分布する日本の在来種で、体長4・5ミリ程度の中型アリだ。森の朽ち木にすみ、腹部の先端にある毒針でシロアリばかりを襲って食べる。毒の強さはミツバチと同程度で、人が刺されるとアナフィラキシーショックを起こすこともある。19世紀ごろ、日本などからの貿易船で貨物に紛れて米国に侵入。すぐに定着して大繁殖した。

 研究チームは、気候がよく似ている岡山県の7地点と米ノースカロライナ州の6地点で、オオハリアリの生息状況を調査した。すると、面積当たりの巣の数が米国では日本の約2倍と多いことが分かった。同時に、周辺は他の種類のアリの巣がほとんどなく、オオハリアリが在来アリを駆逐して繁殖している実態が判明した。

 さらに、オオハリアリが何を食べているかについても、餌の昆虫から検出される放射性炭素を分析して推定。その結果、日本ではシロアリを食べていたのに対し、米国ではシロアリのほか、イモムシやガの幼虫なども餌に。食性を変えて、他のアリの餌だった生きものまで食べていた。

イモムシなども餌に

 食性を変えることが可能ならば、なぜ日本では餌をシロアリだけに限定していたのか。研究チームの松浦健二・京大教授(昆虫生態学)は「シロアリは捕食が簡単そうに見えるが、実は兵隊アリに逆襲される危険がある。だが、イモムシなどを餌にしようとしても、日本の朽ち木周辺にはクロオオアリやクロヤマアリといった、これらを餌にする強いアリがいる。こちらとの競合の方がリスクが大きいため、シロアリを主食としていたのではないか」と話す。

 一方、米国での食性については「オオハリアリが侵入するまで、米国にはシロアリを食べるアリがいなかったため、豊富で安定した餌資源を背景に定着。競争者がいないため分布がどんどん拡大し、シロアリ以外も捕食する必要が生じたのだろう」と推測する。米国には、イモムシなどを食べる在来アリがいたが、オオハリアリの方が強く、容易に駆逐されたとみられる。

予測できない悪影響

 食料化が目的だったブラックバス、ハブ駆除の効果が期待されたマングース、サトウキビ畑の害虫捕食を目指したオオヒキガエルなど、「良かれ」と思って外来の生物が野に放たれたケースはいくつもある。だが多くは生態系を撹乱(かくらん)し、負の効果の方が大きい結末となっている。

 松浦教授は「オオハリアリの調査で明らかになったように、外来種は侵入先で生存競争に勝つため食性を急速に変化させるなどして生き延びる。その変化は生態系に予測できないほど大きなインパクトを与える。忘れられやすい事実だが、原産地での情報だけを基に侵入時の影響を想定することがいかに危険か、改めて確認された」と話した。(科学部 伊藤壽一郎)