医師の偏在問題 僻地への派遣制度は解決の切り札になるか 山田隆司

iRONNA発
鹿児島県の離島で医療に取り組んでいた瀬戸上健二郎氏。強制派遣は医師偏在の解決になるか

 都市部に集中しがちな医師の偏在解消に向け、厚生労働省が医師の僻地(へきち)への「強制派遣制度」を検討しているという。ただ、強制となれば医師らの反発が予想され、制度の是非をめぐって議論が活発化している。強制派遣は解決の切り札になるか。(iRONNA)

 多くの医学部卒業生は優秀な指導医、効率のよい研修、ライフワークバランスのよい環境を求めて都市部、大病院、特定の診療科へ集中する傾向がある。平成30年度から開始される新専門医制度でも、地域偏在を解消する対策を講じたにもかかわらず、都道府県格差あるいは診療科間の格差が広がっており、地域偏在の流れを食い止めるどころかさらに加速させるような勢いである。

 そこで出てきたのが地域偏在の解消策として厚労省が検討している「僻地への強制医師派遣制度」である。強制派遣というといかにも物々しい印象で、医療界からは、「医師の自由を損なう」、あるいは「プロフェッショナルオートノミー(職業的自律)に委ねるべきだ」などという反論が聞こえてきそうだ。しかし、今や反論しているだけではすまされない状況で、国全体の地域医療をどうやって守るのか、医療者全体のあり方が問われている。

社会的責務

 そもそも医師という職業自体が社会的責務を負っているからこそ、プロフェッショナルオートノミーが尊重されるのであって、この対応によっては日本社会における医師という職業の価値観に影響を及ぼすと言っても過言ではなかろう。

 これまで僻地など、医師不足地域の問題は、実際にそういった地域の病院や診療所の開設者・管理者の問題であり、主に自治医大や、地域枠の卒業生が担うべきことだとしか認識されてこなかった側面がある。多くの医師には当事者意識がなかったと言ってよい。奨学金という金銭的な契約で拘束された対象者だけで解決すべきだという極めて短絡的な手法に頼っていたのである。

 単なるインセンティブを与えることで、一部の医師のみが関係する問題として帰結してしまわないよう十分留意する必要がある。

 今回は「医師少数区域」での一定期間以上の勤務経験を有する医師を厚労省が認定し、認定医師であることを広告可能としたり、地域医療支援病院など、一定の病院の管理者になる際に評価したりすることが提案されている。

 筆者は自治医大卒業生であり、義務として僻地医療に従事してきた医師であるが、その立場からは僻地医療の経験が評価されることについては喜ばしい提案だと受け止めている。僻地や医師不足地域の問題が一部の特定の医師の問題ではなく、多くの医師が関わることにつながる施策が提案されることに賛意を表したい。地域偏在の問題を不足する地域だけが問題視し、対策を講じようとしても所詮無理があるからだ。

人格形成に有効

 また、僻地医療の問題に取り組むことで、これまで日本の医療がないがしろにしてきた課題が凝集してみえてきた。これまでの臨床医養成がともすると疾病に対する知識、技能の習得に傾きがちで、患者を取り巻く家族、地域社会などを理解し、それを踏まえた上で診療することで社会貢献につなげようとするような幅広い人格形成の面がおろそかになってきたことは否めない。そのような視点からみれば地域での研修、とりわけ家族やコミュニティーを理解しやすい僻地のような地域は臨床医にとって人格形成の面でこの上なく恵まれた環境なのである。

 医学生は低学年から地域で住民に触れ、コミュニケーションを学び、医療者として信頼されるような人格を養成する。特に初期研修や総合診療研修では主に医療資源が限られた地域の中小規模の病院を活用することで、基本的な診療能力が鍛えられる。

 臨床医のキャリア形成のなかで、すべての医師が僻地を含めた医師不足地域を経験し、多くの医師が被災地や医療資源に恵まれない地域の住民に配慮できるような、そんな医師養成が実現することを望むばかりである。

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 【プロフィル】山田隆司(やまだ・たかし) 公益社団法人地域医療振興協会地域医療研究所長。昭和30年、岐阜県生まれ。自治医大卒。県立岐阜病院で研修後、揖斐郡久瀬診療所(現揖斐郡北西部地域医療センター)で約20年、第一線の地域医療に従事。現在、台東区立台東病院管理者や岐阜大医学部地域医療医学センター特任教授なども務める。