文在寅政権、自軍の対北作戦を鈍化させる?韓国「裏切り」予知、米国は対韓情報統制!

野口裕之の軍事情勢
朝鮮戦争休戦64周年に際した朝鮮人民軍陸軍・海軍・航空および対空軍将兵の決意大会=7月25日、平壌・祖国解放戦争勝利記念塔の教育広場(朝鮮中央通信=朝鮮通信)

 「ゴルフを一緒にプレーすると『人柄』もよくわかる。私は(ドナルド・トランプ米大統領を)を信頼できると考えている」

 安倍晋三首相は19日、東京都内での講演でこう述べた。11月に来日したトランプ大統領とのゴルフ中にバンカーで転倒した際、大統領から「『(後ろに回転した後の起き上がり方が)どの体操選手よりもすばらしかった』と褒められた」とするエピソードに関連して発した言葉だった。

 だが、「ゴルフを一緒にプレー」して「よくわかる」のは『人柄』だけではない。米国の大物政治家の場合、北朝鮮攻撃に備えた軍事上の戦略・作戦情報まで知り得る可能性を秘める。

 米国共和党の重鎮にして上院軍事委員会のメンバーであるリンゼー・グラム上院議員は14日発売の米誌アトランティックのインタビューに次のごとく答えた。

 「北朝鮮がもう一度大陸間弾道ミサイル(ICBM)といった長距離ミサイルを発射すれば、トランプ大統領が軍事オプションを選択する確率は30%。加えて、7回目の核実験を行えば、トランプ共和党政権が北朝鮮を軍事攻撃する確率は70%に跳ね上がる」

 グラム上院議員は10日、トランプ大統領とゴルフに興じており、ラウンド中は「北朝鮮情勢が常に話題にのぼった」とか。

 しかし、小欄は一貫して「北朝鮮労働党の金正恩・委員長が核・ミサイル開発を検証可能な形で完全放棄せぬ限り、米国の対北攻撃は不可避」と繰り返してきた。従って、軍事攻撃確率「70%」は織り込み済み。

 注目したのはグラム上院議員の別の発言だった。すなわち-

 「精密誘導攻撃(のみに頼る)オプションはない。金正恩体制に対する全面戦争になる」

 「平壌の支配者・中国の動向にかかわらず、解決策は北朝鮮の体制転換になるだろう」

 「いったん軍事的オプションを採用したら、核・ミサイル関連施設を無力化するだけでは不十分だ。体制を完全崩壊させねばならない」

 一連の発言が、ゴルフ相手=トランプ大統領のプレー中の発言を再現したものか否かは定かではない。ただ、発言に接し真っ先に頭に浮かんだのが《統合戦力軍司令官時代のジェームズ・マティス米国防長官による統合作戦論》と《レックス・ティラーソン米国務長官による北朝鮮に関わる4つのノー》だった。

 説明が必要だ。

地上兵力も重視するマティス国防長官の理論

 まずは、朝鮮戦争が再開した時の作戦推移をお復習いしてみる。

 米軍の対北先制攻撃作戦の緒戦における基本パターンは《北朝鮮・朝鮮人民軍の各司令部など軍事中枢+レーダーなど軍事施設+ミサイル・砲兵部隊…に対する数派にわたる大規模・猛烈な各種ミサイル・爆弾攻撃》→《有人・無人の航空戦力を投射した、朝鮮労働党の金正恩・委員長を頂点とする党・軍首脳への精密誘導(ピンポイント)攻撃》を、念頭に置く。

 攻撃前&攻撃中にサイバー攻撃や電子妨害で、朝鮮人民軍の《C4ISR=指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察機能》を遮断する作戦の併用は言をまたない。各種ミサイル・爆弾の中に、地下の要塞・坑道を破壊する《大型バンカー・バスター》や爆風で敵を殲滅する《気化爆弾》も投入されるはずだ。

