中国軍、朝鮮戦争再開に備え臨戦態勢に 海軍陸戦隊版「仁川上陸作戦」とは!?

野口裕之の軍事情勢
2017年7月30日、中国人民解放軍建軍90周年を記念した閲兵式で待機する兵士ら=中国内モンゴル自治区(新華社=共同)

 韓国の文在寅政権や支持団体など北朝鮮との同化を謀るサヨク陣営は、北朝鮮の平昌五輪参加ではしゃいでいるが、中国・習近平指導部では人民解放軍部隊の大規模移動など、朝鮮戦争(1950~53年休戦)再開に備え臨戦態勢に入っており、危機認識の圧倒的格差を露呈している。反習近平派将軍の大粛清も、中国人民解放軍が一体となって朝鮮戦争再開に対処する布石という側面もある。

 ところが、朝鮮戦争緒戦で先鋒となる北部戦区(旧瀋陽軍区)は、習近平・国家主席の軍高官粛清や露骨な人事介入にもかかわらず依然、反習近平派の牙城のままだ。兵員削減の大ナタをふるわれた陸軍を中心に習近平指導部への不満も鬱積。かかる人民解放軍内の軍令・軍政の乱れは、朝鮮戦争再開で米軍プレゼンスの優位性を誘発するのなら、わが国としては歓迎すべき事象だ。

 ただ、人民解放軍が北朝鮮に進攻する場合、北朝鮮・朝鮮人民軍に味方し米軍と対峙、膠着状態に持ち込んで戦争を回避するのか? はたまた、習近平指導部に反発し始めた北朝鮮の頭越しに米中密約を具現化し、非核化に向け北朝鮮北部の核・ミサイル関連施設を占領するのか? 確たる展開は不透明感に包まれているが、人民解放軍海軍の陸戦隊がカギの一つを握っている。

米軍に焦がれる中国軍

 中国人民解放軍の動きが、不気味で慌ただしい。

 米国防総省は当然、監視を強めている。特筆すべきは近年、海軍陸戦隊の演習も徹底的に監視しだした点だ。例えば昨年12月、陸戦隊は黄海を隔て朝鮮半島をにらむ人民解放軍海軍の一大拠点・山東半島に点在する青島など軍港群をフル活用し、人員・装備を急速展開する演習を行った。

 海軍陸戦隊は広東省湛江に司令部を置く南海艦隊の隷下で、南シナ海に造成した違法海上軍事基地の防衛や外国と領有権を争う島嶼・礁の占領などを担任する。現有総兵力は2個陸戦旅団の1~2万。しかし、筆者は近い将来、北海艦隊司令部所在の山東省青島にも、朝鮮戦争再開を念頭に増強・新編した部隊が駐屯すると考える。陸戦隊全体では総員10万に、最終的には25万に達するだろう。陸軍の大幅削減とは対照的だ。

 人民解放軍の「文化」がそうさせるのだ。

 人民解放軍が強烈に意識するのは米軍。陸海空軍&海兵隊など軍種を超えた統合運用といった米軍の軍制を学習し、部隊・部局の統廃合を強力に推進する。習近平・国家主席が軍内の反習近平派の追い落としに軍組織の統廃合を利用していることは確かだが、習氏が権力掌握に乗り出すはるか以前より、人民解放軍は米軍をお手本にする。警戒の一方で、「米軍は世界最強だ」と焦がれてもいて、米海兵隊の運用・戦史に関する研究には余念がない。

 朝鮮戦争再開前夜にあたり、米海兵隊の研究結果を基に、中国人民解放軍の高級幕僚が策定する計画に「仁川(インチョン)上陸作戦もどき」が含まれていても不思議ではない。

 説明しよう。

 朝鮮戦争開戦後、朝鮮人民軍は南進を続け、米軍と韓国軍など朝鮮国連軍は後退を余儀なくされ、朝鮮半島東南端の釜山周辺に構築した釜山橋頭堡に追い詰められていた。

 朝鮮半島の赤化目前という危機的事態に対し、連合国軍最高司令官のダグラス・マッカーサー米陸軍元帥(1880~1964年)は半島西岸の真ん中に位置する仁川への上陸作戦を命じた。

