北方領土はプーチン氏圧勝なしには動かない 「総理、今です!」の時は来るか

外交・安保取材の現場から
安倍晋三首相(左)とロシアのプーチン大統領の日露交渉は来春まで「冬眠」状態に入る見通しだ=11月、ベトナム・ダナン(共同)

 北方領土問題の解決に向けた日露交渉は、来春まで“冬眠”期間に入る見通しだ。来年3月のロシア大統領選まで日露首脳会談が開かれる予定はなく、両首脳の強力なリーダーシップを抜きにして領土交渉の進展は見込めないからだ。外務省はその間、北方領土での共同経済活動の実現に向けた協議を事務レベルで断続的に進める方針で、日露交渉全体に停滞感が漂わないよう腐心している。

 「最低限のものは取れた」

 11月10日にベトナム中部ダナンで行われた日露首脳会談後、外務省幹部は安堵(あんど)した様子で語った。

 北朝鮮問題を除けば、会談で合意できたのは、共同経済活動に必要な法的枠組みを議論する局長級作業部会の年内実施と、年明けの次官級協議の開催ぐらいで、めぼしい成果とはいえない。

 それにも関わらず、外務省幹部が安堵していたのは「大統領が約束していない」と今後の事務レベルの協議を露側が反故(ほご)にする懸念があったからだ。

 露外務省をはじめ、「四島は戦争の結果、ロシア領土になった」とする対日強硬派は領土交渉に否定的な立場だ。再選が確実といわれるプーチン大統領(65)でさえ、選挙が近づけばそうした勢力に配慮せざるを得ない。日本に妥協して世論の反発を買うのは避けたいからだ。大統領選まで首脳会談が開けないのも同じ理由だ。

 一方、裏を返せば、プーチン氏が盤石の政権基盤を確保した大統領選後は、強硬派を押さえ込んで大胆な決断をする可能性が出てくるだけに、好機となり得る。安倍晋三首相(63)が10月の衆院選で大勝したことも領土交渉においてはプラスの要素だ。

 外務省幹部はこうしたことを念頭に「大統領選後は勝負をしなければならない」と話し、来年5月の安倍首相の訪露に向けて準備を急ぐ構えだ。

 鍵を握るのは来年1月下旬から2月にかけて開催予定の次官級協議の成否だ。領土交渉に入る前提となる共同経済活動を実現するためには、日露双方の法的立場を害さない「特別な制度」が必要だが、露側は特別な制度に関して強硬な姿勢を崩していない。特別な制度の創設で露側と合意できなければ、共同経済活動は「絵に描いた餅」で終わってしまう。

 また、仮に特別な制度の創設で合意できたとしても、日露交渉には課題が山積している。プーチン氏は折に触れて安全保障上の「日本の同盟国に対する義務」に言及し、北方領土を日本に引き渡した後に米軍が展開する可能性を示唆して揺さぶりをかけてきている。

 日露関係改善の障害となってきたのが米国であるのも事実で、昭和31年に2島返還を先行しようとした重光葵外相(当時)はダレス米国務長官(同)に「2島返還を受諾した場合、アメリカは沖縄を返還しない」と恫喝(どうかつ)された。

 このことは、日露交渉が2国間だけでは進まない厳しい現実を示しているが、現在の日米関係は安倍首相とトランプ米大統領(71)の個人的な信頼関係によって強固なものとなっており、「外交上の資産」(外務省筋)とみる向きもある。

 日米交渉筋は「トランプ氏が大統領に就任してから、日露交渉が問題として議題に上ったことはない」と話し、別の外務省幹部は「トランプ氏に『日本がこれだけ頑張っているのだから、わかってくれ』と言ったら、何とかなるのではないか?」と楽観的な見方もする。

 露大統領選で権力基盤を固めたプーチン氏に決断を迫るため、どこまで準備できるか。日本政府関係者は「外交は常にトップダウンだ。日中国交正常化も沖縄返還もそうだった。事務方は準備をして『総理、今です!』と決断を仰ぐのが仕事だ」と語る。 (政治部 大橋拓史)

 北方領土 北海道の北東に連なる択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島で構成する日本固有の領土。江戸時代から日本人が開拓し、住み着いたが、1945(昭和20)年の第二次世界大戦後にソ連が侵攻し、現在のロシアも不法な占拠を続けている。安倍晋三首相はロシアのプーチン大統領との間で領土問題解決に取り組むが、返還の具体的なめどは立っていない。

 北方領土での共同経済活動の具体的事業としては、日本側が北方四島の自然を生かしたアウトドアの観光ツアーを検討しており、次回の局長級作業部会で協議する見通し。北方領土には手つかずの自然が残っており、山登りや釣り、国後島から望む知床半島の夕日観賞などが候補として挙がっている。