 当然ながら、《各種ミサイル・爆弾攻撃》も《精密誘導攻撃》も《サイバー攻撃》も《電子妨害》も、北朝鮮の核・ミサイル関連施設の破壊・機能不全が最重要任務になる。 

 戦争後半を例外とすれば、地上軍は要人の暗殺・拉致任務を帯びる大規模な各種特殊作戦部隊の潜入に限られる公算が大きい。

 けれども、ミサイルや航空戦力と最低限の地上兵力で、雌雄を決する戦果は得られない。米軍には苦い経験がある。

 マティス国防長官が統合戦力軍司令官(海兵隊大将)だった時分に記した論文を読み返した。 

 マティス氏は論文などで、《効果に基づく作戦=Effects-Based Operations=EBO》を完全否定した。EBOはミサイルや航空戦力を主力に迅速・効率的な作戦目標完遂を目指し、地上兵力を軽視する。マティス氏は、EBOでは作戦目標の完遂は無理だと断じ、ミサイル・航空戦力に十分な地上兵力投入を組み合わせ、情報収集→火力の誘導→敵の撃破→拠点制圧を網羅する統合作戦を主唱した。

 マティス論文では、《砂漠の嵐作戦=1991年》や《コソボ作戦=1999年》、それに《イラク戦争=2003~11年》など、米軍が絡むEBOが失敗の連続だった戦訓も引き出している。

 イスラエル軍も然り。イスラエル軍は2006年、レバノン南部に潜伏していたイスラム教シーア派武装組織ヒズボラに対し、EBOに偏重した、激烈な空爆を実施した。イスラエル軍警備小隊がヒズボラに急襲され、8名が戦死し2名が拉致された被害への報復だった。

 米軍は3日間続いた空爆を総括し、《ヒズボラの軍事施設破壊は7%で、指揮系統にも痛打を与えなかった。航空戦力への過信が根源に存在し、全く効果がなかった》と分析。イスラエルの情報機関も《激烈な空爆と小規模の地上軍のみでは、拉致された2名も奪還できず、ヒズボラのロケット攻撃も漸減させられなかった》と結論付け、イスラエル政府高官に上申している。 

 国防長官に就任したマティス氏は今なお、EBOに極めて懐疑的で、対北攻撃作戦でも相当数の各種特殊作戦部隊を含む地上軍の投入時機を沈思黙考する。

 米軍最高司令官たるトランプ大統領も、自らが軍事の素人だと自覚しており、名将マティス氏の軍事合理性に徹した助言を素直に受け容れている。この点、官僚が作戦レベルに政治介入して泥沼化を誘発したベトナム戦争やイラク戦争での誤りを、トランプ大統領は繰り返さないと思う。

 以上を整理してみると、「精密誘導攻撃(のみに頼る)オプションはない。金正恩体制に対する全面戦争になる」との、グラム上院議員の発言は表層的には北朝鮮への圧力だ。ただ、グラム発言の裏には「トランプ大統領の影」が、さらにその裏には「マティス国防長官の影」がちらつく。金正恩体制が核・ミサイル開発の完全放棄をせぬ場合のトランプ共和党政権の覚悟と言い換えてもよい。

米国務長官提唱の「4つのノー」は「南北同化」を加速

 一方、《レックス・ティラーソン米国務長官による北朝鮮に関わる4つのノー》とは、米空母カール・ビンソンが日本海に展開していた5月、ティラーソン国務長官が唐突に発出した対北融和策であった。すなわち-

 (1)金正恩体制の転換を求めない。

 (2)金正恩体制の崩壊を求めない。

 (3)南北統一を急がない。

 (4)米軍は38度線(南北軍事境界線)を越境する口実を見つけようとしない。

 《4つのノー》は、北朝鮮へ石油を垂れ流す中国共産党を対北経済制裁強化に踏み切らせる米国の誘い水だ。

 そうであるのなら、米国側は事前に中国共産党の目指す着地点を水面下の米中協議で探り、中国側も示唆・注文したはず。《4つのノー》は「中国共産党の描く戦略と同義」と断言してさしつかえあるまい。国連の経済制裁に伴い、中国が北朝鮮からの石炭・鉄鉱石・水産物の輸入制限をアピールするのも《4つのノー》を順守させ、米国に対北攻撃回避を促す狙いに他ならない。