 1950年9月、朝鮮国連軍がソウル西方20キロの仁川に奇襲上陸し→仁川を確保し→朝鮮人民軍に占領されていたソウルを奪回→米軍を主力とする朝鮮国連軍も釜山橋頭堡より打って出て、南北から朝鮮人民軍を挟撃した。

 補給路を絶たれた朝鮮人民軍は北緯38度線以北に撤退する。戦争の帰趨に大きく影響したこの重大局面で、主力の一翼を担ったのが米海兵隊だった。

 学習し、着々と現代化を図る中国人民解放軍海軍陸戦隊の朝鮮戦争再開時における運用方法は後述する。

米軍は中国軍の北朝鮮北部占領を容認する!?

 ところで、中国の習近平・国家主席は今月16日、米国のドナルド・トランプ大統領と電話会談し、平昌五輪をめぐる北朝鮮と韓国の南北会談の動きについて次のごとく語った。

 「朝鮮半島情勢に『前向きな変化』が現れている」

 「関係国は『緊張緩和』の勢いが続くようともに努力し、『対話再開』の条件を整えるべき」

 トランプ氏は「中国の役割を重視している。引き続き中国と『意思疎通』を強化していきたい」と述べた。

 米中2人の指導者の発言は、まるで信じられない。

 現下の朝鮮半島で『前向きな変化』は表向き。『緊張緩和』も『対話再開』も一時的な夢に過ぎぬ。それどころか、習国家主席は、昨年後半の首脳会談や軍高官同士の極秘接触でトランプ氏の戦意を確信したと、筆者は分析している。

 実際、昨年12月には、北朝鮮と接する中国・吉林省の共産党委員会機関紙・吉林日報が《核兵器の常識と防護方法》を掲載。核兵器が使用され核汚染された場合の対処方法を記した。吉林省内には数カ所の北朝鮮人用難民収容所が設けられた。

 吉林省など中朝国境地帯の中国人民解放軍部隊の移動も繰り返されている。

 朝鮮戦争時同様、中朝国境=鴨緑江を渡河し、北朝鮮側に雪崩れ込む態勢を整えているとの観測は可能だが、情勢はそう単純ではない。理由はこうだ。

 仁川上陸作戦で形勢は大逆転し→朝鮮国連軍は平壌を占領→一部部隊は鴨緑江の線に達した。1949年に成立したばかりの中国は当初介入に否定的だったが、朝鮮国連軍の接近の報に参戦を決心する。

 だが、対米全面戦争に踏み切れば、朝鮮半島を超えてソ連や中国の領土にまで戦線が拡大する事態は中国のみならず、ソ連も避けたかった。

 そこで人民解放軍の参戦部隊は義勇兵たる《人民志願軍》を装った。後詰めに100万を残し、20万の大軍が中朝国境=鴨緑江を越えたのである。

 朝鮮戦争再開となれば、人民解放軍は今度こそ堂々と鴨緑江を渡るだろう。

 もっとも、渡河後の進軍距離は正反対の2つの作戦目標によって大きく異なる。

 一つは、米軍の38度線突破を警戒して、平壌の後方で朝鮮人民軍の後詰めに入る。

 中朝両国は《中朝友好協力相互援助条約》を締結し、第2条で参戦条項を明記している。すなわち-

 《一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて戦争状態に陥ったときは、他方の締約国は直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える》

 軍事同盟にそい、鴨緑江を越えるパターンだ。

 ただ、安全保障関係者とシミュレーションした結果は先の朝鮮戦争を参考に、勝つ見込みのない米中全面戦争を避けるべく、38度線の突破は無論、38度線に近づくこともなく、《平壌の後方で米軍を牽制する》との結果が描き出された。米国主導の南北統一を防ぐハラだ。

