専守防衛が導く「本土決戦=一億総玉砕」 北の攻撃に座して死を待つ日本 韓国は?

野口裕之の軍事情勢
12月6日、朝鮮半島上空で韓国空軍と共同訓練を行った米空軍のB1爆撃機(中央)など(韓国国防省提供・AP)

 在日英国大使館の政治・外交部門と安全保障部門は過日、14日にロンドンで開かれた日英両国政府による《2プラス2=外務・防衛閣僚協議》に備え、本国に重要報告を打電したに違いない。報告の一つは、日本政府が打ち出した、航空自衛隊の戦闘機用に射程900キロと同500キロの米国製&ノルウェー製の地上・艦艇攻撃用巡航ミサイルを導入する方針。日英両国政府は空対空ミサイルの共同開発を進めており、来年度に予定する試作に向け、自衛隊の兵器体系を注視するのは当然だ。

 ただ、筆者は英国駐在の経験が頭をかすめ、打電文に関してマイナスの想像をめぐらしてしまった。こんなふうに-。

 《日本はいまだに大日本帝國時代の『本土決戦=一億総玉砕思想』を引きずっている》

 英国大使館の担当者は日本のメディア報道を通し、日本政界で起きている不思議な論議を打電したはずだ。導入方針を固めた巡航ミサイルは自衛隊の現有ミサイルに比べ、射程が5倍以上に延伸したことで、さっそく政界ではサヨクを中心に「敵基地(策源地)攻撃ができてしまう。専守防衛に反する」との愚論が出てきたのである。

 《専守防衛》は戦後平和主義がまき散らした毒の中で、最もタチの悪い平和を乱すデマゴギーであった。専守防衛は、大東亜戦争(1941~45年)末期に叫ばれたものの、大日本帝國も回避した「本土決戦=一億総玉砕」に他ならない。

なすすべもなく敵にいたぶられる滅亡のシナリオ

 英国大使館の打電文に勝手に抱いたマイナス・イメージには理由がある。

 英国駐在だった2001年秋、アフガニスタンで米中枢同時テロに端を発した対テロ戦争が勃発し、戦況を把握すべく英国の国防省や情報機関に日参した。その際、日本の参戦可能性を逆質問され、専守防衛の説明が何と難しかったことか。自衛隊との接触経験のない欧州軍所属の米軍人も、一様に怪訝な顔をした。

 ジョン・ウッドワード退役英海軍大将にインタビューした際も、専守防衛を理解してもらうのに、英国人助手の力を借りても1時間かかった。ウッドワード提督は、南大西洋上の英領フォークランド島がアルゼンチン軍に占領された紛争時、奪回作戦の総司令官だった。提督は明らかにあきれながら口を開いた。

 「なんと危険な戦略なのか。英国の場合、外部の脅威にさらされたら、先制攻撃も含め軍事行動を起こさねばならない。迎撃は本土より可能な限り遠方で実施するのが、英戦略の根幹を構成している」

 基本的に、島国の防衛線は隣接する大陸部の沿岸に引くことが軍事的合理性にかなう。大陸国家の侵攻意図を未然にくじき、海洋国家の存亡を決めるシーレーンの安全を確保する戦略が求められるからだ。英軍が空母を建造・保有し、大陸の主要港を制圧できる外征戦力を備えているのも、かくなる明確な戦略に従っている。

 日本はまったく逆の方針を採る。専守防衛の自虐・自縛的解釈を続け、自衛隊は敵の基地を攻撃できるミサイルや爆撃機、空母などを保有せずにきた。それゆえ、自衛隊の保有兵器に比べ長射程の兵器で日本を攻撃する《スタンドオフ攻撃》を敵が仕掛ければ、わが国はなすすべもなくいたぶられる。敵の兵器は日本国土に着弾し、自衛隊の兵器は敵に届かない…滅亡のシナリオだ。

 敵基地を攻撃するのは、敵の侵略が不可避になった時点であり、日本国憲法も政府答弁も敵基地攻撃を認めている。にもかかわらず、敵基地攻撃の手段を講じない現状は、安全保障政策上の怠慢だ。敵基地攻撃兵器はあくまで「能力」であり、「能力」を行使するか否かは「意図」に基づいた国会の判断だ。自国の民主主義に自信を取り戻さないでいると、軍事費を湯水のように注ぎ込む中国の脅威や国民生活の犠牲を、自ら引き込む惨禍を生み出す。

 そもそも、わが国は専守防衛が許される国防体制・態勢を備えていない。侵攻してくる敵に大損害を強要する「戦略」と「適正戦力」を持って、初めて専守防衛が許される。が、日本には専守防衛を完遂するだけの「戦略」も「適正戦力」もない。

 「戦略」と「適正戦力」の確保を阻んでいる障壁の一つが、日本政府が策定した《国家安全保障戦略》であり《防衛計画大綱》だ。

 以下、説明する。

矛と盾の任務分担が消滅した日米同盟

 安倍晋三首相は9月11日、第51回自衛隊高級幹部会同で訓示し、小野寺五典防衛相に安全保障政策の基本的指針《防衛計画大綱》の見直しと、《次期中期防衛力整備計画》の検討を指示した。

