誕生から10年「婚活」生みの親が男と女に鳴らす新たな警鐘

 
「婚活」という言葉が登場してから10年。誤解されていた側面もある(写真はイメージ)

 結婚することを目標に意識的な活動をすることを意味する「婚活」(こんかつ)は、中央大学の山田昌弘教授(家族社会学)が2008年に出版した「『婚活』時代」(白河桃子さんとの共著)をきっかけに、広がった言葉だ。一大ブームを巻き起こし、今年で10年。10年ぶりに改訂された「広辞苑」にも掲載されたが、果たして結婚をめぐる環境や日本人の結婚観は変わったのだろうか。「婚活」生みの親の山田教授に聞いた。

社会の変化を伝えた言葉

 「結婚活動」を略して婚活。山田教授が書いた「『婚活』時代」は、漫然と暮らしていては結婚できなくなった社会的背景を説き、結婚するには意識的に活動する「婚活」が必要だと訴え、ベストセラーとなった。台湾を中華人民共和国の一部として表記したり、LGBTの説明に間違いがあったりした広辞苑の第7版でも新たに「結婚相手を探すための活動」と紹介されている。

 婚活は「就活」をもじった造語。就活は、「就職活動」を縮めた言葉だが、就活も婚活も社会の大きな変化を背景に生まれた。

 かつては、学校を卒業すると苦労せずとも仕事は決まった。しかし、就職協定の撤廃や男女雇用機会均等法の施行など「規制緩和」が進んで選択肢が増えた結果、《なんとなく就職が決まる時代》は終わりを迎え、「就活」が必要な社会になった。

 一方、結婚は90年頃までは、見合いの斡旋(あっせん)も盛んだったし、職場は総合職の男性と一般職の女性が出会う場でもあった。恋愛のゴールが結婚で、いわば「規制された」市場だった。男性は仕事、女性は家事が基本的な考え方で、結婚後の生活様式は、ある意味画一的だったともいえる。

 「昔は男性はみんな定職についていた。見合いや職場結婚など、自動的に結婚相手と出会う環境があった。口べたで見た目に自信がなくても結婚はできました」と山田教授。

 しかし、90年代に入ると恋愛と結婚が分離した。見合いの数も減った。結婚する年齢もばらつき、ライフスタイルも多様化した。

 「結婚とはライフスタイルを共有すること。男性は仕事、女性は家事という共通認識があった時代と異なり、今は“すり合わせる”努力が必要」

 バブル経済が崩れると社会の格差が拡大し、希望通り就職できる人とフリーターになる人と2極化する。男性が稼ぎ、女性が家事をする、という従来型結婚のための経済力を備えた男性が減る。

 「就職、結婚は若い人にとって人生の2大イベント。かつて当たり前にできていたことが、非常に努力しないとできないようになった。そういった社会の変化をわかりやすく伝えた言葉が『婚活』なんです」

誤解された「婚活」

 そこから10年。婚活をテーマにしたドラマが作られ、書店には婚活本コーナーが設けられている。婚活は、いわば“市民権”を得た。

 「以前は『結婚相手を探している』などと言ったら、“モテない”というレッテルを貼られたが、婚活という言葉が広まったことで、『結婚したい』と他人に言うことは恥ずかしくなくなり、むしろ活動しないと結婚できないという理解が広まったんです」

 社会も変わった。企業や自治体による結婚支援が盛んになった。婚活サイト、結婚相談所、街コン…。婚活をめぐるビジネスやサポートが街にあふれている。

 「婚活」は大ブームになった。ところが、未婚率は改善されていない。若い男女の未婚率は、「『婚活』時代」が出版される前の05年よりも、出版後の10年のほうが上昇しているのだ。

 10年国勢調査によると、未婚率は次の通り。

 ・男性25~29歳=71・8%(05年比0・4ポイント増)

 ・男性30~34歳=47・3%(同0・2ポイント増)

