狙われる女性声優 「あやち」を数年間苦しめた恐怖メールと男のゆがんだ愛情

衝撃事件の核心

 テレビアニメ「けいおん!」の人気キャラクター、中野梓役などで知られる声優の竹達彩奈(たけたつ・あやな)さん(28)の所属事務所に、「死ね」などと書いたメールを送信したとして、静岡県菊川市の無職男(32)が今月10日、警視庁捜査1課に脅迫容疑で逮捕された。“ファンクラブの元リーダー”をかたる男は、約4年間に7千通以上の脅迫メールを事務所や竹達さんの関係先に送信。複数のアドレスを使い分けていたことも判明した。声優をめぐってはここ数年、インターネット上での殺害予告や中傷などの悪質な犯罪が後を絶たない。“ゆがんだ愛情”の暴走に、関係者も警戒を強めている。

男を追い詰めた「ハイテク」捜査

 竹達さんの事務所やイベント関係者などに異様な内容のメールが届くようになったのは、平成26年ごろ。危害を加えることをほのめかすような内容もあり、事務所は警視庁に相談。メールを調べると、海外のサーバーを経由するなど複雑な解析が必要だったことから、捜査1課が誇るサイバー犯罪のエキスパート「ハイテク犯罪捜査班」が本格捜査に乗り出した。

 捜査班はまもなく、メールの送信元のインターネット上の“住所”にあたる「IPアドレス」を特定。男の所在を確認して自宅にあったパソコンを解析すると、脅迫メールを送信した形跡が確認された。しかし、パソコンが遠隔操作ウイルスに感染していたことから、外部から操作された可能性を含めて慎重に捜査を進めていた。

 そして昨年7月。竹達さんの事務所に再び脅迫メールが。「あやち(竹達さんの愛称)最近調子に乗りすぎ」「おれが何もしないと思ってるのがむかつく」「絶対許さない。死ね死ね死ね死ね死ね死ね」-。捜査班がこれらのメールの送信元をたどったところ、男の住む静岡県菊川市に隣接する掛川市内の漫画喫茶が浮上。メールが送信された時間帯の利用客を確認すると、送信元のパソコンが設置してある席に、男が滞在していたことが判明した。

 「私がやりました」

 捜査班の追跡に、男が観念した瞬間だった。

アイドル級の人気…声優が標的に

 14歳で声優養成所に入所した竹達さんは、平成20年にアニメ「kiss×sis(キスシス)」のヒロイン役で声優デビューし、21年の「けいおん!」の中野梓役でブレーク。24年には歌手としてもデビューするなど幅広く活動している。 

 近年、人気声優の多くはアニメの中だけの存在にとどまらない。ラジオやテレビ、ライブなどで本人の素顔が露出する機会も多く、アイドル級の人気を集めている。ツイッターやブログなどでファンとの交流を図る声優も多いが、そうした“距離の近さ”の反作用か、ネット上の接点を悪用してファンが凶行に走る事件もここ数年相次いでいる。

 27年7月には、竹達さんと同じく「けいおん!」に出演する佐藤聡美さん(31)に対し、佐藤さんのライブで「危害を加える」などとツイッターに書き込んだ男が警視庁に脅迫容疑で逮捕された。翌8月には、「ラブライブ!」などで知られる三森すずこさん(31)にネット掲示板で「殺す」などと書き込んだ専門学校生の男が逮捕された。男は「自分が好きな声優を三森さんのファンがけなしたので腹が立った」などと理不尽な犯行理由を語った。

 「NARUTO-ナルト-」をはじめ、アニメの声優や歌手として国民的な人気を持つ水樹奈々さん(38)も、脅威にさらされた一人だ。ファンの男がツイッターで殺害予告を投稿し、昨年2月、威力業務妨害容疑で逮捕されている。

メールへの恐怖と闘いながら…

 犯人逮捕を受けて、竹達さんは公式ブログで、ファンからの励ましの言葉に「ありがとうございます」とお礼を述べるとともに、数年間、メールの恐怖と闘いながら活動していたことを明かし、「今は少しの安心と、悲しさが入り交じった気持ちです」と複雑な心情を打ち明けた。

 ブログは、次のようなメッセージで結ばれている。「わたしと似たような境遇になっている方が少しでも減りますように 悲しい事件が起きませんように、心から祈っています」

 人気声優に恋人の存在などが発覚すると、怒りや罵声をネットに書き込むファンは多い。そこには、応援しながらも、自分勝手に作り上げたイメージを押しつけようとする“ゆがんだファン心理”も垣間見える。

 アイドル同様に活躍の場を広げる声優たちを、どのように守っていくのか-。今後も議論は続きそうだ。