 《4つのノー》を意識して、グラム上院議員の残り2つの発言(=トランプ大統領の発言?)を振り返ってみる。

 「平壌の支配者・中国の動向にかかわらず、解決策は北朝鮮の体制転換になるだろう」

 「いったん軍事的オプションを採用したら、核・ミサイル関連施設を無力化するだけでは不十分だ。体制を完全崩壊させねばならない」 

 「体制転換」も「体制の完全崩壊」も、ティラーソン国務長官の《4つのノー》とは正反対の近未来図だ。「トランプ共和党政権がアメとムチの使い分けをして、北朝鮮や中国を揺さぶっている」といった観測も根強い。が、アメに当たる《4つのノー》は、韓国で親北極左の文在寅政権が存続する限り、米国の国益を著しく減ずる愚かな約束でしかない。

 北朝鮮の金正恩政権を延命させ、核・ミサイル開発を完結させる時間を与えるばかりか、親北極左の文在寅政権との「南北同化」を加速させる。文在寅政権がすり寄る中国の対米緩衝帯(=北朝鮮)も、韓中協力で強化されるのだ。

米国は韓国の裏切りに備えている

 「南北同化」「韓中合作」の兆しは濃厚だ。

 そもそも、米軍と韓国軍による米韓連合作戦は、韓国軍が38度線(南北軍事境界線)を死守する戦法を大前提にする。さすれば先述した通り、米軍は各種ミサイルや有人・無人の航空戦力で北朝鮮猛爆が可能となる。

 ところが、文在寅政権の幹部たちの言動は極めて怪しい。

 文在寅政権の統一・外交・安全保障担当大統領特別補佐官の文正仁氏は平然と言ってのけた。

 「北朝鮮を事実上の核保有国と認めよう」 

 「北朝鮮が核・ミサイル開発を中断すれば、韓米合同軍事演習と米軍の戦略兵器を縮小できる。これは文在寅・大統領の考えだ」

 「北朝鮮が非核化に応じないと対話をしないとの米国の考えには反対だ」

 文正仁・特別補佐官は文在寅・大統領の本音の代弁者ともいわれる。

 韓国はまた、中国の《関係改善の3条件=3つのノー》要求をほぼ無条件で呑み、ほぼ満額回答で応えた。

 (1)米国のミサイル防衛システムに加入しない。

 (2)日米韓の安全保障協力は軍事同盟に発展しない。

 (3)北朝鮮・朝鮮人民軍の核・ミサイル攻撃などより韓国を守る米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)システムの追加配備をしない。

 《3つのノー》を丸呑みしたのも、文在寅・大統領と文正仁・特別補佐官の共通方針だ。

 既に(2)は実行に移された。朝鮮戦争再開前夜の危機的状況下、11月14日まで日本海で行われた日米(韓)共同演習の直前、韓国は参加を拒否。日米と米韓の分離演習を成功させたのだ。

 もっとも、米国防総省では文在寅政権発足の5月以降、韓国軍への情報統制を強化。文正仁・特別補佐官や筋金入りの親北活動家、任鍾晢・大統領室長らが北朝鮮側に米・韓軍情報を通報するとみて、通報者の割り出しに向けニセ情報すら流し始めた、という。確かに、文在寅・大統領が「韓国の『事前』同意のない朝鮮半島での軍事的行動はあり得ない」と、繰り返し演説するのも、北朝鮮への『事前』通報を予感させる。

 在韓米軍でも、韓国軍最高司令官の文在寅・大統領が朝鮮戦争再開時、韓国軍の作戦行動を鈍化させ、半ば静観を命じる事態に備えている。

 米国が「韓国の裏切り」を予知している兆候は、既に現出した。

 《4つのノー》の一つとして《米軍は38度線(南北軍事境界線)を越境する口実を見つけようとしない》と公言したティラーソン国務長官も、今月の講演では驚くべき機密を口にした。

 「『米軍が38度線を越えて北朝鮮に入ったとしても、状況が整えば韓国側に撤退する』と中国側に確約した」

 韓国軍が作戦行動を鈍化させても、米軍は「米中密約」に沿い、韓国の頭越しに北朝鮮を成敗すると宣言したに等しい。文在寅・大統領はのけ反ったに違いない。

 11月に中国の習近平・国家主席と会談したトランプ大統領は「問題解決の時間はなくなりつつあり、『全ての選択肢』が依然、テーブルの上にある」と伝えたが、『全ての選択肢』に、韓国大統領命令で「洞ヶ峠を決め込む」韓国軍への対抗作戦が加わったのだ。

 米軍は、韓国に対して《彼我(敵・味方)の識別》を開始したのである。