 もう一つは、鴨緑江を渡河するものの、平壌手前までも進まず、100キロ先の北朝鮮北部に駐屯。当該地帯に集中する豊渓里など核・ミサイル関連施設を制圧する。

 一帯は中国の防衛識別圏でもあり、対中全面戦争は回避したい米軍も空爆を躊躇するエリアだ。逆説的には、北朝鮮の核・ミサイル関連施設建設は自動的に中国に守られている。

 こうした制約にある程度縛られる米国は、朝鮮半島の非核化で一致する中国との密約を具現化。習近平指導部の核・ミサイル開発の中断申し入れを突っぱねる北朝鮮を念頭に、米軍は北朝鮮北部占領を中国人民解放軍が担う展開を容認する。

 現に、米国のレックス・ティラーソン国務長官は昨年12月、以下公言した。

 「(38度線を)越える事態が起きても、状況が整えば南側に撤退すると中国に確約した」

 ティラーソン長官はまた、核拡散防止に向け、北朝鮮が保有する核兵器の確保手段についても「中国と既に話し合った」と語り、人民解放軍による北朝鮮北部の占領を強く臭わせた。

中国軍が練る二正面作戦

 さて、既述した中国人民解放軍海軍の陸戦隊が朝鮮戦争再開時、いかなる作戦行動を敢行するかに言及する。

 安全保障関係者と導いた《平壌の後方で米軍を牽制する》とのシミュレーション結果は紹介したが、鴨緑江渡河で平壌後方に進出するだけでは作戦の幅を担保できない。黄海をはさみ朝鮮半島対岸の中国・山東半島の海軍基地群を策源地に、海軍の各種揚陸艦や航空兵力などの支援を受け、兵員や水陸両用戦車などの装備を朝鮮半島西岸に陸揚げする渡海作戦と併用すれば、鴨緑江渡河との二正面作戦となり作戦の幅がグンと増す。

 もちろん、仁川に上陸して米軍と全面戦争するわけではないので、平壌の横っ腹に近い北朝鮮領を目指す。

中国軍の敵は中国軍北部戦区

 実のところ、人民解放軍海軍陸戦隊が平壌近くの北朝鮮領に上陸する作戦には、二正面作戦実現以外にも重大な戦略的意味がある。

 朝鮮戦争再開で、鴨緑江を渡り北朝鮮に入るのは人民解放軍の《旧・瀋陽軍区=現・北部戦区》隷下の部隊だが、習近平指導部にとり北部戦区は政治生命を左右する超危険な存在だ。 

 そもそも旧軍区=現戦区は、軍中央の支配が届きにくい半ば独立した軍閥で、習国家主席に逆らってでも北朝鮮を支援したい軍閥と、習氏に忠誠を誓う軍閥に大別される。裏では、利権と政争が薄汚く絡み合う。

 裏切り者を習国家主席が座視するはずもない。共産党によるシビリアン・コントロール=文民統制や軍中央の統制力を強化するべく、軍制改革を大胆かつ独善的に進めてきた。

 軍の最大単位=7個の《軍区》を5個の《戦区》に再編したのもその一環。

 軍種間の意思疎通&協力を阻害する縦割りや装備・業務の重複・無駄をなくし、「実戦的体制を構築し、現代戦に適合させる」という。が、実態は軍閥に近かった軍区の、習近平指導部による解体→中央集権化だ。

 注目は北京の頭越しに「対北独自外交」を繰り広げる瀋陽軍区を北京軍区に吸収合併できるかだった。

 前哨戦として、瀋陽軍区勤務が豊富で、同軍区に強く影響を及ぼす軍区内外の反習近平系軍高官の大粛清を断行した。反面、北京軍区司令官に習国家主席が手なずけていた上将を抜擢するなど布石を打ってはいた。