 ・女性25~29歳=60・3%(同1・3ポイント増)

 ・女性30~34歳=34・5%(同2・5ポイント増)

 「そもそも『婚活』が誤解されたまま広まってしまった」

 山田教授は、この10年を振り返ってそう言うのだ。

 「『婚活』時代」が訴えたかったのは次の2点だった

 (1)待っていたって結婚はできない

 (2)夫に経済的に依存する結婚を目指すのは無理。女性も共働きを目指すのが良い

 ところが、実際には「婚活=『いい男の奪い合い』と誤解された。数少ない、収入の安定した男性を捕まえるために、早く活動しなくちゃいけないというふうに理解されてしまった」と山田教授はみている。

 つまり、経済的に男性に依存する、という従来型の結婚観を変えることができなかった。なぜか。山田教授の分析はこうだ。

 「そもそも日本人はリスクを避けたい、みじめな暮らしはしたくない、という意識が強い。また、仲間外れにされたり、周りから文句を言われることに対する恐怖心が強い。そんな中、出産で仕事を休んだり辞めたりすることがある女性が、収入面を男性に頼ってしまう。これは、個人として見ると合理的でもある」

 さらに、婚活ブームは予想外の事態を招いた。「恋愛の衰退」だ。

 男も女も経済的安定を最優先にしたら、恋愛が遠ざかってしまい、ますます結婚がしにくくなったのだ。

 「交際して別れる。いわば“リスク”を取れなくなっている。女性は『別れてしまうなら時間の無駄』、男性は『お金の無駄』と思ってしまう。つまり“恋愛はコスパが悪い”。もっとほかに楽しいことがあるだろう、と」

 また、恋愛よりも結婚が優先された結果、「条件面はともかく、交際してみたら良さが分かる人」が排除されてしまっている。

男よ変われ、女よ変われ

 山田教授が「婚活」を奨励してから10年。実態はむしろ、結婚が後退してしまっていた。いったい、どうしたら結婚できるのだろうか。

 「処方箋は、『「婚活」時代』で提示した方法と変わってはいないんです」と山田教授。

 結婚に対する考えを柔軟にすること。出会いの数を増やすため女性は積極的に外に出る。男性は経済力とコミュニケーションを身につけるために自分を磨く。これにつきるのだという。

 「日本の男性は、相手を積極的に誘ったり口説いたりすることができないですよね。間に何かを挟まないと、つまり街コンなどの場を設定したりしないと声をかけられないようです。その点で、自治体などの婚活支援は、積極的に誘えない男性の助けになることもあるようです」

 また、女性については「男性の好みは色々。ある研究者の調査では、女性の結婚の確率は、容姿や学歴、身長などで見ても差がなかった。美人だから結婚できるわけでもないし、容姿に自信がないからできないわけでもない。つまり、運によるところが大きい。だからこそ、出会う数を上げるしかない」。

 「婚活疲れ」という言葉さえ聞こえてくるようになった。経済力が足りない男性は結婚をあきらめ、女性は相手が見つからずに疲れ切る。

 「婚活」という言葉の生みの親である山田教授は、この10年を総括して、現代の男と女に警鐘を鳴らす。

 「男女ともに結婚したいのにできない状況。結婚のために積極的に活動する『婚活』が間違っているわけではない。ただ、男性が稼ぐという結婚観が変わらなかったことが大きい。結婚観や格差社会など構造的な問題を解決しない限り、改善しないのでは」(文化部 油原聡子)

 山田昌弘(やまだ・まさひろ) 中央大学文学部教授。1957年東京生まれ。東京大学文学部卒。同大学院社会学研究科博士課程退学。専門は家族社会学。「パラサイト・シングル」や「格差社会」の名付け親としても知られる。著書に「パラサイト・シングルの時代」(ちくま新書)「希望格差社会」(ちくま文庫)「『婚活』時代」(共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「モテる構造」(ちくま新書)など。