 北朝鮮がばく進する核・ミサイル開発や中国人民解放軍の異常な軍事膨張など、周辺情勢の激変を受け、大綱はわずか4年で見直しとなった。自民党政権下では最短の見直しであり、安倍首相が抱く安全保障への緊張感がうかがえる。

 《国家安全保障戦略》を踏まえた現行の25大綱は《積極的平和主義》に立脚し、《防衛力等を強化し、自らが果たしうる役割の拡大を図る》とうたう。

 けれども、《国家安全保障戦略》や《防衛計画大綱》はいまだに《専守防衛》や《非核三原則》を盛り込む。

 非核三原則とは、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」とする、日本が採る核兵器への立ち位置だ。

 専守防衛や非核三原則が盛り込まれていると、わが国は「戦略」も「適正戦力」も確保し難い。国家主権も国民の生命・財産も守れぬ日本国憲法と並び、専守防衛や非核三原則は敵の敵基地攻撃を含む抑止力を削ぎ落とす、戦争を誘発する危険因子なのだ。

 こう論ずると、日米同盟は「米軍は矛・自衛隊は盾」との戦略分担論で反論してくる専門家も多い。しかし、もはや矛・盾の境は一定程度撤去されている。

 2015年4月に改定された《日米防衛協力のための指針=新ガイドライン》を読めば歴然とする。いわく-。

 《自衛隊及び米軍は、日本に対する弾道ミサイル攻撃に対処するため、共同作戦を実施する》

 《自衛隊は、日本を防衛するため、弾道ミサイル防衛作戦を主体的に実施する。米軍は自衛隊の作戦を支援し補完するための作戦を実施する》 

 一方で、1997年9月策定の《旧ガイドライン》での文言は違っていた。

 《自衛隊及び米軍は、弾道ミサイル攻撃に対処するために密接に協力し調整する。米軍は、日本に対し必要な情報を提供するとともに、必要に応じ、打撃力を有する部隊の使用を考慮する》

 つまり、旧ガイドラインにあった《米軍は、必要に応じ、打撃力を有する部隊の使用を考慮する》との、敵基地攻撃を明記していた条項が新ガイドラインでは削除。全面戦争を除く《弾道ミサイル防衛作戦》においては、日米《共同作戦》の下、自衛隊が《主体》となるのである。

親北極左の韓国・文在寅政権でさえ北基地攻撃力を宣伝した

 ところで、親北極左の韓国・文在寅政権でさえ、将来はともかく、今のところはさすがに専守防衛や敵基地攻撃禁止にカジを固定してはいない。

 

 北朝鮮が6回目の核実験を強行すると、対抗措置の一環として韓国空軍は9月、《タウルス空対地巡航ミサイル》の発射試験を行い、成功した。タウルスの発射試験は初めてだった。

 タウルスはドイツ製で、射程は500キロ。2016年10月に韓国に引き渡しが始まったばかりの巡航ミサイルだ。計画では、170発~180発導入するという。

 タウルスは上空で発射後→翼を広げ→海上や陸地ぎりぎりの低空を地形をぬうように亜音速(マッハ0.65~0.9)で飛行→標的の直前で急上昇し→ほぼ垂直に降下して標的を殲滅する。

 最終段階をクローズアップすると、標的たる地下要塞・坑道に上空より垂直に突き刺さり→先端の爆薬が炸裂し、コンクリートなどで強化された防護壁を貫通→さらに深く突き進み→地中で後部にセットされた爆薬が遅れて爆発する…2段がまえの破壊力を有する。地下8メートルまで貫通させる威力を持つ。

 ステルス性も高く、かつ、球形の地球を低空で侵入するので、水平線を越えるまで敵レーダーには探知され難い。

 9月の発射試験でも、黄海上空のF-15K戦闘攻撃機が発射したタウルスは、空中に設置した障害物をGPS誘導能力で避けながら400キロ飛行し、島の標的=模擬建屋に命中させている。

 特筆すべきは、誤差1メートルの命中精度を強調せんと、9月の発射試験では爆薬を詰めずに撮影画像の鮮明化を優先。朝鮮労働党の金正恩・委員長の指導部などを狙う《斬首作戦》での投入など、北朝鮮の軍事・政治中枢や核・ミサイル基地を急襲する先制攻撃能力を積極的に誇示・宣伝した。

 わが国では愚かにも、こうした「戦力誇示」を「周辺諸国の脅威になる」として実行しない。ところが、自衛隊が「周辺諸国の脅威」とならねば抑止力は発揮できない。「戦力誇示」は、日本が韓国に学ぶ数少ない軍事常識だろう。

 だが、「戦力誇示」だけで抑止力の発揮は完結しない。 

 北朝鮮&中国のように《戦争したい国》や《戦争をする国》に対抗するべく、わが国は《戦争ができる国》にならなければいけない。《戦争ができない国》では、抑止力が効果的に機能しないからだ。

 わが国は、北朝鮮や中国をにらみ、平和を乱し戦争を誘発する専守防衛や非核三原則を見直し・廃止しなければならない。

 健康オタクは「健康のためなら死んでも良い」と考えるが、戦後平和主義オタクも「専守防衛堅持のためなら死んでも良い」と思っているのだろうか。

 戦後平和主義オタクとの無理心中なぞ、真っ平御免だ。