 布石にもかかわらず、クーデターが起きた。

 クーデターは小規模で鎮圧されたが、かくも抵抗勢力が跋扈する不穏な情勢では、瀋陽軍区を北京軍区に吸収合併するもくろみが達成できる道理がない。逆に、瀋陽軍区は北京軍区の一部だった内モンゴル自治区を北部戦区へと編入。人民解放軍海軍の要衝・山東省も飛び地の形で獲得し、膨張に成功した。 

 朝鮮戦争再開に備える旧瀋陽軍区には伝統的に軍事費が優遇され、最新兵器が集積されてきた。機動力に優れ、人民解放軍で最精強を誇る瀋陽軍区は北部戦区へと名を変えても、反習近平派の牙城であり、習氏にとり軍内最大の脅威であり続ける。

 しかも、旧・瀋陽軍区=現・北部戦区は習近平指導部に反発する北朝鮮・朝鮮労働党の金正恩・委員長といまだにベッタリだ。

 北部戦区高官の一族らは、鴨緑江をはさみ隣接する北朝鮮に埋蔵されるレアメタルの採掘権を相当数保有する。国連や日米韓、EU(欧州連合)などが北朝鮮に経済制裁を科している状況をよそに、北部戦区が密輸支援する武器+エネルギー+食糧+生活必需品や脱北者摘発の見返りでもある。

 もっと恐ろしい「持ちつ持たれつ」関係は核・ミサイル製造だ。中国人民解放軍の核管理は《旧・成都軍区=現・西部戦区》が担い瀋陽軍区時代も含め北部戦区ではない。旧・瀋陽軍区→現・北部戦区は核武装して、北京に対し権限強化を謀りたいが、北京が警戒し許さぬ。ならば、核実験の原料や核製造技術を北朝鮮に流し、または北の各種技術者を旧・瀋陽軍区→現・北部戦区内で教育し、「自前」の核戦力を完成するしかない。

 旧・瀋陽軍区→現・北部戦区が北朝鮮と北京を半ば無視してよしみを通じる背景には出自がある。

 中国は朝鮮戦争で、義勇兵たる《人民志願軍》を送ったが、実体は人民解放軍所属の第四野戦軍。当時、人民解放軍で最強だった第四野戦軍こそ瀋陽軍区の前身で、朝鮮族らが中心となって編成された「外人部隊」だった。北部戦区は延辺朝鮮族自治州も含み、軍区全体では180万人もの朝鮮族が居住する。

 中国と北朝鮮の歴史的な《血の友誼》関係は、北部戦区と北朝鮮の間に限定されたのだ。

 山東省の海軍基地群を策源地に朝鮮半島西岸上陸を想定する海軍と陸戦隊は一定程度、習近平指導部が掌握している。けれども、北部戦区は山東省も新たに管轄下に置いており、反習近平派が海軍や陸戦隊と利権・カネを媒介に、気脈を通じる可能性はゼロではない。 

 つまり、習国家主席は北部戦区を再度解体しなければ、北朝鮮に直接影響力を行使できぬだけでなく、既述した北部戦区を使った鴨緑江渡河による米軍牽制も困難になり、北朝鮮北部の核・ミサイル関連施設も押さえられない。

 他方、海軍や陸戦隊を投射する平壌近郊上陸作戦にも黄信号が点滅するが、赤信号点灯の恐れのある鴨緑江渡河作戦ほどのリスクはない。

 二正面作戦に障害が起きても、平壌近郊上陸作戦は続行したい戦略が隠れているようだ。

 とはいえ、習近平指導部に粛清された将軍のお陰で、利権や昇進絡みで甘い汁を吸っていた部下の将軍たちの不平・不満も極に達している。人員・予算の大幅削減を強いられた他戦区の陸軍将軍たちも然り。

 朝鮮戦争再開時、軍令・軍政が一本化できていなければ戦争どころではなくなる。

 中国大陸史にならい、傲岸無礼な「習近平帝国」が内部分裂し滅びれば、わが国にも束の間の平和が訪れるのだが…